第二イベント~006

 んじゃ帰るか。とも思ったが、昨日の春日さんの態度が気になる。この頃寂しそうだし。

 多分アパートに居ると思うが、突撃しても大丈夫だろうか?

 つか、のこのこ行ったとして何するんだ?世間話?晩飯にでも誘う?だから二日連続で外食はキツイってば!!

 唸りながら歩くと、肩を叩かれる。振り向くと、木村だった。

「何してんだこんな所で?」

「何している訳でも無いんだが…」

 返事に困る。マジ何している訳じゃ無いからだ。強いて言うなら考え事をしている。

「…ん?ツラ腫れているような?誰かとやり合ったのか?」

 鋭い。こいつも喧嘩三昧の時期があったから解るんだろう。腫れはかなり引けて、学校でも誰にもバレなかったのに。

「ああ。ヒロとスパーで」

「大沢と?勝ったのか?」

 頷くと、木村は満足そうに笑う。自分に勝った奴が、他の奴に負けるのは嫌なんだろう。俺もその気持ちは解る。

「結構派手にやったようだな?スパーって練習試合みたいなもんなんだろ?」

 まあ、そうだが。それには事情がだな。

「で、なにがあった?」

「お前も知りたがりだな!?」

 結局聞くのか!!気になる気持ちは解るけど!!

「言いたくないなら別にいいぜ」

「いや、言いたくないって訳じゃ無く、わざわざ言う必要も無いって言うか…」

「じゃあ話せ」

 強引だな!!まあいいけど…

 俺はあのスパーの理由を木村に話した。ついでに今朝起こった朋美の親父の事も。

「……ふ~ん…つう事は、大沢の勇み足で終わったって事か。止めようとした次の日の朝に結着が着いたんだからな」

「それを言っちゃ身も蓋も無いが」

 まあ、結果ヒロの間抜けさを露呈しただけになったが、あいつもあいつなりに心配してくれた結果なんだし。斜め上の方向で頑張っちゃっただけだから。

「ともあれ良かったんじゃねえの?俺はオカルトなんてあんま信じねえけど、呪い?悪霊?ならなくてよ」

 確かにこいつはそう言うのを信じるキャラじゃねーけど、色々気を回してくれんだよな。黒木さん曰く、俺を気に入っているかららしいけど。

「あとは…何だっけ?安心させる為に女作るんだっけ?俺にはよく解らねえけどな。何で幽霊を安心させなきゃなんねえんだ?」

「そりゃ麻美は俺の恩人で好きな人で…」

「じゃあその麻美って女に告ればいいじゃねえか?」

「いや、だから麻美が幽霊で…」

「幽霊は病院に入院している女じゃなかったっけか?」

「そっちはストーカーだ!!幽霊みたいになった女!!」

 なんでこいつに説明してんだろう?こいつ心霊話信じねーんじゃなかったっけ?

 つか、要所要所で記憶が混在してやがる。こいつマジであんま興味ないんだな。覚える気があんま無いんだろう。

「ああ、そっか。お前楠木と付き合うのか」

「どこからそんな話が…」

「あれ?だんまりと巨乳だっけ?」

「春日さんと槙原さんな!!いい加減名前覚えてやれよ!!何回も会っているだろうが!!」

「ああ、そうそう。だんまりとお前映画撮るんだって?じゃあだんまりでいいじゃねえか」

 黒木さんから聞いたのか…彼女も配役持っているから、木村には言うだろう。観に来いって。

「なんだあ?三人とも気に入らねえってか?楠木はあんなんだが、結構女子力高いぜ?だんまりはよく知らねえけど、ツラはいいじゃねえか。小動物っぽいしよ。巨乳もいい巨乳だしな。あのレベルで満足出来ねえとか、お前どんだけ傲慢なんだよ?」

「誰が気に入らないっつった!!つか、いい巨乳って単語はなんだ!!素敵な響きじゃねーか!!」

 思わず同意してしまったが、気に入らないは絶対に訂正させて貰う!!

 三人とも俺には出来過ぎで、選べなくて困っているんだ!!

 木村が気難しそうな顔になった。だが、それも一瞬。直ぐに表情を取り繕う。

「そんなに悩むんなら、別の女にすりゃいい。安心させるだっけ?誰でもいいから女作ればいいんだろ?」

 それは川岸さんにも言われたな…だけど別の女なんて…

「出会いが無いとか言わねえよな?何なら俺が世話してやってもいい」

「いや…提案は有難いけど…」

 あの三人以外なんて考えられないって言うか…

「……どうせ誰も信用してねえんなら、相手は誰でもいいだろうが?」

 心臓が跳ね上がる!!何で木村がそれを…?

