第二イベント~001

 む~ん。困った…

 意気込んで朋美の親父に話しに行こうと思った、あの代休。

 ヒロのアホが一日中張り付きやがって、全く行動起こせなかった。

「優がバイトで忙しいから暇だ。だからお前、ちょっと暇潰しに付き合え」

 からの~…

「おっと、もうこんな時間か。今から帰るのも面倒だし、今日はお前ん家に泊めろ」

 結局丸二日、このアホに纏わり付かれて何も出来なかったのだ。まあいいんだけどさ。焦んなくても覚悟は決まった。後はタイミングだけだし。

 そんな事を考えながら登校する。勿論国枝君も一緒だ。国枝君もいちいち面倒だろうに、根気よく付き合ってくれるなあ。感謝だ。

「しかし、二年の秋は忙しいよね。進学組はヒーヒー言っているんじゃないかな」

 おっとヤバい。上の空で話を聞いていなかった。

 だがしかし、会話に含まれているキーワードで何となく解ったぞ。

「そうだよな。体育祭が終わった途端、文化祭だもんな」

「そうそう。今日のLHRは文化祭の出し物の話し合いらしいよ。そして文化祭が終わったら修学旅行。忙しいよね、ホント」

 そっか、修学旅行か。確か京都だったな。糞からなんか貰うんだったか。その件は後で槙原さんに聞いてみよう。

 その前に文化祭だ。いや~楽しみだなあ。

「去年は緒方君の家でブースの材料を作ったよね。今年はどうかな?」

「う~ん、また公開スパーやるの?」

「それも見たいけどね。出し物にもよるかな?人手が必要な準備ならまた…」

 いや~、やってもいいんだけどさ。ヒロとやる場合、マジになっちゃってさあ。

 あいつ、クリーンヒットをなかなか貰わねーから、こっちもムキになっちゃうんだよなあ。


「さて皆さん、文化祭ですよ文化祭!!」

 LHRで教壇に立って熱く拳を振るっているのは、実行委員に選ばれた花村さんだ。

 一年の時Bクラスの実行委員だったから選ばれたらしい。春日さんに聞いた。

「……お化け屋敷をごり押ししたのは、彼女なの」

 ほーん。まあ、あれはあれで結構面白かったけどな。

「それで我がE組の出し物ですが、お化け屋敷なんてどうでしょう?対案はありますか?無いですね?じゃあ決まりでいいですね?」

 元Bクラスの連中がざわめく。またか、と言った体だ。

「……去年もこうやって、無理やりお化け屋敷にしたのよ」

「ほーん…まあ…別にいいんだけど、言われっぱなしってのも気に食わないなあ…」

 対案があればいい訳だろ。揉めたら多数決で決めるだろうし。

 しかし、対案って言ってもなぁ…

 その時、一人の生徒がぴっ、と挙手する。確か彼は元Bクラスの…

「なんですか大和田君?また映画ですか?」

 ふふんと見下ろして笑う花村さん。イラッとするが、また、とは?

「……大和田君は一年の時に、映画を撮るとか言って対案出したけど、多数決で負けたの」

 ほう…じゃあ今回はリベンジか?

 大和田君は立ち上がり。花村さんを真っ直ぐ見て言った。

「俺は映画を撮って上映会やりたいんだけど、どうかな?」

 いや、どうかな?って聞くんなら、花村さんだけ見ているんじゃねーよ。クラス全体を見て言ってくれよ。

「じゃあ多数決取りますか?まあ、結果は決まっているでしょうけど」

「俺はメイド喫茶「却下です」」

 ヒロの案が即座に却下された。俺もメイド喫茶は他にも似たような物が出るから 要らないと思うが、対案として認めないのは如何なものだ?

 これは大和田君を応援せざるを得ない!!

