File 7 Incomprehensible everything

ピコン、ピコン

心拍のモニターが一定のタイミングで波打っている。

部屋は白く清潔感があった。

薄ピンクの服を着た女性がこちらにやってきた。

「目を覚ましましたね、大丈夫ですか?」

「ここは?」

かすれた声しか出なかった。

「ここは、都内の病院ですよ」

どうやら自分が病院にいることが分かった。もう一つの疑問が沸き上がった。

「あ、紅音は?」

「一緒にいた子ですね。大丈夫です。あの子には擦り傷一つ付いていませんよ」

看護師はさとるを安心させるかのように優しく伝えた。

「喉が渇いたんですが何かくれませんか?」

「はい。今持ってきますね」

看護師は部屋から出て行った。

まだ意識が朦朧もうろうとしている。どれくらい寝ていた?

首元を触れると、包帯がぐるぐると巻かれていた。少し傷が痛む。

「お水です。病み上がりなので常温ですが」

看護師から水を受け取った。

「あの僕ってどれくらい寝てました?」

「えーと、確か、三日程ですね」

ポケットから手帳を出し、確認しながら悟に言った。

「そうですか」

自分の最後の記憶を思い出しながら水をすすった。

「ウッ!」

口に含ませた水からよくわからない味がした。

三日間も水を飲まないと、こうも違うのか?

確認するようにもう一度口をつけた。

今まで飲んでいたそれとはまったくもって違った。

「すみません、水に薬でも入っていますか?」

看護師はそれを聞いてぽかんとしていた。

「普通のミネラルウォーターですよ。それも軟水の……」

それを聞き、もう一度その水らしきものを飲んだ。

やはりいつも飲んでいる水とは違う、どちらかと言うとまずい。それでも喉の渇きを癒すためには飲むしかない。

すると部屋にもう一人の看護師が入ってきた。婦長さんだろうか?

「ごめんね、こっちを飲んでもらえる」

同じ透明色の液体を持ってきた。

あまり水は飲みたくない。しかし持ってきてもらって飲まないのはどうだろうか……

「ありがとうございます」

それを受け取り水らしきものに口をつけた。

一口飲んだ。

「さっきとは違う『水』だ。」

感嘆の声が悟から漏れた。

その感想を黙々と婦長さんは紙に書いていった。

「やっぱりな」

知らない男の声がした。その男は部屋の壁にもたれかけていた。服装が黒く影になっており見えにくくなっていた。

「やっぱりって何ですか?」

悟が聞き返した。

「お前は普通の人間じゃないってことだよ!」

悟は声を失った。何も声が出なかった。

人間じゃない?何を言っているんだ?思い出した、あの人は僕を助けてくれた警官だ。それにしては冗談が、きつ過ぎる。

「待ってくださいよ。意味が分からないですよ。まず人間じゃないって。僕が宇宙人だって言ううんですか?」

訳が分からない、途中から何故か笑ってしまうくらいに。

「ちょっと!なんでいきなり言うの私から伝えるって言ったのに!」

婦長さんがその人に怒った。自分からしてみたら本当に何が起こっているか、分からなかった。

「落ち着いて話を聞いて」

婦長さんがこっちの目を見てお願いした。

「はい」

悟は返事をするしかなった。

「ごめんなさい。先に謝らせて。さっきの水、普通の水じゃないの。初めに渡した水は鉄分の一切を取り除いた水。そして次に私が渡したのが鉄分含流量を多めに入れた水なの。そして君は後者の方が口に合った。というよりか前者の水はおいしくなったはずよ」

悟に綺麗に当てはまっていた。婦長は話を続けた。

「これはあなたが吸血鬼ヴァンパイアになってしまったことを残酷だけど表してしまうの」

「ヴァンパイア?なにふざけたことを言っているんですか?冗談でも面白くないですよ」

笑いながら悟は話した。

「いや、あなたはV.Vヴァンパイア・ウィルスに身体を侵されているの。犯人から移ったものだわ。今は分からないと思うけどヴァンパイアは鉄分が体からの排出量が多いの、だから『血』を飲む。すぐにあなたも飲みたくなるわ」

「あの時く首元から大量に血を吸われた。だったらなんで僕は生きていて将人まさとは死んだんだ!」

「しっかりと説明するわ、ニュースでは出血性ショックと言われているけど実は違うのV.Vによるアナフィラキシーショックが原因で将人さんは死んだの。貴方の細胞は、たまたまV.Vと結合しあなたは生きてる。その代償としてあなたはヴァンパイアになってしまったの」