「…顔色が変わったな?図星かよ」

 つまらなそうに舌打ちをする木村。いや、お前の事は信用しているし…

 俺の意思を察したか、木村が先手を打ってくる。

「ああ、勘違いすんな。お前は多分男なら信用しているだろうさ。いや、ちょっと違うな。男なら裏切られてもぶっ飛ばせば事足りるから、信用してもいいか」

 ……そんな事は…無い…と、俺は何故言い切れない?図星だってのか?これも?

「女には心を許したくない、んだろうな。あんなあぶねぇ幼馴染持ってりゃ、そうなるだろ。同情もするし理解もできる」

 俺は押し黙る。その通りだからだ。だけどそれ以上は…

「他の女も、どうしてもそんな目で見てしまうんだろうな。だってお前をツラで選ぶ女が多過ぎるからな。あのキチガイもそうだろう?ダブってしまっても仕方ねえ」

「言っておくが…俺はあの三人はそんな目で見てねえぞ…お前は信じねえかもしれないが、何回もやり直した過去で、彼女達に何度も救われているんだ」

「聞いた話じゃ、そいつらに何度も殺されてんだろ?もしくは酷い目に遭った。トラウマを植え付けられた」

 ……それが俺がホントに心を許していない理由…

 悔しいが、その通りだった…

 黙っている俺に、木村が軽く溜め息を付いて肩を叩く。

「その程度の想いなんだ誰を選んだって一緒だ。もう悩むな。お前は充分頑張った」

 頑張った…って…何が…?

「お前の境遇も全部聞いた話だ。正直信じられねえってのはある。けど、見た事は信じられる」

「何を…見た?」

 声が擦れている。喉もカラカラだった。

「お前が今までやった事。的場ともやったな。武蔵野?だっけ?あいつからも証言を聞いた。クリスマスニアのストーカーを初めて見たな。ありゃ駄目だ。色々手遅れだ。あれを切ろうとしたお前の判断は正しい。海にも行ったな。地元の小物どもをぶん殴ったよな。俺とのタイマン、まだ一回しか負けてねえって事忘れんなよ」

「…………何が言いたい?」

「つまり、お前が色々頑張ったのは知っているって事だ」

 再び黙る。俺は言われるほど頑張っちゃいない…周りのみんなの力もあったから此処まで来れたんだ…

 だから木村は勘違いをしている。俺一人が頑張った訳じゃ無い。ヒロが、国枝君が、楠木さんが、春日さんが、槙原さんが、里中さんが…勿論お前も…

「みんなが力を貸してくれたから頑張れたんだよ…」

「そりゃそうだろ。お前一人で頑張っているとか思ってんのか?自惚れるなよ」

「あれっ!?この流れ予想と違う!?」

 驚きのあまり顔を上げた。

「お前のちっぽけな力なんか、たかが知れている。俺が言いたいのは、お前が頑張る理由と、あの三人の中から女を決めるのは違うって事だ」

「ち、ちょ、言いたい事は何となく解るけど、手のひら返し過ぎじゃねーか?」

 流石に黙っていられなかった。突っ込みたかったので突っ込んだ。

「いいから聞け。お前が頑張る理由は、繰り返し死ぬのを止める事と、幽霊を成仏させる事だろ?そしてその幽霊が何回も生き返らせてくれたんだ。借りも恩義もあるだろう。実際一番好きなんだろうし」

 俺は頷く。何回も。全くその通りだからだ。

「加えてお前の話だと、前回?過去?解んねえけど、兎に角あの女達に殺されたんだろ?もしくは碌でも無い目に遭った。今回でそれを回避できた。だろ?」

 またまた頷く。その通りだからだ。

「だったらあの女達にはもう用事は無い筈だ。碌でもねえ未来を変えたんだからな。だったら別に、あの女達に拘る必要もねえ」

「い、いや…それはちょっと違う…」

 なんだかんだ言って、俺も好意を持っている事が抜けている!!俺もいい感じにクズだなあ…

「そしてあのキチガイ女も、もう直ぐどこか遠くに行く、これでお前が一番したい事は、幽霊を安心させて成仏させる事だけになった筈だ」

「ち、ちょっとま…」

 正論をぶつけられて戸惑う!!

