File4 First Shot

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 悟は、警察署に行き射撃講習の受付をした。 学校の教室の様な場所に案内され、講習は、そこまで待たずに始まった。講習者は自分を入れて六人程だった。


「前回ペーパーテストでやりましたが、もう一度復習を行いましょう。引き金は人差し指の腹の部分で引いてください。しっかり両手で支えて撃ってください。じゃあ射撃場に行きます。自分の銃を持ってきてください。」

 講習者はガンケースに入れて射撃場に移動した。そこは板で分けられており一人一ヶ所、屋内射撃練習場シューティングレンジに講習者は振り分けられており一人一人に先生が付いた。


 照準を定めゆっくりと引き金を絞った。

 バン!

 乾いた炸裂音と共に銃口から、弾丸が発射された。

 産まれて初めて銃を撃った。肩に来る衝撃。耳栓を着けても伝わる、鼓膜への振動。火薬の激しい閃光。全てが初めての感覚であった。

「よし!安全装置セーフティを掛けろ!」

 後ろに立ってる先生が少し大きな声で悟に話しかける。

 先生が何かのボタンを押した。するとターゲットがこっちに寄せられた。

 その結果は、ターゲットの中心を大きく外れ余白の白い部分に掠りもしなかった。

「力、入りすぎ。肩の力抜いて。リラックス、リラックス。引き金は指の腹で引くんだよ。まぁこればかりは練習かな」

 優しい口調で修正点を指摘した。

 悟は、再びターゲットに銃口を向けた。一呼吸置き、弾丸を発射させた。

 バン!

 ターゲットをもう一度手前に寄せられた。そこには、小さくだが確実に穴が開いている。

 当たった......小さく声が漏れていた。

「そうだ。うまいぞ。よし、もう一度」

 先生はニヤリと笑い、もう一発撃つよう促した。


 銃の反動は、意外にもすぐに慣れた。百発百中。ど真ん中とはいかないが、気を落ち着かせ、引き金を引くと必ずターゲットの何処かには当たるようにはなった。


 後片付けをし、警察署を出ようとしたところだった。先生も表まで見送ってくれるところだった。

「悟くん?やっぱりだ。変わらないな」

 急に横から声が聞こえ、声の主は父の友人であった。

「笹間さん、お久しぶりです。この銃の件ではありがとうございます」

「いや、いや。生活安全課はこれぐらいしかできないからな」

 すると先生が笹間さんに話しかけた。

「笹間君、久しぶりだな。元気にやっているかね」

「坂田刑事課長ではないですか!お久しぶりです。こっちに配属させてもらい気楽にやらせてもらっていますよ。坂田さんはなんで講習会の先生なんかやっているんですか?」

「いまじゃ先生プロも人員不足でな、くじで来ることにな。まぁ意外と人に教えるとはいいものだな」

「そうですか、ではまたのお越しを……」

「くじであたったらな」

 悟を残し、話が進んでいった。それに気づいた笹間さんは

「じゃあ悟君、また今度」

「はい、それではまた今度」

 二人に一礼し、警察署を出た。

 悟の腕はピクピク、だいぶな筋肉痛に。眼の奥もじんわりときょう一日の疲れが帰りにどっと来ていた。

「あっ!さとくん、お帰りなさい」

 偶然にも帰り道に紅音とばったり会った。

「紅音どうしたの?こんな時間に」

「お母さんにお使い、頼まれちゃって。ほらこれ」

 野菜などが見え隠れする買い物袋を悟に見せた。

「他に寄る所ある?」

「無いよサトくんもう直接家来る?夜ご飯もだいたい出来てるし」

「じゃあそうしようかな……それ持つよ」

「ほんと、ありがと、だけど重いよ」

 少し心配そうに悟を見た。楽勝さ、と小さく呟き紅音から袋を受け取った。


「大丈夫?持とうか?腕ピクピクだよ」

「大丈夫!大丈夫だから!」

 意外ときつかった。しかし悟は、男の意地だと言わんばかりに袋を譲らなかった。腕はピクピクしてるのに……

「ただいま。途中でさとくん拾ってきたよ」

 拾ってきたって……。紅音の声を聞いて、おばさんが玄関に来た。

「こんばんは。すみません、やっぱり着替えた方がいいですよね」

「いいわよ、そんな。疲れてるでしょ」

 笑顔で悟を家に上げた。リビングに行くとすぐにごはんがが出てきた。

「すぐにサラダも作るね」

 キッチンから包丁の音と共に声がした。

「ありがとうございます」

 そう言いながらご飯を口に運んだ。

「悟君、きみから火薬みたいな、においがするね」

 ば、ばれた。

「やっぱり着替えてこればよかった」

 小さく呟いた。

「じゃあ、今持っているのかい?」

「はい、持っています」

 小さく頷き、テーブルの上に拳銃を出した。

「あらどうしたの?あら!」

 おばさんがキッチンから出てきて、驚きを隠せずにいた。

「黙っていて……すみません……」

 みんなの中で少しの沈黙が続いた。

 おじさんが口を開き、沈黙を破った。

「銃を持つことに別に反対はしない。私も護身の為に持っているからね」

「そうなんですか?」

 意外な事なので思わず聞き返してしまった。

「あぁ、だけどなんで私たちには言ってくれなったんだ?」

 おばさんもこっちを見てきた。

「すみません」

 悟はただ謝る事しか出来なった。

「まぁいい、悟君はなんでそれを持つことにしたんだ?」

「将人の事があったし、丸腰だと紅音も守れないから……だけど持つことを反対されるかも、と思ったし。心配させたくなかったので……」

「君の言う事は分かった」

 おじさんは一呼吸置きもう一度口を開いた。

「ありがとう」

「えっ……」

 悟は気の抜けた返しか出来なかった。

「紅音を守るためにそれを買ってくれたんだろう?それに悟君の事だ悪用はしないだろう。賢いから撃つべき時に撃てる。そう私は思う。なぁ母さん」

「うん。紅音を守ってくれるって言っていたけど。大事なのは自分よ。命あってこそ人を守れるのよ、それを忘れないで」

 二人は悟が銃を持つことに否定的な意見ではなかった。それがどれだけ悟に安心感を与えたか……。後ろめたい気持ちがなくなって緊張がほぐれた。悟は急に涙が出てきてしまった。

「泣かないの。ほらごはん食べましょ」

 おばさんは悟にタオルを渡し、ごはんを食べるように促した。

 勿論おばさんの夕食は例にもれず、おいしかった。


 家に帰り、すぐさまシャワーを浴びた。

 火薬の匂いを洗い流すかの様に今日に限って入念に身体を洗った。

 タオルを首にかけ、バックから銃を取り出した。メンテナンスするために、スライドの部分や銃身など各パーツを分解した。綿棒やシリコンスプレー、オイルをしみ込ませたタオルで拭いたりと、さっきの悟のシャワーの様に入念に汚れを落としていた。手はだいぶ汚れたが銃は新品同様までピカピカになっていた。

 そして一発一発、新しくマガジンに弾丸を装填していった。














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