「わかったか?と言う事で君は私たちの監視下に置かれる」

男は急に話し始めた。

「は?!何を言っているんですか!急に君はヴァンパイアだとか、監視下に置かれるとか、意味が分からないですよ!そうだ紅音は?紅音はどこにいるんですか?」

声を荒げ、悟は怒鳴った。

「紅音さんは今、学校にいます安全です」

「わかりました。僕はもう大丈夫です。学校に行きます。そこをどいてください。冗談を言うならもっとマシな事言った方がいいですよ」

ベッドから起き上がり外に出ようとした。

「だめよ!今外に出ては!あなたを襲った犯人だってV.Vに感染していたの!放っておくとあなたも同じ事が起きてしまうわ!」

婦長さんが取り押さえようとした。しかし

「僕は大丈夫です。どいてください」

悟はその忠告を物理的に振り払った。

「きゃっ」

婦長さんはベッドの方向に吹き飛ばされた。

「はぁ、だから俺に任せろって言ったのに」

パシュッ

小さく男は呟き、懐から拳銃を出し、悟に躊躇なく一発撃った。

サイレンサーをつけていた為あまり病院内には響かなかった。

「撃たれた?僕が……」

悟は急な睡魔に襲われた。

目覚めたのは夕暮れ時だった。

「あれ?僕は?確か撃たれて……うっ」

頭がガンガンして痛い。隣にはさっき悟自身が吹き飛ばした婦長さんが横に寄り添うように座っていた。

「やっと起きましたか。体は大丈夫ですか?」

優しく悟に話しかけた。

「頭が痛いですけど大丈夫です。あとさっきはごめんなさい。あんなに力が出るなんて……」

「大丈夫ですよ。あんなのしょっちゅうですから。あと急にあんな事言われたらパニックになりますよ。こちらこそごめんなさい。」

「そう言えば銃の傷跡が無い気がするのですが?」

「それは吸血鬼用の麻酔銃よ」

「それが効くって言う事はやっぱり……」

認めざるを得なかった。

「やっと起きたか」

あの警官が来た。

「ようやく分かったか自分の置かれた状況を」

「だからそんな言い方はやめてくださいってさっきも言ったでしょ!」

また婦長さんに怒られている。

「わかった。すまんかった。話を戻そう、君は率直に言うともう普通の生活には戻れない。V.Vに感染した場合いつ拒絶反応や暴走するか、分からないんだ。」

「ふ、普通の生活に戻れない?」

「あぁそうだ。このまま一生病院生活になる。しかし俺と契約しろ。そうすれば自由ではないが閉じ込められる事は無い」

いきなり悟に言い放った。

選択の余地はなかった。

「契約ってどうすれば?」

「付いて来い。着替えろ」

「は、はい。着替えろって僕の服多分血まみれだと思うんですが」

「大丈夫よ、こっちで用意してるから」

用意された服に着替えた。その服は黒色のスーツのようだったがとても動きやすかった。病院の表には黒い車が止まっていた。

「あなたも付いてくるんですか?あとどこに行くんですか?」

婦長さんも付いてきていた。悟と婦長は後部座席に乗りこんだ。運転席にはもう人が乗っていた。

「警視庁ってわかる?」

「はい。わかりますけど」

「そこに行くの」

「まさかやっぱり僕を逮捕するんですか?」

「お前は馬鹿か!さっき俺の仲間になるって言っただろ!逮捕してどうするんだ」

助手席に乗っていた警官が怒鳴った。

「ふふっ落ち着いて。あなたは私たちの仲間なんだから」

軽く笑いながら婦長は悟を落ち着かせた。

「着いたぞ」

車から降り建物に入った。

早速エレベーターに乗り込み地下へ向かった。

そこはコンクリートの打ちっ放しの部屋が広がっていた。

「ここがACMの本部、ようこそウォームホーム暖かい我が家に」

