第十六話 ランチョン・テクニック

 一通り対称Kについて情報を得た小野寺は、次の質問を投げかける。

 「では、俺の情報をどれだけKについて流したのか教えてもらおうか?」

 「そんな怖い顔をしなさんな、俺がお前のことについて大したことは知らないことをわかってるだろ?」

 藤原がやれやれと言わんばかりに掌を天に向けてかぶりを振る。そんな藤原に鋭い視線を向けた小野寺は続ける。

 「いいから、話せ」

 「さっき言ったように、お前と手合わせしたことだな。打撃系は使わず掴み系の技が多かった。古武術とか軍隊系かなと伝えた。そんで、強くて勝てなかったと伝えた。」

 といって藤原は、はっはっはっと笑うと小野寺は何とも言えない表情をした。

 「で、相手の反応は」

 「信じられない様子だったね。嘘ついてるんじゃないかとまで言われた。あんな、直帰する帰宅部が強いわけないだろとか、すげー言われようだったぞ」

 藤原がその時のことを思い出して笑っていると、小野寺は冷静な表情で応える。

 「なるほど、その情報は相手にはあまり信用されていないということだな」

 「さて、どうだか?といっても、強さってのはあまり気にしてないかもしれないな?」

 藤原が含みのある言い方をしたので、小野寺は問い詰める。

 「どういうことだ?」

 「あのお嬢さん、俺含めて6人ぐらいに用心棒的なことをやるよう依頼してるらしい。まぁ、寄ってたかってとかやるのかも知れないな。俺以外は運動部の奴らが多かったな」

 「おい、それ初耳だぞ。さっき言ってなかったろ?」

 小野寺が驚いた表情で藤原に突っ込むと、あれ?言ってなかったっけ?ととぼけた。

 「わりいわりい、忘れてたわ。だから、一人の強さなんてどうでもいいのかも知れないな」

 「6人か…」

 小野寺が右手を顎にそえて視線を反らし考え込んでいると、藤原はそれを遮るように話しかける。

 「まぁ、小野寺なら楽勝だろ。6人の中で一番強いの俺だから。その俺に勝ってるんだし、他の連中なんて屁でもないだろ」

 「……過大評価だ。昨日も言ったが今の俺とお前では体格差があるから、お前には勝てる自信がない」

 ことあるごとに、俺より強いと小野寺のことを持て囃す藤原に対して、小野寺は体格差について説明し勝てない旨を再三伝えてきたが、理解してもらえる気配を一向に感じられていなかった。

 「とりあえず、6人というのは理解した。その6人という情報はいつ聞いた話だ?」

 「先週ぐらいに聞いたかな?」

 (……なるほど、少なくとも6人と見ておいた方が良さそうだ)

 テーブルに藤原が頼んでいたステーキがやってきたが、先程同様にすぐに平らげる。店員を呼び出し、最初に頼んだものとは別のステーキを注文した。

 「お前、あんま頼んでないな」

 藤原があまり注文していない小野寺を気にした。

 「まあ、食うことがメインじゃないからな」

 小野寺が、アセット(情報提供者)から情報を収集するときには必ず食事の席を設けている。それはアセットに対しての心証を良くするためだ。まずエソロジー(動物行動学)の逆用による安心感を与えることと、心理学でいわれているランチョン・テクニックを用いて印象を良くすることを目的としている。このことによってもっと情報を引き出すことが出来るからである。

 「食い放題なのに勿体ない」

 「それ以上の価値があるってことさ」

 小野寺が問いに対してフッと笑って答えると、藤原は、ふう~んそういうもんかねぇと呟いてから、テーブルに置いてあるグラスの水を一気に飲み干した。その様子を眺めていた小野寺が質問を続ける。

 「さっきの言い忘れの件といい、もう少しKについて聞きこんた方が良さそうだな」

 「なんだよ、悪かったっていってるじゃねぇか」

 「いや、攻めているわけでなく、『すべて話せ』と言われると何から話そう?となって、質問された側は困ったり、さっきみたいな言い忘れも生まれるからな。だから、具体的な質問をしてみようかと」

 「そういうことなら」

 「では、Kのゴールデンウィークの予定について知りたい。対象TとIとは別行動をするところまでは把握できている」

 小野寺は単刀直入に対象Kの予定について聞く。藤原はああっ!と何かを思い出したようなリアクションをしながら話し始める。

 「そういや、家族と海外に行くとかなんとか言ってたかな?ほら、あいつの家は お金持ちなのはお前も風のうわさかなんかで聞いてるんじゃないか?」

 「なるほど、その情報だと確かに対象TとIとは別行動という点と合致するな」

 小野寺は両腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかって天を仰いだ。

 (その点では、確かに合致しているが……あの件で、聞いた情報ではゴールデンウィークに海外に出るとは聞いていないぞ……あとで照会してみるか)

 天を仰いでいる小野寺に藤原が怪訝そうな顔で話しかける。

 「……お前、家の場所知った挙句にゴールデンウィークの予定まで聞くとは……ストーカーにでもなるつもりか?やめてくれよ、まったく」

 宙を見つめていた小野寺は、視線を藤原に戻す。

 「あれをどうにかしたいと思う?問題しか起こさなそうだし、関わりたくもないんだけど」

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