「もう一度言う。お前に協力してくれた連中も、お前が頑張っているのは知っている。お前は頑張った。もう、最後に一番自分がしたい事をすりゃいいじゃねえか?」

「だ、だから…」

「まだごたごた言うか?いいじゃねえか。お前はあの女達を心から信用してねえんだから、ぶっちゃけクジで選んでもいいレベルだろ?だったら誰でもいいじゃねえか?」

 ……言い方は乱暴だが…一番心に来た…こんな感じな事を、誰かに言って欲しかったのかもしれない…

 俯いている俺に木村が肩を叩いた。

「と、まあ、いい感じにリベンジになったところで、今日はもう勘弁してやる。いきなり一気に言われても、お前の事だから整理は付けられねえだろ。お前優柔不断だし」

 い、いや…ぐうの音も出ないが…リベンジ!?あの喧嘩に負けたの、根に持ってんのか!?

「んで、これからどうする?晩飯でも食ってくか?」

 二日連続の外食はキツイが…まあいいか。

「オーケー。うまくて安い店に案内してくれ」

「牛丼屋とか?」

 まあ、アリだな。ゆっくり話はできそうもないが。

「西高御用達のサ店とかはどうだ?糞マズイが安いぜ?」

「お前ん所の連中がたむろってる所か…別にいいんだけど、糞マズイんじゃなあ…」

 なんでお金払って糞マズイもん食わなきゃならんって話だ。ネタとしてはいいかもしれんが。


 ………また灰色の空間…空も地面も灰色…って事は…

 俺は辺りを見回す。

「居た…」

 俺から少し離れた所にテーブルと椅子があり、紅茶が湯気を立てている。お茶請けのマカロンもある。

「俺コーヒーの方が良いんだけどな」

 家主(?)不在なれど、先に失礼して紅茶を啜る。

「あ、勝手に寛いでる!!」

 家主がぷりぷり怒りながら近付いてきた。手にはマグカップを持っている。

「お前が遅いからだ」

「ふーんだ!!折角コーヒー淹れてきたのに!!」

 遅くなったのはコーヒーを淹れる為、か。

 俺が微笑むと怪訝そうに顔を覗き込んでくる。

「何?何かキモい…」

 ふざけんな!!と言いたい。お前が俺の為にコーヒーを淹れてくれた事が嬉しいんだろうが。

 不機嫌そうに眉根を寄せて俺の正面に座る。俺から紅茶を引っ手繰って。

「じゃあそのコーヒーくれよ」

「……」

 乱暴にカップを置く。零れなかったのが不思議だ。

 先ずは…と、俺は頭を下げる。

「…何?」

「いや、別に」

「何にも無いのに頭下げる訳?」

「そうだよ。お前を愛しちゃっているから、頭くらいは普通に下げるのさ」

「何それ。意味解んないし」

 とか言いながら、頬を染めて紅茶を啜る。

「…ありがとな。影で骨折ってくれて」

「別に?隆の為じゃないし」

 素直じゃないなあ。ツンデレってヤツ?俺は声を殺して笑った。

「…何?」

 ほっぺを軽く膨らませる。これ以上怒らせちゃマズイかな。

「前にも言ったけど、こんな簡単に出てきていいのか?」

「まあ、よくはないね」

「おい」

 身を乗り出す俺。だって、とマカロンを頬張りながら言った。

「隆に任せてちゃ、何も変わらないんだもん」

 おおう…痛い所を…

「それに、ただお願いしに行っただけだしさ。祟ったりしてないし」

 それでも結構ヤバいんじゃなかったっけか?

 麻美はふふっと微笑む。椅子の背もたれに体重を預けて、空を見ながら。

「これでホントに後は私を安心させてくれるだけ。大丈夫?」

「あー…大丈夫かなあ…」

 頭を掻いて濁す俺。遂に認めちゃったからな。俺は誰も信じていないと。女子限定だけどな。男は裏切ったらぶち砕けばいいからって割り切っているみたいだけど。

「あの三人は?前にも言ったけど、みんないい子達だよ?」

「知っているよ。だから申し訳ないんじゃないか」

 いい子達を信じきれない俺が酷くクズだ。ホントあの三人に申し訳ない。

 麻美は笑う。いたずらっ子のように。

「そりゃ、隆が私を愛しちゃっているのは、知っているけどさあ。死人を想い続けても辛いだけだよ?」

「あー…うん。頭では解っているつもりなんだけどさあ…」

 感情が付いて行かないって言うか、他の女子だと、どうしても一歩引いちゃうって言うか…

「木村君も言っていたけどさ、別に隆が苦しむ必要は無いんだよ?あの三人以外にもいい子はいると思うし。これから捜すのは超骨が折れると思うけど。川岸さんなんかどう?」

「その弁だと、麻美にとっては俺の相手は誰でもいい、って事だよな?それで安心できるのか?」

 此処も引っ掛かっていた。相手が誰でも安心できるのか?安心して成仏できるのか?選んだ女子が朋美みたいな奴でもいいのか?

