第四十二話 改めてお礼
喫茶店に入ると店員に人数を聞かれ座席へ案内された。
給仕をする店員が水をテーブルの上に置き「ご注文が決まりましたらお呼びください」といって去っていった。
「今日は俺の奢りだから好きなの頼んでいいよ。値段とか気にしなくていいから」
俊はメニューにさっと目を通すと、そっと閉じてテーブルのメニューを立てかけるスタンドに置いた。石光はしばらく眺めてからメニューを置くと俊が手を挙げて店員を呼ぶ。
「ホットコーヒーで。コロンビアでお願いします」
「和風ほっとケーキセットで。コーヒーはブレンドで」
店員が注文を受けて戻っていくと、俊が口を開いた。
「そういえば、ホットケーキをご所望だったね」
「うん。変わったのがあったからチャレンジしてみた。あ、丁寧な口調じゃない!」
「まぁ学校じゃないし。こういうの期待してたんじゃないの?」
俊が不敵な笑みを浮かべていると、石光は呆れているような諦めた表情を見せる。
「全部お見通しってことなんだね……はっ!なんかもう全部知ってたりするの?身長、体重、スリーサイズとか!?」
石光が両腕を抱えてたじろぐと、俊は目を瞑って溜息をついた。
「いや、そういうわけじゃないよ。……それにしても石光さんからチャレンジって言葉はあまり連想できなかった。何事も一歩下がって見ている感じだと思っていたから」
注文していたコーヒーが届き、俊はカップを手に取って啜った。
「……うん、今のままじゃダメだと思って……。正直いうとここ数年はネガティブだったんだ。でも変えなきゃって思って。小野寺君に積極的に話しかけているのもその一つなんだ」
「その数多のチャレンジ項目から、『俺とのコミュニケーション』を外してもらえればなぁ……」
そういって俊は目を逸らしながらコーヒーを啜った。石光はむすっとしながらコーヒーに砂糖とミルクを入れる。
「『俺とのコミュニケーション』の替わりに『コーヒーをブラックで飲めるようになる』とかに変更できません?」
俊の提案に対し、石光はスプーンでコーヒーを撹拌しながら出来ませんと一蹴した。
「そもそも、インテリジェンスやれって私にいった時点で変更不可じゃん。まあ『コーヒーをブラックで飲めるようになる』は考えておく」
俊がカップをテーブルに置くと、石光に対して問いかける。
「で、そろそろ本題のほうを。話したいことがあるのでは?」
「……そうだね。この前少しいったけど、今日真相が分かったから改めて。本当にありがとう。もし、小野寺君が色々してくれていなかったら、私は登校拒否とか高校やめるとかになっていただろうし、立ち直れなかったかも。人生変わっていたと思う……」
「別に石光さんのためにやっていたわけじゃない、俺が好き勝手やっていただけだ。そもそも、石光さんの意思で立ち上がって、自らの力で解決したんだ。過去のトラウマを乗り越えてね。その自身の勇気と意思の強さを称賛するべきだ。実際それを出来る奴がどれだけいるか?俺には無理かもしれん」
俊が石光を見つめ、力強くいうと石光は少し頬を赤らめた。
「……すこし恥ずかしいけど……ありがとう」
「人の言葉を借りるなら、俺は石光さんを助けてない。自分で勝手に一人で助かるだけってやつ。正直いってしまうと、君が登校拒否になろうが学校やめようが俺には何も影響ないからどうでもよかった。クライアントの一人にはそのように説明したし、そういうケアはそっちでやってくれ俺の専門外だ、っていった。」
俊の発言に、石光は目が点になり若干顔が引きつっていた。
「……え?……えーっと、小野寺君の目的がイマイチよくわからない」
「よくいわれる」
「……碧のイジメは止めたかった?」
「イエス。色々悪影響があり自分にも及ぶと思っていたし、実際に攻撃を仕掛けられた。撃退したけど」
「私を助けるつもりはあった?」
「ノー。先ほど言ったように自分への影響は少ないと予測したから」
「さっき『クライアントの一人』って言っていたけど、依頼する人は複数いるの?」
「ノーコメント」
石光の矢継ぎ早な質問にも動じず、俊は淡々と答えた。石光は腕組みをし、こうべを垂れて何か考えている。そこに石光が注文していたホットケーキが運ばれてきた。
「ほら、ホットケーキが来たよ。糖分補給して元気出そう?」
「原因!」
石光は自分を悩ませている俊が他人事のように振舞っていることにイラつきながら突っ込みをいれた。その後、石光はホットケーキを小さく切り分けて口に運んだ。
「甘さが絶妙で、ずっと食べ続けちゃう奴だこれ」
「俺の奢りなんで2皿目頼んでもいいよ」
「……はっ!食べ物で懐柔なんかされないからね!あと食べ過ぎ良くないから遠慮しておく」
「左様で」
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