第四十四話 工作での原則禁止事項
俊の発言に石光はふにゃふにゃな笑顔となり、戻る気配は見られない。
「ほら、シャキッとしないと!」
石光のあまりにも腑抜けた状態に呆れた俊は注意する。
「ええ~?えへへ」
しかし、石光に注意は届いている様子はなく、俊は軽く咳払いをした。
「盛り上がってるところ大変申し訳ないんですが、石光さんの愛の告白を了承したわけでもなんでもないわけですから」
「おっ?おっ?ツンデレ?ツンデレ?……ごめんごめん、冗談だよ。わかってる、学校ではこうならないようにするから。あと、学校では小野寺君を見ない。……にやけちゃってるでしょ、私?」
石光が自分のにやけてる顔を指さして、『どうしようもないんです』と訴えかけると、俊は腕を組んで小首を傾げた。
「……まぁ、分かっているなら十分注意してください。それにしても、喜びすぎでは?尻尾ついてたら、楽しみな散歩を目前にした犬のようにブンブン振ってそう」
「だって、今日は大進歩だよ。いくら話しても棒にも箸にも掛からなかったのに、こうやって話せてるし、連絡すれば二人きりで会える確約も得られたわけだし、好きな人をもっと好きになれる機会が増えるわけだし!」
ウキウキな石光に対し、俊は冷めた表情で、へっと鼻で笑う。
「嫌いになる機会の間違いじゃないですかね?」
俊が好意に対してことごとく否定したり、斜に構えたりするので、石光は俊がどうしてその様な行動をするのか、頭をフル回転させた。
「……おーい、石光さーん」
頭をフル回転させている石光は、思考することに全力を注いでいるため、無表情で固まっていた。まるでSFに出てくる人型アンドロイドが機能を停止させているようだった。
「……あっごめん。考え込んでた。なんで小野寺君が私の好意に塩対応なのかって。さっき、ヒューミントで情報を収集する場合は、友人になった方が良いっていってたよね?それと逆のことしてるんだもん、納得いかないかな。で、思いついたのは、小野寺君と私は友人ではなく、同じ目標を達成する人……会社の同僚とかみたいな?」
石光が出した答えに、俊は何一つ表情を変えずに答える。
「まぁそんな感じで」
俊の回答に石光は、ふぅーと長い溜息をついた。
「……違うんだ。……インテリジェンスを学べば、正しい回答ができるかな?」
「まぁ今よりは答えに近づけるんじゃないんですかね」
「わかった。頑張る」
俊の答えは何とも要領の得ないものであったが、石光はインテリジェンスを学ぶことにかけることにした。
俊としては色々と理由があった。まずはバイアスを排除することである。バイアスがあると判断を誤るからであり、諜報機関ですら嵌るので細心の注意を払わなければならない。仲が良くなれば、相手の判断や情報を鵜呑みにしてしまう可能性がある。男女関係になったらそれが一層酷くなるかもしれない。
話は反れるが諜報機関では男女関係を用いた情報収集は原則禁止としている。理由としては工作が終了し接触を絶とうとする際のリスクが大きいからである。縁を切ろうとしても相手が拒否をし、無理に別れようとすれば痴情のもつれで殺傷沙汰もあり得る。また、怨恨でどんな情報収集をしていたか公にバラされる可能性が大きいからである。
『原則』禁止としているのは、別れることが容易にできるのであれば問題ないからである。情報収集の対象である相手ときれいさっぱり縁切りができればよい。外務省のとある職員は非常にプレイボーイでたくさんの女性と交際していたそうだが、簡単に別れることが出来ていたという。なぜそのようなことが出来ていたかというと、交際相手から嫌われるような行為を繰り返していたからである。相手から去るように仕向けるのである。
俊が石光の好意に対して塩対応をしているのも、男女関係にならないようにすることと、相手との関係を容易に解消できるようにするためである。
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