File 8 New days

「ようこそACMへ」

 隊長フラッグからそう言われ、妖怪犯罪対策組織もといACMに悟は入隊した。

 初日の任務入隊テストは散々で体力的にも、精神的にも疲れており基地に戻り、置いてあるソファで倒れる様に寝てしまった。

「おい起きろ、ルーキー」

 女性の声がうっすら聞こえてくる。ぼやけた目を擦りながら体を起こした。

「シュルー?なんですか?」

 声の主は、直属の先輩シュルーであった。シュルーの見た目は、制服を着させたら高校生にも見れてしまう容姿だった。しかし昨日その両手から50口径の大型拳銃を両手から射撃させたのは信じられないが自分の眼で見た事実だった……

「訓練するぞ!訓練!」

 にこっと笑いながら悟の体を揺すった。

「わかりました。顔洗ってきます」

 洗面所へ向かった。

 なんだかゆるいな、そう思いながら顔や歯を磨いた。昨日の病院でフラッグから『監視下に置かれる』なんて言われたが生活環境が変わっただけで別に牢屋に入れられるなんてことはされてないし、そこまで変わってなかった。はぁ、紅音に会いたい……頼んでみるか。

「シュルー、準備出来ました。訓練って何ですか」

 どうせ射撃練習かなんかだろう。

「まずこれだ」

 さっきと同じにこやかな顔でエプロンを悟の目の前に見せた。

「こ、これは?」

「まずは腹ごしらえだ。料理ぐらいできるだろう」

 眉をピクっと上げこちらを見つめた。

「訓練って料理ですか。ACM《ここ》は妖怪退治の仕事でしょ、なのになんで料理なんか」

 不満をもらした。

「うるさいな、私は君の教育係なんだぞ。言い訳無用やる!」

 エプロンを押し付けられ、やらざるを得なかった。冷蔵庫の中に入っていたものを使い時間的には朝ごはんを作った。

「はい、出来ました」

 前もって座っていたシュルーのテーブルに料理を置いた。

「おお、意外といいじゃん。いっただきまーす!」

 アツアツのオムレツを頬張った。

「おいしいな」

 ただそれを言い、トーストやスープを黙々と食べ続けた。悟もお腹が空いたので、シュルーの目の前に座り自分で焼いたパンを食べた。

「ルーキー、そんなで足りるのか?」

 親戚のおじさんのような言い方だった。

「朝はあまり食べないんで」

「おいそれで人を守れるのか?エネルギーをしっかりためろ!いいな」

「わ、分かりました、頑張ります」

「だからヒョロヒョロなんだよ」

 言い返せなかった。

「食べ終わったら訓練だ」


 早速食べ終わり、二人で射撃練習場シューティングレンジへ向かった。

 そこにはフラッグやビッグマンもいた。

「おっ、来たな」

 フラッグは今か今かと待ちわびていたような言い方だった。

「まずはこれを、俺からのプレゼントだ」

 フラッグが一艇のハンドガンを差し出した。

「ガバメント?」

 M1911通称ガバメント型のハンドガンだった。

「よく知っているな、ルーキー」

 感嘆の声がシュルーから漏れた。

「ありがとうございます。だけどこれはもらえません、僕は犯人を殺すための道具は要りません、MK.23麻酔銃だけで十分です」

「そうだな、いろいろと説明しないといけないな。お前が、きのう使ったMK.23の麻酔銃仕様。対妖怪非致死性弾丸Anti Apparition non-lethal bulletを使っている、通称AAnlb弾。聞いた事ないかもしれないが、こっちの世界ではよく使われている。吸血鬼がニンニクが嫌いって言うのは知っているかルーキー?」

 悟に話を振った。

「あ、はい。小さいころの物語で聞いた事がありますが……あれって本当なんですか」

「あぁ本当だ。実際にはアレルギーのようなものだ。これを《AAnlb弾》を撃ち込むことによって軽いアナフィラキシーショックを起こす。よって相手に睡眠という行動不能に陥らせる。これがこいつの仕組みだ」

 フラッグがMK.23を見せながら説明をした。次はこっちだと言わんばかりにM1911を見せた。聞くしかあるまい。

「こっちは対妖怪弾Anti Apparition bullet通称AA弾これは普通の弾薬ではなく銀含流量を増やし相手に有効打を与える。この前V.V感染者に襲われたときに弾丸が効かなっただろう?」

