第二十話 インターナルディスコード

 (…絶対突っ込まない)

 藤原がツルハシを引き摺ってバイクに乗るヤンキーのような顔をすると、それとは対照的に俊は顔色変えず構える。

 (どうするか…。前に戦ったときはダメージを受けたふりして、大振りの蹴りを繰り出すまで待って一気に崩したが…もう通じないし、体格差があり過ぎて一発食らっただけでも終わりそうだ)

 藤原は右足を前に出し腰を低くする。そして胸元の空気をかき混ぜるかのように左手右手の順番で回転させてから右手を俊の方向へ突き出した。

 (基本的に打撃系というのは変わっていないはずだ。藤原がレスリングや柔道、合気道といった組み合う格闘技は習っていないことは調査済みだ。我流で掴み系の技を覚えているのかもしれないがしょせんは我流、付け焼刃だ。だが気を付けなければなるまい)

 俊が思考をフル回転させていると藤原が動き始める。俊いる地点を中心として左回りに円を描くように動く。藤原はただ円を描いて動いているようにみえるが、俊との距離を少しずつ縮めている。空手などでもよく使われる方法であるが、相手から見えづらくなっている足で前進して相手に近づいているのである。藤原は右手右足を俊に向けて突き出しているので、右足では横に動いているのだが、左足では前に進んでいるのである。

 藤原が円を描き始めて十数歩のところで、俊が物凄い勢いでバックステップをし、距離を取った。唐突な俊に動きに藤原が豆鉄砲を食らった鳩のような顔してから首を傾げた。

 「おいおい、まだ間合いには入ってないぜ。ビビり過ぎだろ?」

 藤原が俊に疑問を投げかけると、俊は一瞬だけ目線を4人の男子生徒の方へ向けた。藤原は目線から、すべてを悟ったのか何かを納得したような表情を見せた。

 「そういうことか。このまま回り続けたら、お前はあの4人に背中を晒すことになるからな。それで下がったわけか」

 藤原は構えを解き、男子生徒4人の方を向いた。

 「手を出すんじゃねーぞ、これは俺と小野寺とのサシの勝負だ」

 藤原が男子生徒4人に向かって叫んでいると、そのうちの一人が目と口を見開いて『あっ』と言わんばかりの表情をする。その表情から危険を察知した藤原が踵を返すと俊が距離を詰めていた。藤原が態勢崩しながらも右手で正拳突きを繰り出すと、俊はそれをかわして再び距離を取るためバックステップした。

 「おまっ…本当に卑怯だな!前戦ったときもやられるふりしてたしな!」

 藤原が呆れた表情を見せて叫ぶと、俊は淡々と答える。

 「私はあなたのように、この立ち合いを楽しいと思うことはないでしょうし、意味を見出すことはありません。全員を無力化して帰るだけです。あと4人も無力化しないといけない。あなたにばかり体力を使うわけにはいきません」

 「…そうかよ」

 藤原は再び構えなおすと、再び俊を中心として円を描き始める。俊が男子生徒に背を向けそうになると大きくバックステップして距離をとる。

 その様子を眺めていた男子生徒4人は集まって話し始める。

 「これさぁ、終わんねーんじゃねーの?俺たち帰った方がよくない?」

 「ほんと、終わらんぜ?これ」

 「小島さんに直談判しにいくか」

 4人は小島のところに直談判に向かうと、小島は踏ん反りかえって『駄目よ』と一蹴した。

 「あんたたち、私がセッティングする女子高との合コンに参加したいんでしょ?」

 「そりゃまぁ魅力的ではあるんだけど、この状況は割に合わないんで」

 男子生徒の一人が頭を掻きながら答えると、自分のいうことを聞かない野郎どもに腹をたてた小島が捲し立てる。

 「あんたたち、これまで私に協力してやってきたことがバレてもいいの?とんでもないことになるわよ!?」

 小島が大声を上げると、男子生徒4人はお互いの顔を見あってから答える。

 「え?心中のつもりなの?」

 「…いや、それバレたら一番困るのは小島さんでは?」

 「そういうことなので俺たちは帰るわ。じゃあ」

 4人は俊に倒された1人に駆け寄って立ち上がらせると5人仲良く帰っていった。

 『小野寺君、よくわからないけど5人は帰ったよ』

 山下からの通信が俊に入ると、

 「了解した。あと逐次情報を入れてくれてありがとう」

 ぼそぼそと小声で返事をした。俊が男子生徒たちに背を向けそうになると山下が連絡を入れてくれていた。その連絡を受けては俊はバックステップを行っていた。

 「どうやら、仲違いがあったのか彼らは帰ったようですね」

 俊が一瞬目線を外してから藤原に話しかけると、藤原はフッと鼻をならす。

 「卑怯なお前の言うことなぞ信じん」

 「そうか…いいのか?全力でやれるんだぜ?かかって来いよ?」

 俊の言葉遣いが変わったが藤原は信用しない。再び俊との距離を詰めるために円を描き始める。

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