第十一話 協力者としては

 「っていうか、こんなこと聞いて何の得があるの?」

 辻が真っ当な質問を小野寺にぶつけた。

 「いや、だいぶ収穫があったよ。色々とためになったよ」

 満足そうな顔をして返答する小野寺に、辻は続けて質問する。

 「小野寺って家の事情で、誰とも触れ合わずにすぐ帰ってるんだっけ?それで、こういう話聞いて満足してるとか?」

 「ご想像にお任せするよ。それにしても二日連続でお呼び立てして悪かったね」

 「…まあ、うち両親が共働きで夜遅いし、だいたい自炊してるから奢ってくれるのは正直助かってる」

 「そうか、それは良かった。てっきり、嫌で嫌で仕方なくて渋々来ているのかと思ったけど、そうでもなかったみたいだね」

 小野寺は辻の状況を知っているうえでの行動であったが、さも自分の行動が怪我の功名であったかのようなことを印象付ける返答をした。

 小野寺は時計を眺めると針は二十時半を示していた。

 「もう遅いし帰った方がいい。俺はもう一杯コーヒーでも飲んでから帰るよ。会計もしておくから」

 「…え?あっそうか、別々に帰るってことね」

 「ご明察」

 といってから小野寺は腕を出入口の方向へ向けた。辻は「じゃあね」と言ってから帰っていった。その後、小野寺はコーヒー一杯を注文し、ゆっくりと味わってから帰宅した。

 帰宅した小野寺は早速今日得た情報をまとめる。まとめ終わるとスカイプにログインし、山下を呼び出した。

 『お疲れ、小野寺君』

 「お疲れ、山下。今日の情報収集はそこそこ収穫があった。対象KとIについて色々聞けた。」

 『それは収穫だね』

 山下が同意すると、小野寺は説明を始める。

 「対象Iだが、Kのカーストを敷いてどうこうというのは、協力的ではないと思われる。行動を聞く限り、相手に危害を加えるというタイプではない。相手に施しをするタイプだ。しかし、その行動原理はどのような思惑があるのかを知らないと見誤る可能性がある。次にKの方だが、まぁ、見ての通りだな。自分の思うようにしたい、人の言うことを聞かないって感じだ。負けず嫌いってのも分かった。うまく挑発すれば、情報を引き出せるかもしれない。あと、実はオタクなのかもしれない。」

 『ええ!?』

 山下は驚き、声を裏返して反応する。

 「なんか妙にゲームのことについて詳しかったらしい。ゲーマーなだけかもしれんが、もしかしたら、それ以外のことにも造詣があるかもしれん」

 『なるほど、そこらへんを掘り出せそうな情報を拾ってくればいいんだね?』

 山下はふふふ…と、不敵な笑いをしてから、次すべきことを小野寺に提案する

 「イグザクトリー。もしオタクなのだとしたら、原因は同族嫌悪か何かか?まぁ、詳しく調べないとわからんが」

 小野寺は、対象Kがオタクであると決めつけてはいけないと、自戒を込めた返答をした。

 『頑張って調べるから、今日はこれで』

 と、山下は鼻息荒くして別れを告げるとスカイプをログアウトした。

 (やる気になるのは構わないけど、結論を決めつけた調査にならなければいいが…。変なバイアスが掛かると、まったく意味のない情報になる。こちら側も厳しく情報を精査しないといけないな)

 小野寺は一抹の不安を抱えながら、スカイプをオフラインにした。


 翌日、小野寺が登校すると、辻が教室で小島から詰問されていた。

 「咲良、昨日どこに行ってたのよ?」

 「え?両親がいつもより早く帰ってこれるから、外でご飯食べようって話になって」

 「ふーん、じゃあ下駄箱でなんか手紙みたいなの読んでいたけど、なにあれ?」

 「入れる下駄箱間違ってたんじゃないかな?宛先も宛名もなくてどうしようもないから捨てたけど…」

 「どんな内容だったの?」

 「隣の緑地で待ってますって内容だったかな?よく覚えてないや。っていうか、なんでそんなに見てるの?ちょっと気持ち悪いよ?」

 辻にじとっとした目線を送りつけられた小島は不貞腐れたように口を尖らせて

 「だってその、最近付合い悪いからさ…」

 と窓の外に目線を向けてバツが悪そうに答えた。

 「おー、そうかよしよし。寂しかったんだなぁ」

 辻は小島の肩に手を添えて優しく擦ると

 「べっ別にそんなんじゃないし!」

 小島はむきになって返答した。

 小野寺はいつものようにイヤホンで耳を塞ぎ、読書をするふりをして二人の会話を聞いていた。

 (うまく返したな。まぁ流石、手癖が悪いだけあるか。嘘もお手の物なんだろう。素養はあるかもしれんが、クリティカルな弱みを持っている奴はダメだ。握られたら簡単に不特定多数に操られるからな)

 小野寺は1年の頃から情報収集に使えそうな相手を見つけては、行動原理や特性を見定めて味方につけている。味方でなくても協力者であったり、自分に有益になりそうな人間とは積極的に関わっている。2年になってもそのつながりを切ることはなく、情報収集を続けている。しかし、高校内では一切接触せず、直接会うときは生徒や教員に見られないよう、高校から離れており人が多い都心を選ぶようにしている。もちろん、小野寺から呼び出しているため、交通費などは小野寺持ちである。

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