第二十七話 矛先変更
石光は登校すると自分の下駄箱の前で立ち止まって一回深呼吸した。
(すでにイジメが始まっているかもね…上履きを隠されているかな?それか中に画鋲を入れられているかもしれないな……もうどうにでもなれ!)
石光が自分の下駄箱を開けると中には封筒が一つあった。それを恐る恐る取り出して開封する。
(なんだろう?死ねとか書いてあるのかな?それともグロテスクな写真とかがいっぱい入っているのかな……)
自殺してしまった友人がされてきたことを思い出し、吐き気を催しながらも封筒を開けた。封筒の中身を読み終えた石光は頭上にクエスチョンマークを何個も浮かべる形となる。
(え?なにこれ?本当なの?)
そこに、石光と小島が仲違いをしたことを知らないクラスメイトの女子が石光に話しかけてきた。
「みっちゃん、おはよ!何それラブレター?」
石光は封筒をカバンの中に入れると、乾いた笑いを挟んでから違うよと否定した。声をかけたクラスの女子と教室まで一緒に向かうと、石光の机が落書きされていた。バカ、死ね、ビッチだのどうしようもないことが書き連ねられており、一緒だったクラスメイトの女子は、一体誰が――と言いかけて手口から犯人が誰か分かり、何も言わず石光の側から離れていった。
(……始まったか)
石光は、他に何かされていないか机をくまなく見て回る。椅子の上に画鋲が置いてあった。また、天板の裏側にも画鋲が張り付けられていたのを発見し取り除いた。あとは天板に書かれた落書きを消す作業を行う。このような作業をすることの惨めさを改めて痛感する。
(……あの子もこんな感じだったんだなあ……)
絞った雑巾で拭いてみたが落ちない。油性のマジックで書かれている
(ああ、やっぱり……)
石光はあの子も油性で書かれて消すの困ってたなと思い出し、昔の記憶がどんどん蘇ってくる。そして首を吊って惨たらしく変わり果てた友人の姿を思い出し、眩暈で倒れそうになるのを机に手をついて何とか留まる。
(……負けるもんか……とりあえず、甘粕先生のところにいって洗浄剤か何か消すものを借りてこよう)
石光はふらふらとした足取りで職員室に向かい、甘粕のところまで行く。
「どうした石光?もうちょっとしたらホームルームの時間だが急ぎの用事か?」
「すみません、油性ペンを使ってたら机にも移ってしまって……洗浄液か何かをお借りできたらと思いまして」
「そうか、ちょっとまってろ」
甘粕は席を立つと掃除用具入れから洗浄液を取り出して、はいよ!と石光に渡した。
「ほかに何か困ったことがあったら言えよ?できる限りのことは手を貸すからな」
唐突な相談に乗るアピールに、石光は元気のない笑顔で見せ一礼してから職員室を後にした。
(ああ、先生分かったんだろうな……これまでイジメられた子も洗浄液借りに来たんだろうなあ)
石光は苦笑しつつ自分の机まで戻り、洗浄液をつかって落書きを消していた。俊は自席から読書をする振りをしながら一部始終を見ていた。
(とうとう始まったか……先手を打って封筒をいれておいてよかったな……石光はふらふらしているのは、どう考えてもフラッシュバックをしているな。果たして与えた情報を有効に使えるだろうか)
石光の具合を見るに説得が成功する確率は低いだろうなぁ、後は甘粕先生頑張って!と心の中で担任へのエールを送る俊であった。
いつもであれば、休み時間になると小島の席に辻と石光が集まり談笑している光景があったが、今日はその様子もなく教室がざわついていた。どうしてそうなったのかを知っているのは、当事者たちと俊、俊から教えられた山下ぐらいである。
辻の携帯電話がバイブレーション機能で着信を告げる。
To:辻
件名:なぜですか?
辻さんはお二人と仲違いしたわけじゃないのですから、
どちらかと談笑されてはどうですか?
俊からのメールであるがどう考えても煽りである。辻はメールの内容を確認すると、キッと鋭い視線を俊に送った。俊はいつものようにイヤホンで耳を塞いで音楽を聴きながら、読書に勤しんでいる。見た目は完全に我関せずの態度で、辻の怒りを一層駆り立てた。
To:クソ野郎
件名:ほんとムカつくわね
我関せずの態度で、こういうメール送ってくるの本当に腹が立つ。
…けど、あんたは用もなくメールをしてこないわよね。
なんかしろってこと?
辻からの返信をみた俊は、口元を緩ませて返信する。
To:辻
件名:助かります。
察しが良くて助かります。
イジメのターゲットになるのは嫌かもしれませんが、
石光さんのことを気遣ってあげてください。
ご存知かもしれませんが、石光さんは過去の経験から
こういうことがメンタルに来ます。
二人の仲を取り持てとは言いません。
当事者同士の問題ですから、当人同士で解決すべきです。
ただ、傍に居てあげてください。
煽りのメールから一転、俊からの石光を気遣ってほしいという依頼と、石光の過去についての言及するメールが到来し、辻は戸惑った。
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