「はい、確実に弾丸は相手に当たったはずです」

 あのことは脳裏にべったりと、くっついている。

「吸血鬼や他の妖怪たちは驚異的な回復能力を持っているんだ。だから普通の弾丸では効果がないがAA弾はそれを無効化し、相手を無力化することができるんだ。

 まぁ相手を殺したくないって言うのは分かるが一様持っとけ。なにが起こるか分らんメインウエポンとサブウエポンは必ず持っとけ、まぁお守りがわりだ」

「わかりました。使うことはないと思いますけど」

 不機嫌そうに受け取った。

「よしシュルー、ルーキーを任せたぞ。俺は外に出てくる」

 フラッグたちは射撃練習場から出て行った。

「ルーキー、君も不思議な子だね。自分をこんな体にした吸血鬼たちが憎くないのかい?」

「まぁ憎いですよ。なんで自分がってね。だけどそれを他人に向けるのは……」

 悟は少し言葉に詰まった。

「自分がそう決めたならそうしなよ。だけど私の訓練はしてもらうよ。せっかくの後輩に死なれたら困るからね」

 シュルーは照れくさそうに、にこっと笑っていた。

「はい、ご指導お願いします」

「かたくなんなって。肩の力抜いてな。まずフラッグからもらったガバメントで練習すっか」

 バン、バン、バン

 やはり反動はやはりほとんど無く、ヴァンパイアになる前よりか命中率は高く能力は各段に上がっていた。

 ダン、ダン

 隣ではデザートイーグルを両手に携えて、的の真ん中に打ち込んでいた。

「シュルーはなんで馬鹿みたいに撃てるんです?何者なんですか?」

 思わず聞いてしまった。

「馬鹿見たいって、太ももにAA打ち込むぞ」

「すみません言葉を間違えました」

「ははっ、冗談だよ」

 口角は上がっていて、ぱっと見、笑っていたが目はガチだった。シュルーは話を続けた。

「私もV.Vに感染してんだ。ちょうど去年くらいにね、そん時、私も信じられなくて軽く暴れちゃってね、君と同じでフラッグにスカウトを受けたんだ。で私は初め、22口径の小型拳銃を使っていたんだけど攻撃力不足でね。だからこいつにしたんだ」

