第四十話 レク(チャー)2

 石光の問いに、俊は視線を天井に向け、んー……と呟いてから、再び石光に戻して回答する。

 「そうですね、石光さんの幼馴染がいじめを苦に自らの命を絶った、とか知れるところですかね?」

 俊は飄々と石光にとって地雷であることいってのけた。先ほど、いきなりフランクに話すのは距離感を掴めていないコミュ障みたいで嫌だといっていた口が、他人の敏感なところを平然と土足で踏み荒らすような、まったく距離感を掴めていない行動に石光は苛立ちを覚え、俊を睨んだ。

 「……やっぱり、知ってたんだ。下駄箱に入れていた白い封筒も小野寺君?」

 「そうです」

 「この前、私のことについて質問してくれたけど、すでに答えは知っていたわけ?」

 「はい。石光さんが私への質問がしつこく、ほとほと困り果てていたので逆に質問したまでです。こちらから質問をしていれば質問されることはありませんから。要は時間稼ぎですね」

 俊はことごとく石光の感情を逆なでするような発言を繰り返すと、石光は深呼吸を繰り返し冷静さを保とうとしていた。

 「……なるほど、咲良が関わるのはやめておけといっていたことが分かった気がする」

 「このようにネタバレすると大抵の人は怒り狂います。石光さんもこのようなことをすると先ほど約束したんですよ?大丈夫ですか?耐えられますか?」

 俊が少し前のめりになり、今後やっていけるかどうか確認すると、石光は一回深呼吸をしてから答える。

 「……大丈夫、問題ないよ」

 石光が真っすぐ見つめ返し回答すると、俊は含みのある笑みを浮かべてから話を続ける。

 「承知しました。何、特段なことをしているわけではありません。私、……いや我々が行っているのは情報収集と分析です。主に諜報機関がやっていることを参考にしています。しょせんは素人ですが、ド素人よりは幾分マシかと」

 「諜報機関ってスパイとかの?」

 「簡単にいってしまえばそうですね」

 石光は、何かを納得したかのように……あー……と呟いた。

 「だから、こういう碌でもないことするんだ」

 「諜報機関の行為すべてが碌でもないというわけではありません。話が反れそうなの少し戻しますが、先ほど私は情報収集と分析といいましたが、情報を英語でなんといいますか?」

 俊の唐突な質問に、少し戸惑いながらも石光は答える。

 「え?インフォメーション?」

 「正解です。が、もう一つあります。インテリジェンスです」

 「インテリジェンス?」

 俊はノートパソコンを操作すると、プレゼンテーション用ソフトを起動し、プロジェクターでスライドが投影された。

 「これからやって頂くことのためにも、まずはインテリジェンスについて学んでいただきたいと思います。ではレクを始めます」

 「レクレーション?」

 「レクチャーですね」

 俊はスライドのページを進め、インテリジェンスについての説明を始める。

 「先ほど、情報は英語にするとインフォメーションとインテリジェンスの2種類あるといいましたが、情報という言葉にも二つの意味があります。一つ目はお知らせの類ですね、これがインフォメーションに該当します。ではもう一つの意味ですが、情報を集めて物事を判断する際の知識にしたものがインテリジェンスです。」

 と説明した俊は、石光に目を向けると、頭にクエスチョンマークを浮かべているようであった。

 「はい、質問です」

 石光は挙手をして俊に質問し、はいどうぞと俊は質問を受け付ける。

 「例えば、ネットで電車の時刻表を見て最寄り駅13時発の電車に乗ると決めたら、情報を基に判断したのでインテリジェンスになりますか?」

 「では、石光さん。質問を質問で返す様で申し訳ありませんが、仮に電車が13時に来なかった場合、どのようなことが考えられますか?」

 「人身事故とか……車両故障とか……そもそも時刻表が間違っていたり?」

 「そうですね。そのことについて調べましたか?」

 「調べてないです」

 「『時刻表に13時と書いてあった』はインフォメーションです。事故で遅れてないか?時刻表は正しいか?と様々な情報を集めて、最寄り駅13時発の電車に乗るか判断するのがインテリジェンスですね。」

 「なんとなくわかりました」

 「よく、インフォメーションとインテリジェンスの説明として、食材と料理の関係で説明されます。インフォメーションが食材でインテリジェンスが料理です。カレーがインテリジェンスだとしたら、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎといったものがインフォメーションになります。食材のままで食えなくもないですが、調理した方が体への消化吸収もよくなったり栄養価も高くなったりしますよね?そんな感じです」

 「なるほど」

 石光が納得したところで、俊はスライドのページを進めた。

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