File5 Happy Halloween?

 世間は仮装して町を練り歩く季節となっていた。それとは関係なく静かに過ごそうと思っていた今日この頃……。

 悟はあまりハロウィンは好きではなかった。日本で言うと「お盆」とか「収穫祭」の類だし仮装なんてちびっ子たちがやることだ。

 学校が休みの朝、郵便を見るために玄関の扉を開けた。

「トリック・オア・トリート!サトくん」

 目の前には見覚えのある女の子が仮装をして立って居た。

 小悪魔の格好をしていた。多分おばさんは許可を出したのだろう……いやノリノリでOKしたに違いない。無言で扉を閉めた。

 ピンポン!ピンポン!ピピピピンポン!

 とてつもない連打でチャイムを連打してきた。出ないとずっと連打してくるだろうし、小悪魔姿で外に出しておくのは少し可哀そうだ。それに意外と露出が多かった。

 周りからの目も気になる。ドアをもう一度開けた。

「なんで閉めるの!いたずらするよ!」

 はぁ、小さく呟き

「もういいよ、中に入りな」

 小悪魔は、なんの躊躇いも無く部屋に入った。その衣装の胸元は大きく開いており、悟は目のやり場に困った。

「お菓子なら、ほらっ」

 違う方向を向きながら、大きさ様々な袋菓子をテーブルにざっくばらんにぶちまけた。

「わぁすごい!こんなにも!色々言ってるけど意外とサトくんも楽しみだったりして」

 眉をピクっと上げ鎌を掛けてきた。

「馬鹿を言え。毎週紅音は僕の家に来るだろう。その時のおやつだ」

 負けじと紅音に言い放った。

「明日ね、商店街でハロウィン大会があるんだ。一緒に行こ」

 ニコニコとお菓子を食べながら誘ってきた。

「行ってもいいけど……」

「もちろん仮装はいっしょにね」

 紅音は食い気味で悟の声に被せてきた。

「仮装は無理!」

 紅音には悪いが断固として反対させてもらった。

「なんでよ!」

 頬を膨らませ、むっとした。

「だって高2にもなってコスプレは……」

 紅音の姿を見ながら、また拒否の意を表した。

「いいもん、じゃあ一人で行くもん!」

「そんなこと言うなよ。」

 紅音は、フンっと鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。

「ほら、お菓子食べなよ。少し考えよう」

「仮装してくれる?」

「いや、ちょっと……」

「もういいよ」

 ご機嫌斜めになってしまった。こうなると少し厄介だと悟は知っていた。

「だって最近危ないし。なんで紅音はそんなにやりたいんだ?」

 とりあえず疑問点をぶつけた。

「だって、たのしいから、あと……」

 たのしいから?!日本で言うお盆だぞ。盛大にやってどうする?!しかし、そんなこと言ったら、紅音の機嫌が斜めどころか垂直になるだろう。

「あと?ほかになにかあるのか?」

「仮装すると福引きが出来るの……」

「福引き?!」

 思わず聞き返してしまった。

「うん……だってお父さんの電動シェーバーが壊れちゃって……それが景品だから」

「それの為にか?」

「うん、三等だし、サトくんもいたら確率上がるかなと思って誘ったんだけど……」

「いいよ。行こう」

 だいぶ正当な理由だった。おじさんの為にと言われると、断る理由も無い。

 しかし悟にはある問題があった。

「衣装なんかもって無いぞ」

「あっ……」

 嫌な返事が返ってきた……。


 その日の夜、いつものように紅音の家に行き夜ご飯を食べに行った。夕食時、もうさすがに紅音は着替えていた。

「あした、商店街のハロウィン大会行って来る!」

 紅音が元気よくおばさんに伝えた。

「あと、お母さん、サトくんに合う衣装ある?」

 ついで悟の衣装の事を相談した。

「そうね。悟くんはメイドは嫌でしょ。」

「さすがに……」

 柔らかく断ったが、無理だ。おじさんのために電動シェーバーを当てたいけど、メイド姿で外には出れない。

「残念ね……」

「そうかぁ。ごめんね、サトくん無理言って」

「僕も力になれなくてごめん」

 申し訳なさそうにおばさんはもう一度口を開いた。

「何言ってるの?私はただ悟くんのメイド姿が見えないことに残念と思っただけど。ほかには執事バトラー姿ぐらいかしらね」

 えっあるんだ。悟は静かにびっくりしていた。

「やったね!じゃあ明日はメイドにしようかな……ふふふ」

 にやにやしながら何か妄想していた。てか何着持ってるんだよ。少しの疑問を持ちながら夜ご飯を食べた。

「サイズとかは大丈夫ですか?」

 一番の心配な所を聞いた。

「うーん、そうね」

 頬に手を当ておばさんが考えてた。

