第4話 ノア

 狂祖は山から降り地面に寝そべる。下からではわからなかったが、その身体は大きい。顎を地につけているが虚空の眼はまだ上にある。口は人を一飲みできるほであり歯並びが人間のようだ。


 子供も降り僕のもとまではや歩きで近づき二メートル手前で止まる。素足は汚れ、犬のフードから右肩に垂れるぼさぼさの三つ編みが出ている。


 左手が僕に向けられた。


「《鑑定》……ん?」


 その瞬間妙な肌寒さを感じ肩を擦る。


 誰かに見られたような?


「彼の者。いや、あなたは何に?」


「何って、普通の学生なんですが……」


 僕の記録ではそうで間違いない。……ここは何処かはわからないけど両親が心配しているだろうな。


「あのここは何処なんですか? 帰りたいのだけど混沌さん?」


 混沌と名乗った子供は考えている。ぼそぼそと小さく呟いていた。


「わかりません。だけどこれを集めれば何かわかるかも……」


 右手にある本を胸元にしまい。そこから小さい物を三つ取り出す。


「それと私の個人名を教えておく。私の名前はイース」


 小物は蛇、馬、羊を象っていた。まるで本物をそのまま小さくしたような、蛇の鱗のきらめきと馬のたくましい四肢、羊毛の柔らかさがある。


 僕はそれを見ながら言う。


「これを集める?」


 イースは頷き人差し指で中央にある時計に向ける。空欄の下の方が蛇、馬、羊で埋まっていた。


「動物の種像しゅぞうを集めれば何かわかるかも」


「種像?」


「種像は動物の力、生命、特性を宿したモノ、生殖ではない方法で増やすことができる始まりの動物」


 動物を集める。僕は言う。


「まるでノアの方舟?……だね」


 イースは僕を見る。


「私は最初に鑑定の魔法をかけた。だけど名前はわからない。名前覚えてる?」


 そして続くて言う。


「名前が無いのならあなたにはノアと名のってほしい」

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