第十九話 エンゲージ

 「呼び出して御免ね~」

 対象Kが合掌しながら軽いノリで俊に話しかける。対称的に俊は直立不動で話を聞いている。

 「私に何か用でしょうか?小島さん」

 直立不動で丁寧に話す俊に、小島は笑顔のまま近寄っていく。

 「なんか色々してるみたいじゃん?」

 (この距離ヤバいな…ここでナイフ出てきたら死ぬな。一応、ナイフ格闘術は使えないことは調査済みだが…)

 と心配しつつ小島の問いに俊はこたえる。

 「色々ですか?そうですね、一目散に家に帰って親の手伝いを色々としております」

 俊の答えに小島は笑顔を少し引きつかせる。

 「それについてはもういいや、どうせ話さないんでしょうし。今日呼んだのは小野寺君がどんなスタンスなのか聞きたくてね。できれば、私に協力してほしいなって思ってて」

 小島の言葉に俊は思考を巡らす。

 (まぁ、言い方は優しいお願いみたいだが、服従しろってことなんだろうな…いきなり断るのではなく、丁重にやんわりと断るか…)

 「大変申し訳ありませんが、親の手伝いで忙しく、ご協力させていただくことは難しい状況です。お力添えできず大変申し訳ありません」

 俊が頭を下げると、

 「へぇ~、そっかぁ。じゃあさ、ここでキャー痴漢!助けてぇ!って叫んだらどうなるかな?」

 小島は脅しをかけてきた。俊は呆れて鼻で笑いそうになるのを堪える。

 「その方法は難しいのでは?私はすぐに家に帰ることは周知の事実で、ここにいること自体が不自然です。小島さんに呼び出されたという方が信憑性があります」

 俊はとびっきりの笑顔を見せて話を続ける。

 「それにそんなことしなくても、あなたをお守りしてくれる人がいるじゃないですか!ここに6人も!そこに2人、小島さんの後ろに1人、そっちに1人、右の方に2人」

 小野寺は山下が教えてくれた方向にそれぞれ腕を伸ばす。人数と位置を言い当てられた小島は驚いて何も言い返せずにいた。

 「出てきたらどうです!?」

 俊が森の方に向かって叫ぶと、言い当てた方向から6人の男子生徒が出てきた。その中の一際ガタイのいい生徒が俊に対してアイコンタクトを送ろうとするが、俊は顔すら向けることもなく全力で目線を合わせようとしなかった。

 (つめてぇなぁ…)

 俊に全力でシカトされた藤原は少ししょんぼりとしていた。

 呆然としていた小島は集まってきた6人の男子生徒に気づき気を取り直して話を始める。

 「どういうこと!?誰か協力者でもいるの!?」

 「協力者?さてどうでしょうか?私はすぐに学校から帰宅してしまうので友人なんていませんよ。いわゆるボッチというやつですね。そんな私に協力者なんてとても…」

 俊は右手をこめかみぐらいまでの高さまで上げ、人差し指で空を指す。

 「…協力者はいませんが、遠くから見渡せる目ならあります」

 一言もいっていないが、まるで衛星を使って周りの状況を見渡しているような言い方でミスディレクションを誘う。

 小島は一瞬天を仰ぎ戸惑いながら俊に叫ぶ

 「そ、そんなのハッタリに決まってるわ!たとえ見渡せたとしてもなんなの!?この6人を倒せるかしら!?今ならまだ許してあげるわ!協力するの!?しないの!?」

 声を荒げて服従するか否かの選択を迫る小島に対し、俊は至って冷静な態度で答える。

 「いや…家の手伝いがあるので難しいと最初にお伝えしましたが」

 「わかったわ、力づくで首を縦に振らせてもらうわ。小野寺君は私がやっていることに対して、邪魔をするのかわからない不確定要素だからね。じゃあ、お願い」

 小島が6人をけしかけてきた。男子生徒6人が俊を取り囲もうとすると、俊はバックステップをして囲まれないようにする。

 「おい、待てよ!」

 そのうちの一人が俊を追いかけ、右手を伸ばして捕まえようとすると、俊は右手と左手の順で相手の右腕を払って受け流すと、右手で相手の右手首を引っ張り、背後に回り込む。背後から左手で相手の顎を持ち上げてバランスを崩させ、そのまま地面に叩きつけた。仰向けになった男子生徒の脇腹に蹴りをいれると、またバックステップをして距離を取る。

 「このまま続けるようなら、次はもっと酷い目に遭いますよ」

 俊は動きとは裏腹に穏やかな口調で警告する。穏やかな口調であったが、俊が見せつけた動きは男子生徒たちの足をすくませるには充分であった。

 「見ての通り、格闘経験のない奴らが通用するような相手じゃない、下がってろ。俺がやられたらお前らも敵わん。その時は諦めて逃げることだな」

 残りの男子生徒5人のうち、大柄な少年が俊の元へ歩を進める。大柄な少年こと藤原は、握った右手拳で左掌を叩くと不敵な笑みを浮かべる。

 「“待”ってたぜェ!!この“瞬間とき”をよォ!!」

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