 花村さんはふふんと鼻を鳴らす。

「映画と言っても色々なジャンルがありますが、何を撮るにしても予算が必要ですよね?各教室や部活に割り当てられた予算で完成できますか?」

「それについては、撮影機材は知り合いから貸して貰えるから」

 成程、機材がタダならセットとか衣装代くらいなのか?解らないけど。

「公開場所は?視聴覚室は使えませんよ?あそこは映研の部室ですし」

 その映研は去年ハムカツを売っていた筈だが。

「2-Eの展示なんだから教室でやればいい。去年のお化け屋敷も教室でやっただろ?」

 あの狭いお化け屋敷な。結構面白かったし、あれで春日さんもクラスに友達できたみたいだし、狭いのは悪い事ばかりじゃないよな。

 教室がざわめく。映画も面白そうじゃないかと。セットと衣装ならお金もかからないんじゃないかと。

 この雰囲気は花村さんにとっては不利な筈。だが、相変わらずふふんと鼻を鳴らして余裕たっぷりだった。

 つか、そんなにお化け屋敷やりたいのか?去年もやったんだろ?気持ち良く譲ってやればいいと思うが。

「オーケーオーケー。解りました。じゃあみなさん、演劇って事で宜しいですね?」

 ん?何故ここで演劇が出て来る?出し物は別に演劇でも構わないとは思うけど…

 同意を得ようと隣の春日さんに話掛けようとしたら、小動物のようにプルプル震えて項垂れる姿が。

 ど、どうしたんだ?様子が変だ?隣の楠木さんにそれを伝えようとしたら、楠木さんも頬杖付いてしらけた表情。

「ど、どうした楠木さん?春日さんも様子がおかしくなっちまったし…」

「んー?演劇って劇だよね?演技するんだよね?人前でさ」

 今更当たり前の事をなんで?

「元々そう言うのが好きで、演劇部に在籍している人らないいかもって思うだろうけど、殆どの人は演技なんてしたくないんじゃない?私基準ならそうだけど」

 な、成程な。俺も、中学の時も面倒で仕方なかったし、いざやるとなったら強制的に木の役に回されたし…

 重要な配役以外じゃ、そもそもやる気が出ないし、その重要な配役をやりたがる目立ちたがり屋はこのクラスには居ない。ヒロを除いて。

 演劇のキーワードで、大和田君が苦虫を噛み潰した顔で悔しがっているが…

 ここは比較的余裕がありそうな槙原さんに聞いてみよう。

「槙原さん、何で演劇が映画に関係あるんだ?」

「ん?演技するからでしょ?」

 んー?んんー……

「あ、そうか。どんなジャンルだろうが、演技してフィルムに収めて上映するんだな!!」

 今更ながらその通りだった。公開場所が体育館か視聴覚室かの違い程度だ。演技する側からしてみれば。

「でもお化け屋敷よりは票が入るかも。勿論上映作品が面白かったら、だけどね」

 体育館で開演時間が決まっている演劇よりも有利だと、槙原さんは言う。

 教室で上映するのなら次があるからだ、と。

 映研よりも優位に立てるのが、上映回数が文化祭終了時間まで何回も繰り返せる所だと。視聴覚室も映研だけじゃなく、他の部活でも使いたいから、結局一日一回ないし二回上映が限界だと。

 つか、映研の他に視聴覚室が使えるのか?去年はそんな雰囲気、微塵も感じなかったけど。それは兎も角、面白ければお客さんは時間が許す限り何回か見に来てくれる。結果票に繋がる、か。

 面白いのなら勝機は十分にある。

「大和田、何の映画撮るんだ?アクションか?そうなった場合、演技できる人間は限られてくるぞ?」

 誰かが突っ込みを入れた。確かにそうだ。マジもんの派手なアクションは勿論無理だとしても、最低運動部在籍レベルの人がやらなきゃ、動きがつまらない。

「それは…純愛物とかにすれば…」

「そこそこイケメンと可愛いカップルじゃなきゃ、誰も観ねえだろ」

 ヒーローとヒロインは絵面が全てだからな。それも納得だ。

「だ、だったらドキュメンタリーにすれば…」

「今から撮って間に合うモンなら内容薄いだろ?」

 誰だ、さっきから突っ込み入れてんのは?その通り過ぎて、大和田君が反論できなくて困っているだろ。

「そこで、イケメンでカッコイイアクションも出来る俺が主役に立候補してやる!!」

「やっぱお前かよ!!」

 突っ込んでいたのはヒロだった!!何だこいつは?残念過ぎる!!