「う~ん…なんていうかね、私も隆と同じなんだよ」

「俺と同じ?

 頷いて紅茶を一口啜る。幽霊でも喉が渇くのだろうか?素朴な疑問だ。

「うん。私も誰も信じてないんだよ。隆には大沢がいるじゃん?私は大沢もあまり信じてない。別に大沢が何かしたって事じゃ無く、私自身の感情でね」

 そりゃ麻美はヒロとの絡みも無いからな。そう思うのも無理は無い。

「隆が虐められていた時、誰も隆を助けてくれなかったし、転落死した時、隆は警察の人とか先生に、三年とゴタゴタがあったと証言したのに問題にもされなかった。まあ、ホントに事故で、殺されたとかは思ってないし、あの子のお父さんが揉み消しに頑張ったからだと思うけどさ」

 死んでからずっと俺を見て来た麻美だ。その状況を外から見ていたんだ。信用する気が無くなるのは当たり前か…

「私も信じているのは隆だけだよ。だから隆がいいと思った子なら、誰でもいいんだよ」

 ニカッと笑う。まるでお日様のような笑顔だ。

 それはヒロも言っていたな。お前がいいならいいんだと。

 じゃあ、と聞いてみる。

「逆にお前が安心できる事は、俺に恋人が出来る事だけか?例えば、何かで成功するとかはどうなんだ?」

 例えばボクシング。これは俺が凶器を得る為に始めた事だが、それを一旦置いといて、世界を目指す為に鍛え直すとか…

「駄目だね。だってこれは私の我儘だもん」

 我儘くらいナンボでも聞いてやるが、何で駄目?

「隆に忘れて欲しいから。と言うか、縛られて欲しくないから」

「俺に忘れて欲しいって…」

 忘れる訳が無い。縛られている感覚も無い。こいつ何言ってんの?

「要するに、隆には過去より前を向いて貰いたいのよ」

 サッパリ解らん!!此の儘お前を好きでいる事のなにが悪い?更に言うならば、この先お前よりももっと好きになるになる女子が現れる可能性だってある。それこそ状況次第だろ。リミットが秋なのは解るけど、安心させる条件が俺的に納得できない!!

 しかし、まあ…我儘って言っていたからな…そこが譲れない所なんだろう。我儘なんだし。

「う~ん…がんばってみるよ…」

 としか言えない。物凄くカッコ悪いけど。

「あ、因みに来月辺りがタイムリミットね。それ過ぎたら悪霊になっちゃうらしいから。早めにね」

 来月!?あ、うん。確かに秋までだって話しだしな。俺がグダグダしているのが悪いんだ。

 まあ、取り敢えず…

「もう一回向き合って見るよ。幸い春日さんとは放課後にも一緒の機会が増えている訳だし」

 あの三人ともう一度向き合えば何か解るかも。今まで受け身だったが、これからは攻める側にならなければ。朋美の脅威も無くなることだし。

「うん。そうして。ホント頼むよ隆。悪霊化はホントに嫌なんだからさ」

 拝む仕草をする麻美。それ、色々洒落にならんと思う。


 ………朝、か…

 俺は頭を掻きながらカーテンを開ける。寒い。もう完璧秋だ。

 …また麻美に無理させちゃったな。本来なら出て来る事もキツイ筈なのに。

 これも俺が不甲斐ないから悪いんだが。朋美の件も、結局麻美が何とかしてくれた形だし…

 俺は引き閉める為に顔を叩いた。結構強めだったから意外に痛い。

 ジャージに着替えて外に出ると、いつものようにヒロが家の前でストレッチをしていた。

「おうヒロ」

「おう。お前も柔軟早くやれ」

「おう」

 促されてストレッチを始める。昨日の事は敢えて聞かなかった。こいつも色々悩んでくれたんだから。

「そういや昨日よ、須藤の親父が、お前ん家の近くで待ち伏せてやがってよ」

「うおい!!せっかく俺が気を利かせてスルーしていたのに!!」

 台無しだ!!もう色々台無しだ!!

