第二十三話 反撃
「逆にいうと、俺がお前を倒すためにどれだけ調査したか分かるか?まぁ分かりもしないだろうけど――詳しくいうのはやめておこう」
俊は藤原の趣味嗜好の何から何までいおうと思ったが、ここでその情報をカードとして切ってしまうのは、意味がないと思いとどまった。
「……格闘技を続けるには、お前がこの前紹介したところで学べということか」
藤原は先日紹介された格闘術を思い出し、問いを投げかけると俊はかぶりを振った。
「あれを習えばいいという問題ではない。あれを習うということは確実に相手を処理するということになる。つまり、殴り合って楽しかったみたいなことは出来なくなる方向へ進むことになるが、それでも良いかということだ。スポーツ感覚のままでいいのか、それとも真の強さを求めるのか。少なくともスポーツ感覚のままでいるのならば用心棒の真似事はやめておくべきだな」
といって俊は踵を返し、その場を後にした。
『お疲れ、小野寺君』
ポイントアルファを離脱した俊に山下から通信が入る。ポイントアルファに入る前から俊が山下に入電し、事が終わった今でも通話の状態にしてあった。
『繋げっぱなしだったけど、通話料金すごいことになってるんじゃないの?』
山下が心配そうに問いかけると、俊は飄々とした声で答える。
「それは特に心配しなくていい。ところで山下はポイントアルファから離脱したか?」
『いや、まだだよ。藤原君が帰っていって5分ぐらいだけど、もう5分待ってから撤収するよ』
山下が撤収予定を告げると俊は深く頷く。
「そうだな、藤原の奴は勘がいい。しばらく待ってから撤収したほうがいいだろう。すごくいい判断だ」
俊が山下を褒めると、うれしかったのか少し上気した声で返す。
『お褒めに頂き光栄です。小野寺君が藤原君は勘がいいって言っていたからね。用心しようと思って』
「ところで、撮影等は問題なかったか?」
『大丈夫問題ないよ、さっき録画出来ているか確認した。あと申し訳ないんだけど、こっちの携帯電話の電池切れそうだから、そろそろ通話を終了してもいいかな?』
山下が申し訳なさそうに通話終了を切り出すと、俊も申し訳なさそうに、あぁと呟いてから答える。
「長々とすまなかった。では夜にこちらから連絡する、今後の方針について説明するから。今日は危険な頼みを聞いてくれてありがとう。では」
次の日、俊はいつも通りに登校し、いつも通りに着席しバックパックから本を取り出し、いつも通りに読書を始めた。が、一点だけ違う点があった。いつもならハードカバーの本にブックカバーかけ、本のタイトルが分からないようにして読んでいるのだが、今日は文庫サイズのものを読んでいる。しかもブックカバーはかけず、表紙を見せびらかせている状態であり、表紙には色鮮やかなイラストが描かれていて、俗に言うライトノベルであった。
(……どういうつもりなの……?)
小島は俊の様子を怪訝そうな顔つきで眺めていた。どういう意図なのか、小島がかつてオタクだったことを知っている小野寺が何故そのような行動を取り始めたのか思案を巡らす。
(……どういうこと?自分もオタクですよってアピール?それとも、私がオタクであったことをばらしてやるぞって脅し?)
小島は色々と考えていたが、その疑念はすぐ晴れることになる。
「お、小野寺氏……それは……それを読まれていたとは」
ひょろっとした外見で、いまにも風で飛ばされてしまいそうな体躯の少年が俊に近づいてきた。山下のオタク仲間であり、小島のイジメのターゲットにされていた柿崎である。
「あ、柿崎君。君はこういうの詳しそうだね。僕もこういうのを読んでみようと思ってね」
俊は傍にやってきた柿崎に優しく微笑んで、教室での“いつも通りの口調”で答えた。柿崎は小島のイジメによって関わると巻き込まれて被害に遭うと思われているためクラスメイトたちからアンタッチャブルな存在とされていた。俊もまた、誰とも関わらず放課後はすぐに帰ってしまうことからアンタッチャブルな存在となっていた。アンタッチャブルな存在同士の邂逅を止めるものは誰もいなかった。
クラス内はざわつき、二人の邂逅は奇異の目で見られている。小野寺もイジメのターゲットの仲間入りかと冷ややかな目線もあれば、徹底的に関わらないようにしようと目線を送らないようにするものもいた。
「なるほど、そういうことか」
と藤原は呟いてから、会話する二人を眺めていた。
小島はぐぬぬと言わんばかりのしかめっ面をして、会話する二人の姿を見つめた。その小島を横で見つめていた辻は、小さい声でふーんと呟いた。
(昨日、碧はなんか色々動き回っていたし、いつもの感じのことをあいつにもしたのかな?……でも、うまくいかなかったと。しかも返り討ちにあって、今は絶賛反撃されてるって感じかな。きっと、碧も私みたいにあいつに弱み握られてるんだろうね……。碧ごときの頭じゃ勝てっこないわ)
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