「……へ、へえ…じゃあ大沢は、出し物は映画の方が良いと?」

 花村さんが笑いながら引き攣っている。どんだけお化け屋敷やりたいんだよ!!

「おおよ!!俺が主役なら全米を泣かせることが可能だぜ!!」

 そして相変わらずアホだこいつは。大方主役になって、波崎さんにかっこいい所見せたいってだけだろうに。

「大沢…俺…いい映画撮るよ!!」

 大和田君まで男泣きかよ!!まだ映画って決まった訳じゃ無いのに!!

「くっ…いいでしょう…では多数決を取ります!!お化け屋敷か映画かをね!!」

 花村さんどっかの悪役みたいだよ!!何なら其の儘映画で悪役やってくれよ!!

 で、投票の結果、映画に決定しましたとさ。

「くう…!!お化け屋敷が素人の映画に負けるなんて…」

 教卓を叩いて悔しがるが、結局お化け屋敷も素人の俺達がやるんだよな?同じじゃねーか!!

「……隆君はどっちに入れたの?」

 春日さんが話し掛けて来たので、ちゃんと答える俺。

「映画だよ。去年のお化け屋敷も結構面白かったし、運営側もいいかな、って思ったけどね」

「……そっか。私も映画。去年と同じだから、今年は違うのにしたいな、って思っていたから…」

 意外だな。いや、去年と同じって言っているじゃないか。新しい事をやりたいんだろう。良い事だと思う。

 そして、教壇では、大和田君とヒロが抱き合いながら男泣きしている最中。暑苦しいが、意外と羨ましい。

「やったな大和田!!で、どんなの撮るつもりなんだ?」

「ありがとう大沢!!まあ、指摘通りに時間があまり無いし、演技もあまり難しいのはできないだろうから、学園ものなら等身大で演技出来るんじゃないかな、と思う」

 学園ものか。確かに等身大で演技できるし、観に来るお客も学生が大半だ。共感も持たれるだろう。

「実はもう台本も出来ているんだ」

 恥ずかしがりながらも台本を掻い摘んで説明してくれた。その台本は家にあるらしいから、詳しくは説明できないそうな。

 ヒロは興奮気味に耳を傾けている。あいつ絶対主役の座を狙っているだろ。

「……とまあ、こんな感じだ」

「すげえ!!すげえぜ大和田!!幼馴染のモテモテの女の子を不良から救い出して恋人になるなんざ、誰も考え付かないぜ!!」

 あー。粗方把握できたわ。ギャルゲーにありそうだよな、それ。

「く!!ろ、LHRはこれで終わりです!!大和田君!!その脚本だか台本だかを明日持って来なさい!!みんなにもこのシナリオでいいのか聞かなきゃいけないので!!」

 まあそりゃそうだな。いくらなんでもってのがあるからな。

 どっちにしても俺には関係ない話か。裏方に回るんだろうから。

 んで帰り道。国枝君と仲良く下校中。さっきの出し物の話になった。

「僕はお化け屋敷に入れたんだ。衣装もセットも去年のB組の物を流用できそうな感じだったから、手間が省けるかなって」

「あー、そう言われてみればそうかもね。俺は去年お客側で参加したから今年はいいかな、って事で映画にしたんだ」

「しかし、映画か…映研とガチバトルになりそうだよね。票取れるかな?」

「面白い方に票が流れるから解り易くていいんじゃない?と言うか敵は映研だけじゃない、全クラスだし」

 大和田君のシナリオ云々よりも、それを表現できる役者がいないんだ。映研には負けると思うが。

「さっき大沢君とも少し話したけど、主役は喧嘩のアクションがあるらしいね?緒方君もイケるんじゃないかな?」

「いやいやいや、俺は演技なんてできねーから。つか、あのアホが主役狙っているだろ。解り易過ぎだ」

 ははは。と笑い合う。それ程までにヒロは解り易かった。大和田君もアシストしてくれたヒロに感謝して主役に抜擢するかもしれない。念願が叶ったら、おめでとうと言ってやろう。

 昨日に引き続きLHR。大和田君が台本をクラスの人数分コピーして持って来たので、読んでみる。

 昨日ヒロと絡んでいたのをチラッと聞いたが、荒筋はやっぱりそうだった。

 簡単に纏めると、主人公(二枚目半らしい)と幼馴染(学校のアイドルとか言われているヒロイン)の恋愛物(?)で、主人公が運動とか勉強とか頑張って、ヒロインと仲良くなるが、番長(笑)が出てきて喧嘩して勝って追付き合いに。

 端折り過ぎたようだが、こんな感じ。つうかこれ、絶対にどこかで見た事あるヤツだ!!

