第三十九話 レク(チャー)

 提案に乗るかどうか石光が考え込んでいると俊が補足説明をする。

 「もう少し具体的に説明しますと、今後諸問題が発生した際に、どのような対処をすればよいのか考える力を得られるかと思います」

 「どういうこと?」

 「例えば、私が小島さんのやっていることを止めたことはもちろんですが、教師の悪行を告発したり、身近な利益といえばテストの出題傾向が分かったりなどがありますね。好きな人と仲良くなる方法だったり、まぁ色々と出来るようになるかと思います」

 「なるほど」

 「ここは貸し会議室なので時間は限られています。説明もしたいと思いますので、あと五分以内にどうするか決めて頂くと助かります」

 俊が回答を促すと、石光はコクリと頷いた。

 「いいよ。その約束守るよ。」

 「了解しました。では、そこの椅子におかけください」

 俊に促され、石光は会議室の机に座った。

 (……そうだよ、私が小野寺君に声を掛けてきたのは、どのようにして碧を止めたのか、その力を知りたいからだよね。恐れていても仕方がない、前進あるのみだよね)

 「あ、そうそう、先程の会話は録音させて頂きましたので」

 俊はそういってICレコーダーを取り出し、録音した石光が了承した台詞の部分を再生した。

 「……うわぁ」

 「心の声が漏れ出ちゃってますよ?石光さん」

 ドン引きしている石光に対し、自分もゲスなことしてるのは分かってるからという口ぶりで俊はつっこみを入れた。

 「では、まずはこの映像を見てもらった方がいいですよね」

 俊はノートパソコンが置いてある席に座ると、動画再生ソフトで映像を流した。

 「石光さんが小島さんから嫌がらせを受ける数日前に、私は小島さんに呼ばれまして……」

 山下が撮影した映像がプロジェクターで投影されている。丁度、俊が六名の生徒に囲まれているところであった。石光はその六名の中に見覚えの人物を見かけた。

 「あれ?この中の一人って藤原君じゃ……?」

 「ここちょっと無駄に長くて意味ないんで飛ばしますね」

 石光の問いをスルーして、俊は動画再生ソフトの再生位置ボタンを移動させると、六名のうち五名は画面から消えており、藤原らしき人物が地面にとっ伏してうずくまっていた。即落ち二コマのような光景に俊がプフっと噴き出したが、石光は理解が追いついてなかった。

 「えっ……え?」

 「まぁ、ここからですね。邪魔者は排除したので私と小島さんで取引をしました」

 映像は俊と小島が一対一で話をしており、たじろいでいる小島を俊が物凄いスピードで背後に回り込み、締め上げて鋭利なものを突き付けていた。

 「…ぇえーっ!?」

 その映像をみて石光は驚愕すると俊は淡々と解説を続ける。

 「ここで、私は小島さんに対して、『私に構わなければ、私は小島さんの邪魔しません』と伝えます」

 その直後、唐突に映像の音声が無くなり、生気のない小島がふらふらと帰っていくところで映像自体が途切れた。

 「え?最後の方、音声なかったけど?」

 「あ、おそらく小島さんにとって石光さんにも知られたくない内容だと思いましたので、編集で音声をカットさせて頂きました」

 石光は座っていた席の机に両肘を載せて頭を抱えていた。ぇえーっ!?と小さく呟いてから俊を見つめる。

 「……碧の弱みについて喋ってたの?」

 「さて?どうでしょうね?ご想像にお任せ致します」

 俊は石光の問いに対して、学校で見せるような営業スマイルとは異なった非常に朗らかな笑みで回答した。

 「そういえば、映像の小野寺君は普通に喋ってたね。学校では丁寧に喋っているのに。今は普通に喋ってくれないの?」

 「いきなり、フランクに喋るのは距離感を測れていないコミュ障みたいなので、その辺は少しずつ変えていきたいと思います。あ、でも学校ではいつも通りですのでご容赦ください」

 石光は腕を組み、少し考えてから俊に質問した。

 「学校であの喋り方なのは、やっぱり人をあしらうためなの?」

 「そんな感じですね」

 「なんで?」

 「面倒なので」

 俊の答えに石光は、ぅうん?と唸り、首を傾げて一寸固まった。

 「……ちょっと待って?今さっきの映像だって誰かに依頼して撮ってもらってるんだよね?あと会議室を貸し切って私に色々と説明しようとしている……この現状のが面倒じゃない?」

 石光の問いに対し、俊は右の掌を天に向けて答える。

 「まぁ、人の尺度はそれぞれですから。どれが面倒かは人によるかと思います」

 のらりくらりと対応する俊に、石光は机に頬杖をついて溜息を洩らした。

 「おそらく、その質問は答えてくれなさそうだから別の質問にする。色々出来るようになるって例えばどんなこと?」

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