まずオフィスの様にパソコンが並んだ部屋が悟を出向かえた。

じゃじゃ馬シュルー、出撃だ!ジョブ仕事だ!起きろ」

一人机に突っ伏し寝ている人を起こした。

「フラッグ、私はまだオフだぜ。起こすなんて」

「うるせぇ!起きろ。ルーキー《新人》の紹介だ」

「あっほんとだ新人だ。じゃあ私の後輩ってことか」

「あぁそうだ。きょうから教育係ってとこだな」

「よし、こき使ってやろ」

自分の分からない所で何かが起こっていた。

「よし自己紹介から。俺はモーントリヒト・A・シュバルツ。ACMの隊長をやっている作戦中はコードネームで呼んでいる俺は「フラッグ」と呼んでくれ」

その警官の名前がようやく分かった。

「次は私」

婦長が名乗り出た。

「私は涼森彩華すずもりいろはACMの医療班兼通信手「ボイス」って呼んでね」

語尾にハートがついてるのではないかと思うくらい明るく話した。さっきまでの婦長さんの物静かな感じは一切なかった。

「じゃあ次は私ね。私は黒崎琴くろさきことACMの戦闘員「シュルー」ってコードネームがあるけどフラッグが勝手につけたんだ。私は気に入ってない」

「最後に自分が」

後ろに立っていた大男が名乗り出た。

「自分はイートン・シルト。ACMの運転手をやっている「ビッグマン」と呼んでくれ」

「皆さんよろしくお願いします。僕は柊悟ひいらぎさとるです。コードネームは……」

もちろんコードネームなんて持っていなかった。

「お前はまだ「ルーキー」だ。いいなルーキー!」

フラッグがコードネームを付けてくれた。

「よし!ACM出動だ。ルーキーの入隊テストも兼ねてな。準備しろ」

フラッグが手をパンと叩きながら全体に言い渡した。

「ルーキー、ついてこい武器を渡す」

「武器なら持っていますが」

自分の持っているberreta nanoベレッタナノを見せた。

「ははっ!こんな護身銃セルフディフェンスじゃ、戦えないぞこれを使え」

そういい大型拳銃を悟に渡した。

「これは?」

「MK.23 Mod.0だこれを使え。ダブルアクション方式で弾数もダブルカラムで12発ストッピングパワーも不足しない45口径使ってる。相手も一発あれば十分だろ。まぁ今回は違法な販売ルートの摘発だから撃つこともないだろうがな」

「あ、ありがとうございます」

「よし現場に行くぞ」

「はい」

ボイス以外が車に乗り込み現場へ向かった。

「あの、さっきから気になっているのですがACMって何ですか?」

フラッグに聞いた。

「あぁ、悪い。言っていなかったなACMとはApparition妖怪 Crime犯罪 Measures対策 organisation組織の頭文字をとった部隊名だ。簡単に言うと人間じゃない奴らの相手をするってことだ」

「妖怪なんて現実にいるなんて……なんで世間ではそれが知られないんですか?」

「はぁ、少し考えればわかるだろ」

呆れ気味に返した。そして話を続けた。

「まぁいい、ジャンヌダルクはなんで焼身刑にされたかわかるか?」

「はい。確か魔女と間違われて……はっ!」

悟は理解した。

「わかったようだな。そうだ、あの時代にはもう魔法使いなどは沢山いたし吸血鬼バンパイア狼男ウルフマンだっていた。当時は全てを悪しき物と考えられてた。だから罪もない一般人を疑い、拷問し、殺した。今は人間だけの世界だと思っているがそれでも、いじめなどが発生し自殺が起こっている。今頃、『世界には妖怪がいます』なんてものは信じないと思うが、自分たちの勝手な思い込みで人間同士で傷つけあうはずだ。それを防ぐためにも公表してないんだ。だから俺たちACMも一応警察の一員だが知っているのはお偉いさんとかぐらいだ」