 兎も角、学園もので、等身大で演技は出来そうだから、演技の方は何とかなりそうだ。その分冒険も無しだけど。

「すげえ!!すげえぜ大和田!!俺はこんなに胸が熱くなったのは初めてだ!!」

「大沢なら解ってくれると思ってた!!」

 抱き合っての漢泣き。アホだなやっぱり。しかしヒロは兎も角、大和田君までもとは…

「みんな大体読んだ?じゃあ配役決めて頂戴―」

 今一やる気を見せない花村さんだが、一応実行委員らしく纏めてくれそうだな。

「ああ、そうだな。じゃあ主役の男子は…」

 大和田君がちら、とヒロを見た。

 ヒロは仕方ね-な、とニヒルな笑みを作りながら立ち上がろうとした。

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ。主人公って二枚目半なんだよね?最低限、見に来てくれる人の期待裏を切っちゃいけないと思うのよね」

 まさかの花村さんの突っ込みで、腰を浮かせた状態で固まるヒロ。

 あいつ自分で二枚目とか思っていたのか?二枚目半じゃないと?訳が解らん自信だな…

「う~ん…二枚目半ってのも、主人公に共感を抱かせたい為の設定なんだけど…」

「別に二枚目半が悪いって言っているんじゃないよ。せめてクラスのみんなで多数決取ろうって事。この人なら主役任せても大丈夫かな?的なやつよ」

「そうだな…仮にもE組の出し物で顔になるんだしな…」

 花村さんの言葉にみんな同意する。そりゃそうだ。主人公はクラス代表のようなもん。間違ってもウニ頭がEクラスの代表とか思われたくはない。

「そ、そうか…じゃあ…」

 ちら、とヒロに目を向けると、固まっていたヒロが漸く椅子に腰を降ろした。そして…

「投票か。それはいい考えだ。さあてみんな、アクションができてイケメンな奴を選ぼうぜ!!」

 こいつは自分が選ばれると思っているな。絶対に。

 俺は意地でもこいつには入れてやんねーけど。

 はがき大くらいの紙が渡され、それに主役をやって欲しい人物を書いて教壇に持って行き、花村さんが読み上げて多数決を取ると言う事で落ち着いた。

 早速俺にも紙が渡される。さって、誰を推薦するか…

  ……国枝君だな。イケメンだし。アクション云々はこの際置いておこう。

 紙に国枝、と書いて教壇に提出する。

 みんな結構悩んでいるようで、俺の提出は結構早かった。トップ提出はヒロだった。絶対自分の名前書いたなこいつ。

「おい隆、お前誰に入れたんだ?」

 勿論俺だろ?って顔で聞いて来るヒロ。

「国枝君だ」

「国枝か…そういやあいつそこそこイケメンだし、そこそこ運動も出来ていたな…」

「お前は自分だろ」

「え?あ、えー…」

 解った、もういい。だがこいつも意外と人気あるし(同性にだが)意外と票取れるかもしれないんだよな。何かの間違いで主役を取ったら、祝福は素直にしてやろうか。

 全員の票が花村さんの元に集まった。彼女はそれを拾い読み、黒板に名前を書き、正の字で票数を集計する。

「えー…緒方…緒方…緒方…緒方…」

「ちょっと待て!!」

 有り得ない事が起こっている。俺は居た堪れなくなり、立ち上がって集計を中断させた。

「なによ?」

「なによ?じゃねーだろ?何で俺の名前が読み上げられる!?」

「何でって…紙に書かれている名前を読んでいるだけなんだけど。て言うか、つまんない事言って集計中断させないでよね!!」

「つまんないって…」

「あーうっさいうっさい!!文句は集計が終わってから聞いてあげるから!!」

 キレられて渋々着席する。

 つか、何の冗談なんだ?俺の名前が一杯読み上げられるなんて!?