 攻撃力が足らないからって、いきなりそれにするのか?いささか疑問だった。

「それより何この結果?」

 悟の射撃に対して文句を言った。三発、的に撃ったが一発真ん中を外してしまった。

「百発百中になるようにしろ。麻酔銃を使うんだったら、的確な場所に打ち込まないと効果が減少するからな」

「はい。頑張ります」

 それからマガジン十個分ほど撃ち尽くした。

「はぁ、お腹空いたな。よしルーキーごはんだ、ごはん」

 作るのはもちろん悟だった。食材を冷蔵庫を出しメニューを考えた。

「おっ、昼飯か?俺たちも頼む」

 フラッグとビッグマンが戻ってきた。

「もー、みんなルーキーをこき使い過ぎ、ハラスメントよ」

 横からボイスの声が聞こえた。

「私も手伝うわ」

 そう言いながら包丁を握り、悟を手伝った。


「はい、おまどうさま」

「お、ルーキー意外と料理できるんだ」

 オムライスを全員分作った。

「まさか、卵料理しかできないなんて言わないよな」

 シュルーが鎌を掛けてきた。

「文句言うんですか?あなたは、まず料理できないでしょ」

「べ、別に文句じゃないし、料理出来るもん」

 ボイスが怒りシュルーの痛いところを突いた。

「あなたが出来るのは目玉焼きでしょ」

「うっ」

 シュルーはぐうのねも出なかった。

「悔しい。おいルーキー!」

 急に叫んだ。

「は、はい」

 悟はびっくりしっかりとした声が出なかった。

「何ですか?食べ終わったら訓練ですか?」

「ちがう、料理教えろ!ボイスに言われっぱなしは、腹が立つ」

 いじけた声で悟に命令した。

「すまんが明日は任務がある。ルーキーはサイズ合わせとかがあるからシュルー、料理はボイスに教えてもらえ」

「は?!ふざけんな、こんなくそ女に」

「くそ女ですって?身体だけじゃなくって頭も貧相なんですね」

「はぁ?!なんだとこの身体だけが特徴のサキュバスが!」

「別にちゃんと仕事してるし、サキュバスは関係ないでしょ!」

 ……

「ルーキー、ここの女には口答えするなよ。あぁ怖い怖い」

 二人には聞こえないようにフラッグが悟に話しかけた。

「「フラッグなんか言ったか」言いましたか」

 案の定聞こえてた。

「いや、な、なんでもないよ」

 フラッグは泳ぐ目でごまかした。

「フラッグ、あとでお話があるんですけど」

「今じゃダメなのか?まぁいい後でな」

 昼食を食べ終わり、悟はフラッグに連れられ武器庫に足を運んだ。

「ここはだいたいの武器は揃う。今はいないが武器の管理人がいるから武器で気になったらここに来るといい」

「はい、ありがとうございます」

 その部屋は武器庫と言うだけ見渡す限り武器が陳列されていた。

「明日は本格的な任務だ。装備をしっかりしないとやられてしまうからな。色々試すぞ」

 フラッグは奥に入り何か色々な物を持ってきて悟に見せた。

「服はこの前みたいなスーツでいいか?」

「はい、意外と動きやすかったです」

「それならショルダーホルスターだな」

 早速つけてみた。これならスーツの上着に隠せる。屋外に出ても威圧せずに済みそうだ。

「よし、決まりだな。後はベルトにサブウエポン用のホルスターと手錠。こんなとこだろ」

 そう言いながら悟に装備を黙々と渡していった。

「フラッグ、さっき言った話なんですけど」

 話を切り出した。

「あぁなんだ?」

「紅音には会えますか?心配であと僕の状態は彼女にどうやって説明されていますか」

 少しため息をし、フラッグは話し始めた。

「V.Vの安全性も分からないんだ。だから、君の事は謎の病原体に身体を侵されているから面会も出来ないと伝えてる。すまないが、彼女とは当分、会えない。そして病原体の研究の為、海外に行くことになってる。学校の先生や親御さんにも伝えてる」

「そうですか。それなら、紅音に手紙は書いちゃだめですか?」

「手紙くらいなら、多分大丈夫だろ。こっちで何とかする」

「ありがとうございます。あと今日の朝、話してたAA弾はありますか?9mm弾で」

「あるが、どうしてだ?」

 急なことでフラッグは困惑していた。

「これです。これを紅音に送りたいんですけど」

「わかった。それもこっちで何とかしよう」


 その日の夜

 急いで手紙を書き、フラッグに託した。

 紅音に届くのを信じ、寝床に着いた。



 ピンポーン

 早朝の紅音の家に一つのこずつみが届いた。

「なんですか?通販?私頼んでないけど」

 眠そうな声で宅配便に言った。

「紅音さんはいらっしゃいますか?」

「私ですけど」

「こちらにサインをお願いします」

 言われるがままに紅音はサインした。部屋に戻り、荷物を確認した。

 宛名しか書いておらず誰からか分からなかった。とりあえず中身を開けることにした。そこには綺麗な字で『紅音へ』と書かれた手紙が入ってていた。流れる様に手紙を開け読み進めた。


 紅音へ

 病院の先生からも聞いたと思うけど、僕は謎の病原体が体に入ってる。今の所、身体は大丈夫だから心配しないで。海外に行って治してくる。いつになるか、分からない。だけど必ず紅音の元に戻ってくる。約束する。その間は紅音を守れない、だから僕の拳銃を持っといてくれ。お守り代わりにでもいいから。警察にも話は通してるから。

 あと最後になるけど勉強分からなったら先生に教えて貰えよ。

 じゃあ、必ず帰ってくるから

                              悟より


 手紙にはそう書いてあり中には悟の持っていたberreta nanoが一緒に入っていた。

「サトくん……絶対だよ」

 小さく手紙に呟きながら、ぽろぽろと涙を流した。


 同刻

 悟たちACMも任務を開始させようと現場に向かった。

「フラッグ、手紙は?」

「安心しろ今頃、彼女の胸の中だ」

「ありがとうございます」

 フラッグには感謝しかなかった。

「紅音……必ず帰るから……」

 小さく呟いた。

「着いたぞ、任務開始だ!」

 それとは逆に大きな声でフラッグは隊員たちに言い放ち、全員が車外に出た。

 任務開始だ。





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ACM 妖怪犯罪対策組織 苔氏 @kokesi

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