#07 彼女の願い
「ねぇ、紅音。もし、私が海に行きたいといったら、連れて行ってくれる?」
いつものように、彼女は自分が置かれている状況から逃げ出してここにいる。
でもいつもと違うのは、そしてこの前とも違うのは、彼女が僕にそんな風にして願望を言ってきたことだ。
「それは……無理ですね。僕の仕事は、逃げ出した枢の居場所を突き詰めること。枢を海に連れて行ってしまえば、きっと……今まで僕に与えられてきた報酬はすべてなくなってしまいます」
「そう……ね。そうよね。あなたは、そういう人だもの、ね」
小さく、そして少し消え入りそうな、そんな声だった。
「でも珍しいですね。そんな風に、枢が言うなんて」
「それは……。いえ、あなたには関係のないことね」
その日は、確かにいつもと違っていた。
そんな短い言葉しか交わしていなくて、それで枢自身が赤聖家へと連絡を入れたのだ。そんな事なんて、一度もなかったのに、その日は、その日だけはそうして、
それで、その理由を近い日、僕は知ることになる。
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