第九話 お食事会へのご案内

 辻に晩飯を奢った小野寺は、帰宅してからこれまで収集した情報をまとめ始めた。スカイプをオンラインにすると、山下からコールがあり通話を開始する。

 『お疲れ、小野寺君』

 「お疲れ」

 カタカタとキーボードを叩きながら小野寺は挨拶した。

 『で、上手くいった?』

 「一応、現場は押さえたよ。上手くいき過ぎて怖いな。罠なんじゃないかと思ったりする。とりあえず、こちらが質問を投げかけたら、正直に答えろって約束取り付けたけど、あまり期待は出来ないかもな」

 『なんで?』

 不思議がる山下に対して小野寺は説明を続ける。

 「相手の弱みを握って情報収集する方法は、コールドピッチって呼ばれるやり方なんだけど、情報提供者の恨みは買うから、積極的に情報収集しないし提供もしようとしない。諜報機関では、工作する時間がないときに使用する」

 『なるほど、あまり信用できないってことだよね?』

 「これまで取ってきた情報と裏取りしながら確認していくしかないな。まぁこれはどの情報収集手段も一緒だけど」

 『いつも通りってことだね』

 「その通りだな。辻は不安で仕方ないかと思うから、少しずつ和らげていかないとな。回らない寿司食い放題にでも連れて行くか」

 しれっと小野寺が高校生らしからぬことを言い始めたので、山下は驚いた。

 『何それ!僕も奢られたいです!』

 山下はビデオ通話でもないのに、パソコンの前で一生懸命挙手をして小野寺に嘆願する。

 「辻と一緒だと、俺と山下が連携してることばれるから、日を改めてね」

 小野寺が前向きな返答をしたことに山下は喜ぶ。

 『やったぁ!それにしても小野寺君のその予算はどこから?』

 山下が常々思っていたことを確認すると、小野寺はふふっと笑ってから

 「え?知りたいの?いいの?」

 と意味ありげな言い方をしてきたので、山下はなんとなく察する。

 『あ、いいです』

 小野寺は話を戻して辻について話し始めた。

 「今回の件では、精度のよい情報は得られないかもしれない。また、辻が何らかの理由を対象Kにけしかけて、俺を攻撃してくるかもしれないな」

 『え?大丈夫なの?』

 山下の心配をよそに小野寺は続けて話す。

 「今回の工作は情報収集というよりも、ここぞというときに好きに動かせる相手陣営のサーヴァントを手に入れたことが収穫だと思っている」

 『小野寺君、型月ネタもいけるんだ…』



 次の日


 教室窓側の後方から2番目の座席、窓にもたれ机といすの背もたれを肘掛けにし、足を組んでいる女生徒が近くにいる友人に話しかける。

 「最近さ、咲良の付合いわるくね?」

 授業の間の休み時間、けだるそうなしゃべりの問いに、友人は相槌を打つ。

 「そうだね。誘っても来てくれてないよね。用事があるって言ってたけど…」

 「もしかして男でも出来たか?抜け駆けとは許さん」

 と、腕を組みじとっとした目線を前方に座っている辻咲良へ向けた。すると、右手を顎に添えて何かを試案しているのか宙をぼーっと眺める。

 「よし!つけるか」

 「あまりプライベートを詮索しないほうが良いと思うよ。本人から自発的に言ってくれるの待とうよ、碧」

 良からぬことを言いだした小島碧を友人が諭した。

 「真紀は気にならないわけ?」

 「悪いことしてなければいいかなって感じかな」

 小島に辻のことについて聞かれた石光真紀はあっけらかんとした返事をした。

 「碧は少し強引なんじゃないかな?」

 「じゃあいいわ、私一人で尾行するわ」

 「全然、私の注意きいてないね」

 注意しても全く聞かない小島に石光は呆れていた。


 ブーっブーっブーっとスマートフォンが震えたので、辻は制服のポケットから取り出した。昨日を弱みを握られたのに飯を奢られたという何をしたいのかよくわからない小野寺からのショートメールだった。昨日、連絡先を交換していた。


 お食事会のご案内

 本日東京23区内で実施、参加のこと。

 詳細および交通費は下駄箱の中。

 追伸、ご友人が尾行する恐れあり、振り切ること。


 辻は滑稽な文章に噴き出した。

 (友人って誰だろ…)

 後ろを振り返った瞬間、小島は顔を背けた。石光は一瞥してから小島に話しかけている。

 (碧か…分かりやす過ぎるだろ。っていうか小野寺なんなの!?マジで気持ち悪いんだけど…)

 昨日も自分の動向を報告され、今日もである。完全に監視されていることは明白であり、辻は気味悪さしか感じなかった。

 その日の放課後、小野寺はいつものように一目散に帰ると2番目に教室を出たのは辻だった。辻は下駄箱で封筒を取り出し、中に入っていた紙を取り出した。紙に書かれている文章を読み取り、同封されていた公共交通機関用ICカードを取り出して校舎を出た。

 (何あれ?ラブレター!?)

 遠巻きから眺めていた小島は興奮しながら辻を追いかけた。辻は京王線にのり、京王八王子駅からJR八王子駅へ向かった。

 (チャージしておいてよかった、してなかったらすぐに見失ってたかも)

 小島は高校の最寄り駅で定期券として使っているICカードに電子マネーをチャージしておいたことに自画自賛しながら、引き続き辻を尾行した。

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