 マジで冗談であって欲しい!!俺に演技とか無理だから!!

「えーっと、続けるわよ。緒方、緒方隆、緒方隆君、国枝君…」

 漸く違う名前が出て来た…!!安堵した俺だが、それは一瞬で崩れる。

「緒方隆、緒方…三浦…緒方、おがた…」

 三浦君!!もうちょっと頑張ってくれよ!!このクラスじゃ一番イケメンだって、自分で自慢していただろ!!

「緒方、緒方隆、緒方君、天道つかさ様、緒方…」

 天道君!!これ絶対自分で入れたよね!!赤坂君と並び称される君が推選される事は、申し訳ないけど有り得ないよ!!

「国枝、緒方、緒方、緒方…大沢、緒方隆…」

「漸く俺の名前が呼ばれた!!おおおおお!!」

 アホか!自分で書いたんだから、最低一票は入っているだろうが!!

「梶原、緒方、緒方、くにえだ、緒方隆…」

「お、呼ばれた!!緒方で決まりだろうけど、結構嬉しいもんだな!!」

 嬉しいなら代わってくれよ梶原くぅん!!

「はは。地味に僕の名前も呼ばれているけど、緒方君の圧勝だね」

 圧勝とかいらないから!!俺を裏方に回してくれ!!

 どうしてこうなった…!?

 机に伏しながら、この有り得ない現象を検証しようと項垂れる。

 まずは落ち着け。幻を見たのかもしれないと、黒板に目を向ける。


 緒方 30

 国枝 4

 三浦 2

 天道 1

 大沢 2

 梶原 1


 ……駄目だ。現実を直視できない!!

「と、言う訳で、主役は緒方君に…」

「ちょっとまてえええ!!」

 もう形振り構っていられない!!俺は演技なんてできん!!基本的に脳筋の部類だ!!

「ああ、文句は後で聞くって言ったわね。で?」

「で?じゃねーよ!!何で俺にそんなに票が入るんだ!!」

「何でって言われてもねえ…アンタに入れた人に聞いてみたら?」

「じゃあ僕が…」

 挙手した国枝君。やっぱ国枝君も俺に入れたのか!!

「このクラスの中じゃ一番アクションが出来ると思うんだよね。ケンカシーンがあるじゃないか。リアリティを出すなら緒方君だよ」

 ……まあ俺って、以前は狂犬とか言われていたし?目が合った糞共はぶち砕いたし?ケンカシーンの場面なら、そこそこ出来るとは思うけど!!

「はい」と挙手したのは黒木さん。

「私も緒方君に入れたんだけど、このクラスじゃ一番カッコイイと思うからね。ちょっと目つきが怖いけどさ」

 君の彼氏の方が怖いだろ!!糞共の掃き溜め、西高のトップだぞ!!

「ほら、この前の体育祭あるじゃん?あの時緒方がやっぱ一番かっけーって思ったんだよな」

 美木谷君…嬉しいけど、そんな理由で推薦しないでくれ…

「そうそう。体育祭で一番頼りになった印象があるよな」

 もう駄目だ!!あの体育祭が鬼門だったんだ!!こんな事なら頑張らなきゃ良かった!!

「みんな待てよ!!隆は馬鹿だから演技なんかできねえぞ!!」

「大沢よりは頭いいでしょ?」

 里中さんの真実の突っ込みによって、静かに椅子に座り直すヒロ。

 この際お前でもいい!!代わってやるから何とかしろ!!

「って事だけど緒方君、異論ある?」

 花村さんのドヤ顔がムカつく!!アンタ何にもしてねーよな!?

 そして当然異論はある!!

「俺はそもそも主役をやりたくないんだよ!!」

「なんで?クラスの顔でしょ?そのクラスの顔に推薦されたんだよ?拒否すればE組に泥を塗る事になるんだけど」

 滅茶苦茶だ!!やりたく無い事なのに拒否れば、俺のせいで駄目になるとか!!

