第十八話 ステークアウト
俊は父親からの情報で対象Kがゴールデンウィーク中に海外旅行をしないことが分かった。再びベッドに仰向けになり見慣れた天井をぼんやりと眺めながら思考を巡らす。
(なぜ、家族で海外旅行と嘘をつく。国内旅行でもいいのではないか…?海外といったのは何故か?
考えられるのは…、見栄を張っている。あの性格ならあり得るだろう、土産として海外製のものを友人たちに渡せばアリバイは完璧だ。…いや、フライトの関係で土産を買うことが出来なかった体を装うことも可能だな。
次に絶対に連絡は取れません、または連絡してくるなという意思表示。この場合は友人知人たちにはゴールデンウィーク中の行動を知られたくないという意図があるのだろう。実際は家に引き籠もっているのだが、見栄を張っている可能性もある。この場合は家に引き籠もっている証拠をつかめれば、いい交渉の材料になる。見栄ではなくて何か人には知られたくないことをしている可能性もある。『人に知られたくないこと』の証拠をつかめれば、交渉どころか相手を自由自在に操ることは可能だな)
俊は仰向けの状態から、上体を起こして呟いた。
「…張り込むしかないな」
ゴールデンウィーク前日、俊はいつものように学校へ登校するが、愛用のバックパック、ミステリーランチの3デイアサルトがいつもと異なり荷物がパンパンになっていた。
(どうせ、不思議がられても誰も声をかけようとは思うまい)
バックパックから筆記用具や教科書類といった必要なものを取り出してからロッカーに放り込む。いつも通りの一日が始まる。
放課後を迎え、いつものようにせっせと帰り支度をし、一目散に学校を出ると近所の公園へ赴いてトイレに入り制服から私服に着替える。コヨーテブラウンの5.11タクティカルのストライクパンツに、同じく5.11タクティカルのオレンジのシャツを着込み、下ろしている前髪を逆立て、伊達眼鏡を掛ける。変装が完了するとトイレから出て近くのベンチに座り込みスマートフォンを操作し、Googleマップを開く。
(対象Kの家が良く見えるところから、張り込むしかないな…。対象が持ってきた荷物量を鑑みれば、学校から直接何処かへ旅することは考えにくいしな)
俊はベンチから立ち上がると、高校の最寄り駅に向かっていった。
俊は、対象Kの家に近づく前に、野外のアクティビティを録画するために使用されるアクションカムを手首に巻き付け、腕時計をしているようなスタイルにした。歩いた際に腕を振ると映像がブレてしまうのでズボンのポケットに手を突っ込み、腕を振らなくても不自然でないスタイルでゆっくりと対象Kの家の周りを歩いた。特にグーグルのストリートビューでよく確認できないところを入念に撮影した。
撮影を終えると、事前に調べておいた対象Kの家が少し離れたところから観察できるポイントに向かった。人通りも少なく長時間留まっても怪しまれないポイントだ。痕跡を残せば相手に悟られるため、人通りが少ないところでも細心の注意を払い物陰に隠れながら対象Kの家を観測した。
◇◇◇
ゴールデンウィーク明け少したってから、対象Kに呼び出された俊は、担任の甘粕のところに行き、呼び出された旨を伝えてから待ち合わせ場所(呼称:ポイントアルファ)に向かう。スマートフォンに骨伝導イヤーマイクを接続し左耳に取り付け、山下へ入電。
「聞こえるか、現在、骨伝導イヤーマイクで通話している。感明良好か送れ」
『良く聞こえるよ。雑音が無くてすごく良い』
「そうか、こちらはだいぶボソボソ喋っているから不安だったんだが問題ないな」
森の中で偽装をした山下はリューポルド社製サーマルスコープLTOで森の中を見渡す。
『所定ポイントから、サーマルスコープを使って森の中のアンブッシュを確認したけど、情報通り6人だね。小野寺君が対象Kとエンカウントしたら、クロックコードでアンブッシュの位置を教えるね』
「頼む。通話は切らないでおいてくれ。そろそろ対象Kの前だ」
俊がベンチに腰かけている対象Kに近づいていく。対象Kは踏ん反りかえってベンチに座っており背もたれに左手をのせて、まさに『やらないか』という言葉が似合うような座り方をしていた。
『そちらを目視で確認した』
山下からの通信が入ると、俊は対象Kには聞こえないぐらい小さな声で話す。
「了解、敵情報告求む」
『そちらからみて11時方向に2名、12時方向に1名、1時方向に1名、3時方向に2名』
「了解、ビデオカメラで撮影を開始してくれ」
俊が引き続き対象Kに聞こえない小声で山下に指示を出す。対象Kは俊の口元が動いていることが気になりつつも話しかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます