第十七話 父親に確認
真顔で小野寺が答えると、藤原がですよね~と笑みを浮かべながら頷いた。
「大体、お金持ちらしいなら警備体制も凄いはずだ。俺のような、クソガキがどうこうできるわけないだろ?」
「いやいや、小野寺なら警備をバッタバッタとなぎ倒してくれるに違いない」
ニヤニヤと笑みを浮かべてしゃべる藤原に、小野寺は呆れた表情を見せた。
「仮にバッタバッタとなぎ倒せたとしても、監視カメラにばっちり撮られるだろうし、見事なまでの前科一犯が付くと思うね。ミルコの左ハイ並みの見事なやつ」
「お前、よく知ってるよな」
藤原がはぇ~と驚いていると小野寺はしれっとした表情で、まぁ多少はねと呟いてからテーブルに置いてあるメニューを取った。
「俺ももうちょっと、なんか食うかな」
「そうだ、そうだ!お前も育ちざかりなんだからもっと食った方がいいぞ」
と藤原が溌溂とした喋りでもっと食べることを薦めると、小野寺はジトっとした目線を藤原に送った。
「たくさん食べてもらって体格が同じぐらいになってくれれば、俺の挑戦も受けてくれるだろう、とか浅はかな考えが良く見て取れます」
「よく分かったな!さすがだ!」
「いや、バカにしてるところに気づいてほしいな」
「いいんだよ、バカなんだし!」
「いや、気にしてほしいな」
食べ放題の時間も終了し、小野寺と藤原は店から暇し、新宿駅へ向かった。
「藤原、分かっているとは思うが、今日のことは口外無用だ。そもそも、ここで俺とお前は会っていない」
小野寺が藤原に対して念を押すと、藤原は何かを閃いたらしく、そっかと呟いてから
「ということは、まだ俺はステーキを奢られてないことになるんだな?なるほど、今度奢ってくれよ」
とニヤニヤしながら小野寺に視線を向けた。
「ああ、また今度な」
あっさりとした小野寺の回答に藤原は拍子抜けした。
「お前って金持ちなのか?」
「さあて、どうだかね」
新宿駅西口改札に到着すると小野寺は立ち止った。
「悪い。俺はちょっと用事があるから先に帰ってくれ」
「怪しい黒づくめの男2人組でも見つけたか?深追いはするなよ?後ろから頭殴られて、子供にさせられる薬を飲まされるぞ」
「あれ、子供になる薬じゃなければ、毒薬でもなかったんじゃなかったっけか?つうか、突っ込みやらせるなよ。用事というのは買い物だから」
突っ込みもそこそこに小野寺は藤原と別れを告げた。買い物というのは方便で、帰る時間をずらすためである。小野寺は新宿駅のエキナカなどを眺めて暇をつぶしてから、中央線高尾方面の電車に乗って帰宅した。
小野寺が帰宅すると、父親がリビングのテーブルでノートPCを開き、作業を行っていた。
「ただいま」
「お帰り、俊。色々と活発に動いている様で」
父親は作業をしながら話しかけると、俊は父親と対面の席に座った。
「どうした?何か用か?この前貸した盗聴器、手持ちはアレだけだぞ。もっと欲しかったら自分で買うんだぞ?」
「いや、盗聴器は今のところ大丈夫。親父が言ったように欲しかったら自分で買うさ。ところでさ、親父の仕事に関わることかもしれないから耳に入れておこうかと思ってるんだけど」
俊の言葉にタイピングを止め、父親の陽一は視線を俊に向けた。
「なんだ?」
「親父が今調べてるかもしれない人なんだけどさ、模型が趣味だったよね?ホビーショーとかあるから、5月って海外行かないような仕事の組み方してなかったっけ?」
「そうかもしれないな…」
陽一はノートPCに視線を戻しカタカタとタイプを始めた。
「その娘が家族で海外旅行に行くとか言ってるから、調べた方がいいんじゃないかなとか思ったり思わなかったり」
「…そうか」
「それだけなんだけど、本当に海外に行くかどうか分かったら教えてほしいなとか思ったり思わなかったり……それだけ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
俊はリビングから立ち去り自室に戻った。ベッドに倒れ込み仰向けになって思考をめぐらす。
(…明確には教えてくれないだろうな。親父なら入管とかに問い合わせるだろうから、情報の確度は高いんだけどなあ)
俊は見知った天井を眺めながら、次の手について考えているとコンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「入るぞ。そのままだそうだ。ではおやすみ」
陽一が、俊の部屋のドアを開けて一言伝えるとすぐにドアを閉めて去っていった。まるで鳩時計の鳩のような動きであった。
「ありがとう……ってお礼言う前に行っちゃったよ」
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