「俺は演技なんてできねーよ!!」

「文化祭までみっちり練習すればいいよ。精一杯頑張れば誰も文句は言わないよ。みんなが選んだんだもん」

 こおおおお!ああいえばこう言う!!どうすりゃいいんだ!!

「隆がやりたくないんなら、俺が「大沢は二票しか入らなかったから、時点で国枝君になります」」

 …………

 おおいヒロ!!なんで無言で座り直すんだよ!!もうちょっと頑張れよ!!

「緒方君。アンタの気持ちも解らなくもないけど、みんなが推薦してくれたのよ?緒方君なら失敗しても文句は言わない。連帯責任だって」

 こ、これは…暗に責任をみんなに分散させているな!逆に成功しても俺の手柄って訳じゃ無さそうな言い方だし!!

「ね?緒方君」

「………………」

「はい!!主役は緒方君に決定しましたー!!」

 パチパチパチ、と拍手喝采!!俺何も言ってないんだけど!!

「ちくしょう…済し崩しに強引に決められてしまった…」

 机に伏す俺。国枝君が背中を叩いて振り向かせる。

「これで面白くなるよ」

 小声で誰にも聞きとられないように言うので、釣られて俺も小声で返す。

「面白くって…俺は面白く無いんだけど…」

「違うよ。緒方君の本当の目的に近付くって事だよ」

 俺の本当の目的?そんなもん俺にあったか?

「じゃあ次はヒロインかな?取り敢えず立候補取るね」

 花村さんが言った瞬間!!

 俺の周りからガタガタと机を鳴らした音と共に、天井に向かって突風が!!

「案の定と言うか何と言うか…」

 呆れ顔で黒板に立候補者を記入して行く花村さん。

 楠木

 槙原

 春日

 ………こ、これは…

 恐る恐る周りを見ると、三人とも物凄い作り笑いしながら、シャキン!!と真っ直ぐに挙手している!!

 さっきの突風は挙手によるもの!?んなアホな!!

 つかこええ!!マジだこの人達!!

「面白くなるって言ったでしょ?」

 国枝君が笑いながら言う。イヤイヤ、面白くねーし!!怖いしマジで!!

「緒方君が主人公に当選したらこうなるって解っていたよ。花村さんもそうみたいだね。他の女子も遠慮してか立候補しないし」

 だから、こええからだろ!!当事者の俺の身にもなってくれって!!

「えっと、大和田、幼馴染のヒロインの特徴ってなんだっけ?」

 花村さんがいきなり質問するが、慌てず答える大和田君。

「え、えっと、兎に角可愛くて…」

 三人とも可愛いから問題は無いな。

「頭が良くて…」

 あ、ちょっと楠木さんが奥歯を噛んだ。塾通いしているから学力は上がっているんだろうけど、平均よりちょっと上くらいだからなあ。

「明るくて…」

 春日さんが俯き始めたぞ!!大丈夫!!前より明るくなったから!!

「性格良くて…」

 ……今槙原さんが本当に僅かだけど硬直したな…自覚はあるんだ…無いよりマシだから、いいと思うよ俺は?

「解った、もういい。要するに、非の打ちどころが無いヒロインって事だね?」

「まあ、そうだな」

「そんな女いないから!!夢見るなよ大和田ァ!!」

 何でそんなに大和田君に毒付くの花村さん!?そんなにお化け屋敷やれなくなったのが悔しいのか!?

「そんな訳で、ヒロインの条件は大幅譲歩します。こんなアホな設定の女いないから」

 完璧なヒロインをアホ呼ばわりしているよこの人…

「他に居ない?ヒロインやりたい人?」

 声を掛けるが誰も挙手しない。

 一瞬里中さんが腰を浮かせたくらいだ。

「……はい。じゃあ楠木、槙原、春日ちゃん。この三人で決選投票しまーす。紙を渡すから一人だけ記入して。あ、緒方君は駄目ね」

 なんでだよ?と言いかけたがやめた。俺が票入れるとややこしい事になりそうだから。これも花村さんの配慮か?

「緒方君、誰と共演したい?僕の一票その人に入れるから」

 国枝君が小声でからかって来る。

 俺は苦笑いで返すしかなかった。

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