「私が昔、来てたものだ。体格もだいたい同じだし着れるだろう」

 急におじさんが呟いた、まさかのおじさんのものであった。

「そうね、あなたのだから悟くんも着れるはずよね」

「何ですかその謎理論!」

 思わずおばさんにつっこんでしまった。

「まぁ明日には準備しておくわ」

 おばさんは腕を組みドヤ顔で豪語した。

「ありがとうございます」

 悟は何もできないためお礼だけ言って家へ帰った。


 次の日、朝早く紅音に呼ばれ、ハロウィン大会より始めに試着大会が始まった。

 普通のスーツを着るみたいに意外と簡単であった。ぴしっと執事服を着た直後。

「やっぱり悟くんメイドにしない?絶対可愛いわよ。メイクもしてあげるから」

 口惜しそうに悟に衣装を見せてきた。

「恥ずかし過ぎます。絶対に無理です」

 前と同じく断固と反対した。

「見てサトくん!」

 隣の部屋からTheメイドが出てきた。

「どうかな?」

 不安交じりの声で聞いてきた。

「似合ってる、可愛いよ」

 昨日とは打って変わって露出は控えめであり、自分の彼女というのもあると思うが、お世辞なしに可愛いの言葉が似合っていた。

「ありがと、サトくんもかっこいいよ」

 頬を赤らめお返しと言わんばかりに悟の衣装を褒めた。

「はいはい、いちゃいちゃはそこまでにね」

 二人はおばさんの存在を完全に忘れてた。

「私はすぐに出てくから続きはその後お願いね。羨ましくなっちゃうから」

 そう言いながらすぐにおばさんは部屋を後にした。あんなことを言われ、二人っきりになると逆に気まずくなってしまい少し沈黙が出来た。

「てかなんでこんな朝早く?」

 ハロウィン大会は夕方に開催するためだいぶ時間があった。

「こうやってサトくん写真を撮るためだよ」

 自撮り棒を用意し、にこっと笑った。


「だいぶ撮ったでしょ。もういいんじゃないか?」

 朱音の写真フォルダがは、二人でいっぱいになっていた。

「サトくんのスマホ貸して」

 紅音にスマホを手渡した。

 おもむろにロックを解除し悟のスマホのインカメラで二人をレンズに映した。

「何だよ、写真なら紅音のスマホに沢山入ってるだろ?」

「ふふふ、違うんだよ。サトくんのスマホで撮るからいいんだよ!はい・チーズ!」

 にこっと笑いながらシャッターを切った。

「意味が分からん」

 照れ隠しとかでは無く本当に意味が分からなかった。そう思いながらカメラにピースした。


 こんこん

「あなた達いつまで部屋にいるつもり?」

 おばさんが扉をノックするまで昼時を過ぎてるのを気づかなかった。軽く昼食を済ませ、ハロウィン大会への最終準備をした。

「悟君、今日は銃を持って行くのかい?」

 おじさんが二人になった時に聞いてきた。

「い、一応、携帯免許も持っていますので、マフィアとか、なにするか分かったものじゃないんで」

「あぁ、そうかそれは人を守る道具だ。くれぐれも使い道を誤ってはいけない。あと万が一があったときは逃げろ。いいな、意味は分かるな」

 悟は黙ってうなずいた。

「二人とも何話してるの?はいこれ!商店街の福引券」

 おばさんが紅音に数枚手渡した。

「それって?」

 思わず悟は聞き返した。

「えっ?福引券よ。商店街で買い物すれば貰えるわよ」

 悟はこの数週間の買い物は、近場のコンビニで済ませていた為に商店街で貰えるのは知らなかった。

「おい、紅音、後で話がある……」

 紅音の方に不自然な笑みを向けた。

「えっ……いやぁ……行ってきます!」

 頭を掻きながら悟の手を引っ張り、商店街に向かった。


「紅音、買い物すれば貰えるなんて聞いてないぞ」

「ごめんなさい」

 すぐさまに謝ってきた。

「なんでだました?」

「ごめんなさい。だってあんな事あってさ、サトくん暗かったし、二人で出かけれなかったから……」

 そういえば将人の事があってから遠出という遠出もしてない。それに銃の講習があったから祝日も出かけれていなかった。

「だから誘ったのか?」

 コクっと小さく頷き、そのままうつむいた

「こちらこそ、ごめん」

 うつむいた頭に手をポンと置いた。

「へっ……」

 紅音は、はっきりと声が出ていなかった。

「これでおあいこだ。よし!おじさんの髭剃り当ててハロウィンも楽しむぞ!」

「うん!はやく行こ!」

悟の手を引き、少し速度を早めた。

あまりハロウィンは楽しみではなかった。

紅音と一緒だったら楽しめるかもしれない。





























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