第2話 十角形の大部屋

 ガラスの破片は砂ほどの小さい粒子になり強い風が僕の身体を吹き抜け、思わず目を閉じ右腕で目を守る。


 立っているのがやっとの強風、腕に当たるガラスの破片は感触はなく不意に収まった風に動かずに一呼吸おく。


 腕をゆっくりと下げて僕は目を見開いた。


 唾を一飲みし今の状況を理解するために周囲を観察する。


 なにもなかった暗闇から僕は部屋の中にいて十角形の一辺を背にして立ち尽くす。瞳に映るのは九つの台座と中心に置かれた大時計。


 背には両開きの大扉、その正面の一辺は飾り気の無い素朴な台座。だが台座に無造作に置かれた金色に虹色を写し出す一鱗いちりんは美しく変えがたい神秘を宿しており触れたいと思うことすら畏れ多い。


 左の四辺は手前から赤、青、緑、白の色彩を中心にした美しい装飾と独特な紋様が施された台座と飾りつけがされて鎮座するには十分な清潔さと豪華さをかね揃えていた。


 中央に置かれた大時計は24時間の振り子時計で接着部分は根っこが張っている。揺れる振り子の左から太陽が油絵で描かれ色鉛筆で書かれた朝から夜までの草原のイラスト、水墨画の月を行き交う。針は新品劣化を繰り返しながら進み、数字の上には二時間単位で白い空間が作られている。なにかが入るのだろうか?


 左に比べて右の四辺は汚れおぞましい。手前から噛み砕かれたようなボロボロの台座、人骨と書物が雑ざる台座、武具防具が溢れる台座。


 そして、一番雑多な台座。


 高価なモノから安価なモノを同列のように無造作に積み上げられ、武器にしても統一感もなく娯楽物も雑多であり台座の一部を除き大半が埋もれていた。


 雑多に混ざる山の上に巨大な白と黒が混ざり合う毛質の大きな犬がこちらを見ている。


 部屋を見渡す僕を襲うでもなく、まるで品定めをするように息を潜め、潰れた空洞の瞳が常に僕を捕らえていた。

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