第四十一話 レク(チャー)3

 「次は情報収集手段について説明します。米国ではインテリジェンスの英単語の最初3文字をとってINT(イント)といいます。さっきの料理の話でいえば、食材探しに当たりますかね。具体的な手段は〇〇イントと、◯◯には手段に関連する言葉が入ります。」

 その後、俊はヒューミント、テキント(シギント、イミント、マジント、ジオイントetc.)、オシント、コリントなどについて説明していった。

 「説明だけじゃ全部覚えきらないかも……」

 石光が頬杖をつきながら眉間に皺をよせていると、俊がA4サイズの用紙を数枚渡した。

 「説明した内容がこれにまとめられているので、忘れたときにでも見て下さい」

 石光はうへぇと呻いてから資料を受け取った。俊は腕を組み、短い溜息をついて石光に問う。

 「最初の約束通り、協力してもらいますので勉強はしておいてください。特に石光さんにしてもらいたいのはヒューミントです」

 「ヒューミントって、人の話を聞いたりして情報得るやつだっけ?」

 「その通りです」

 「なんでヒューミントなの?……といっても他のイントは技術がないからできそうにないけど」

 石光が質問をすると俊は良い質問ですねと前置きを入れてから回答する。

 「石光さんにはヒューミントのセンスがあると思ったからです。先ほど説明してきたことは主に米国がやっていることですね。マニュアルを使って人を教育し、システムづくりでやっていくスタンスです。しかし、イギリスやロシアの諜報機関では、インテリジェンスはアート……つまり、類稀なるセンスを持った者の職人芸とされております。ですので、センスのある石光さんにやって頂きたいと思いまして」

 石光は座っている椅子の背もたれに寄りかかりながら宙をしばらく眺め、再び視線を俊に戻した。

 「センスねぇ……じゃぁ、この前、小野寺君が疲れているように見えたり、山下君が小野寺君の協力者っていう予想とか、そういうの全部合ってたりするのかな?」

 石光の質問に俊は鼻で笑ってから回答する。

 「お忘れですか?『時刻表に13時発と書いてあった』だけで判断するのですか?そのセンスが本当に正しいかどうか裏取りをするべきかと思います」

 「んー……そのために色んな情報収集手段を使って確認しろってこと?」

 「そういうことですね。……そろそろ、貸し会議室の使用時間がリミットを迎えそうなので今日はこれぐらいで終わりにしましょうか?」

 そういって俊はノートパソコンとプロジェクターの電源を落とし、片付けを始めた。

 「私も手伝おうか?」

 「では、机と椅子の整理とゴミとか落ちてないか見て貰えませんか?」

 「了解!」

 手伝いを申し出た石光はてきぱきと作業をこなし、片付けが早く終わった。

 「有難うございます」

 俊が笑顔で礼をいうと、石光はその笑顔に違和感を覚えた。

 (学校の時と違うような気がする)

 すると石光は、あっ……と何かを閃き、ぱんっと音が鳴るぐらい勢いよく手を合わせた

 「小野寺君、このあと用事ある?」

 「今のところはないですね」

 「じゃあ、近くにパンケーキが有名の喫茶店あるから行かない?」

 石光の提案に、俊は少し怪訝そうな顔をした。

 「ここ一帯は比較的学校から近いところです。私と石光さんが会っていることを見られ、小島さんや辻さんに知られたら、お二人はいい気分ではないと思いますが?」

 俊は提案を一蹴すると、石光は不貞腐れてふくれっ面になった。それを見かねた俊はポケットから交通機関用ICカードを取り出し、石光に差し出した。

 「では2時間後、新宿駅の南口でおち合いましょう。交通費はこれにチャージしてありますので。私は家に戻って荷物を置いてから行きます。」

 その発言に石光は驚く表情を見せるが、俊は溜息を付いた。

 「一緒にいるところ見られるわけには行きませんので」


 2時間後


 「お待たせしました」

 新宿南口で先に待っていた石光に俊が合流した。

 「では、適当なところに入りましょうか」

 俊は石光を促して近くの喫茶店に入った。俊は自分や相手の生活圏から離れ、尚且つ会っていることを知人に悟られにくい人口の多い場所で会合を設けている。だが、それだけではなく、勝手が分かっている場所で行いたいという理由もある。石光から提案された場所は、相手側のフィールドであり俊にとってはアウェイとなるので不確定要素は多くなる。それらを排除するためにも自分から場所を提示しているのである。

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