全部説明してくれた。

現場は港の近くで沢山の倉庫が並んでいた。辺りは夜で月光が青白く照り付けていた。

「ビッグマンは車両に待機、車両の護衛を。シュルーとルーキーはついてこい」

「了解」

隊員全員が合意した。

倉庫に向かいフラッグが扉に手を掛けた。

「おい、ルーキー、銃ぐらい用意しとけ。いつでも撃てるようにな」

「は、はい」

悟は急いで銃の用意をした。静かな空間にチャキンと金属が擦れる音が響いた。

全員が銃を構え、先に進んだ。

「今回はこれが……」

ひそひそと話声が聞こえた。

「止まれ。隠れろ」

フラッグが二人に言った。倉庫内は電気で照らされていたが、周りには荷物やドラム缶が沢山置いてあり隠れる場所は沢山あった。犯人は十数人がいた。

「よしルーキーいいか?フラッグが決め台詞を言ったら私たちも行くぞ」

「ACMだ!違法薬物、臓器の密売の疑いで署までご同行を願おうか」

フラッグが目の前の犯人達に叫んだ。それと同時に二人も銃を向けて物陰から出た。

「ACMだって!まさか見つかった?」

一人の男がうろたえた。

「なんだか知らんが全員撃て!」

周りの男がライフルを向けてきた。

ダダダダ

数人が躊躇なく弾丸をぶちまけた。

「危ない!隠れろ!」

「うわ!」

シュルーが服をつかみ、さっきまでいた物陰に伏せさせた。弾丸はちょうど頭上を通っていた。

「まじか!相手はマシンガンなんて聞いてない!」

「落ち着けルーキー慌てんな」

シュルーはマガジンの弾丸を確認しながら落ち着いていた。

「こんな状況で落ち着けなんて!」

耳を両手で塞ぎながらシュルーに叫んだ。

「相手の持っているのはAK-47アサルトライフル。せいぜい毎分600発程度、十数秒もすれば弾切れだ。相手は幸いなことに乱射する事しかない馬鹿だ」

シュルーの言う通りすぐに弾が飛んでこなくなった。

「よし、今だルーキー行くぞ!」

合図された。何も教えてもらったことのないのにどうしろと……

「て、手を上げろ!」

とりあえず警告した。

「ば、馬鹿!今さら警告してどうすんだ!」

「だって、いざ人を撃つと思うと……」

「おい、相手はバンパイアだ。同種に同情か?それならまた病院送りでもいいんだが」

フラッグに脅された。撃つしかない……トリガーに指をかけ相手を射線に入れた。

撃つぞ!トリガーを引こうとした。

「うわ!」

またシュルーに服を引っ張られた。

「おい。ハチの巣になりたいのか」

葛藤している間、相手は弾倉交換マグチェンジを終えており再び発砲してきた。

「そんな、力むな、お前の銃は人を殺さない。さっきお前を撃った麻酔銃だ」

それを先に言ってくれ、そう思ったがあえて口には出さなかった。

「それなら……撃てます」

「まぁ俺たちの今回の任務はあくまで犯人確保だからな。次のタイミングで行くぞ」

「了解」

快く頷いた。

また倉庫内は沈黙に包まれた次の瞬間違う銃声が響き始めた。

麻酔銃だと思うと躊躇なく撃てた。反動はV.Vの影響でほぼなかった。

ばたりばたりと相手は倒れていった。

「くそっ!使えねぇな!俺が相手だ」

大声で悟たちを挑発した。悟は照準を合わせ撃とうとした。

「ウッドペッカーだ伏せろ!」

フラッグが叫んだ。何事かと思い物陰に伏せた。

バ、バ、バ、バ、

今までに聞いた事のない発射音が倉庫内を包んだ。コンクリートはえぐられ体に当たればひとたまりもないと見ただけで分かった。

50キャリバー五十口径だ。もう手加減は要らない、シュルーお前の出番だ。

の名は伊達じゃないことを教えてやれ」

「了解!この時だけシュルーでよかったって思うぜ」

両足に付いたホルスターからMK.23ではない大型拳銃を出してきた。

「そ、それは?」

悟はその拳銃を知っていた、だからこそシュルーに聞いた。

「ルーキーしってるかのか、デザートイーグル。フィフティにはフィフティ。当たり前だよな」

得意げに言った。デザートイーグルは50A.E弾を撃つ数少ない大口径拳銃だ。それを二丁拳銃でなんて……少しいかれてるんじゃないか。

シュルーは立ち上がり射線の前に出て行った。

「ダンシングタイムだ」

ニヤリと笑い、弾丸を発射しながら相手に向かった。飛び交う弾丸を華麗にかわし、さながらダンスを踊っているようだ。数秒で相手に近づき、自分の間合いに入れ、たった数発で相手を無力化した。

「公務執行妨害で現行犯逮捕だ」

シュルーが相手に静かに告げた。

全員に手錠をかけここに居るすべての犯罪者を無力化した。しかしこの人数は悟たちの車に乗せれない。フラッグ曰く、ACMが無力化したのを収容する部隊があるらしい。また今度教えてくれると言っていた。

倉庫を出ると朝日が昇っていた。 


帰りの車でいきなりフラッグに話を振られた。

「入隊試験合格だな。射撃の腕も良好。しっかりと命令も聞く。申し分ない。改めて、ようこそACMへ」

「ありがとうございます」

「やったな。私の後輩君明日から、こき使ってやるぞ」

悟の新しい日々が始まろうとしていた。






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