「まあ聞けよ。何でも須藤を治療に専念させるからって遠くに追いやるんだってよ。そこまで追い込んだのが日向だって」

 聞いたよ…朋美の親父と麻美から…俺が聞いたと知ったから今話題にしたんだろうけど…

「んで、昨日の夜遅くに転院したらしいぞ。夜逃げ宜しく、深夜に」

「マジ!?早過ぎねえか!?」

 昨日の今日でもう転院させたのか!?しかも深夜だと!?

「須藤って夜は家に帰っていたじゃねえか?帰ったと同時に簀巻きにし、そのまま運んだってよ」

 簀巻き!?マジ穏やかじゃねーな!!そこまで追い込まれて、追い詰められていたのか!?

 逆に言えば、朋美の親父はそこまで本気だって事だ。娘を守る。麻美から。幽霊から。

 状況を考えたら、一日だって惜しかったのかもしれない。

しかし、これで朋美の件は完全に終わった。今後は言い訳が出来ない。色々とな…

「あー。ん!!んんん!!」

 ワザとらしく咳払いして微妙に言い難そうなヒロ。何か言いたい事があるのなら、言ってもいいんだが。

「あー…走りながら話すか…」

「うん?そうか?」

 そんな訳で走る。

「あー…寒くなったよなあ…」

「そうだな」

 落ち葉で道路が埋まっている事から、いつ雪が降ってもおかしくはない。

「あー…寒いと一肌恋しくなるよな?」

「そうか?気にした事は無いが…」

 言い回しがいちいち昭和だが。

「あー…こんな寒い日だと、恋人と鍋とか突きたくなるよな?」

「お前さっきから何言いたいの!?」

 回りくどすぎる!!言いたい事は何となく解ったけど!!

「う~ん…う~ん…」

 言いあぐねているような気配。助け舟を出してやるか。

「また波崎さんから何か言われたのか?槙原さんとくっつけろ的な?」

「……うん…」

 うんざりした表情をどうにか堪えつつ、話を進める。

「そりゃ波崎さんは槙原さんの友達だから、色々お節介したくなる気持ちは解るけどさ…」

「いや…優自身も悩んでいるっつうか…ほら、春日ちゃんと同じバイトだろ?」

「それがどうした?」

「だから、春日ちゃんを応援したい気持ちもあるけど、槙原とは親友だから…なんつうか、これ以上春日ちゃんを欺きたくないって言うか…」

「春日さんを騙してんの?」

「そうじゃない!違うから!…って、俺もぶっちゃけ何言いたいか解らねえんだけど、気持ちは解るって言うか…」

 こいつ、何を言いたいのか解っていないのに、槙原さんのアシストしている訳? こいつの行動こそ訳解らんわ。

 解っている事は、惚れた弱みでハイハイ言う事聞いているって事だな。別に構わないと思うけど。俺もそうなりそうだし。

 だけど、だ。

「あんま偉そうな事は言えないけどさ、俺の事は俺が決めたいんだが」

「そりゃそうだろ…俺も言いたくねえんだよ。察しろ。」

 波崎さんに義理は通した感じにしたい訳か。

「んでよ。こっからは俺個人の野次馬根性なんだけど、結局誰に決めるんだ?そろそろなんだろ?タイムリミット」

 それが頭痛の種なんだよなあ…

 俺が良いなら誰でもいいと麻美も言ってくれたんだが、肝心の俺がプラプラしてる状況だからな…

「今、文化祭の出し物の関係で、春日さんと絡む機会が多くなっているだろ?先ずは春日さんから見極めようかな、と」

「…お前…何様?」

 そう言われるだろうよ!!俺も思っているんだから!!

「でも春日ちゃんか…眼鏡外してコンタクトにしてから、やたらモテるようになったよな。俺も何回か告られてたの見た事あるな。全部断っているようだけどさ」

 ふふん。これは自慢だが、俺は眼鏡時代の春日さんから可愛いと知っていたぞ。つか、眼鏡春日も可愛いじゃねーか。

「あの小動物っぽい所がまた何とも…ってな」

 恥ずかしがり屋だからな。俯いていたのも少し改善してきたし。

「体育祭じゃ、楠木が張り切っていたけどな。あいつも結構人気あるぜ」

 ふふん。結構家庭的な事は、俺以外は知らないだろう。外見だけじゃ解らんもんだぜ。

「すぐやらしてくれそうだって」

「誰だそれ言ったのは?ぶち砕くから名前言え」

 まだ薬の事が残ってんのか!!仕方ないとはいえ、そろそろ忘れてやれよ!!被害者の俺が許したんだから!!

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