#06 このために

 その日は月に一度、赤聖から報酬が渡される日だった。

 10年前、南米の一つの植物キオライトが人の手によって絶滅し、それから多くの樹木は光合成とともに人にのみ影響を及ぼす毒素を発生させるようになってしまった。

 それがひたすらに植物を蹂躙してきた人への罰なのかは分からない。けれど事実として、多くの人々はそうして病に侵され、だけど赤聖のDNAはそれを無視して、無事に生きている。僕はそんな赤聖に尽くし、その見返りとして月に一度、毒素の中和薬と、仕事を終えた暁に最新鋭デバイスを貰う約束をしている。


 そんなことを思いながら、病室の扉を軽くノックする。


「はーい」


 中からは明るいそんな声がして僕は扉を開ける。病室のベッドの上には触れたら崩れてしまいそうな少女が座っていて、


冬花とうか、具合はどう?」と僕は声をかける。


「あ、お兄ちゃんだったんだー。うん、体調はわりとばっちりだよ! 今にでもお外に行けそうなくらいに!」


 冬花は元気そうに腕を振り回しながら、笑顔を僕に向ける。それを見てほっと胸をなでおろす。まだ……まだ間に合う。


 安堵の気持ちにほっとしながら、家から持ってきた妹の着替えや身の回りのものを棚にしまう。こんな広い病室も赤聖の恩恵のもとにある。


 だから、どんなに毒素が街に充満している状態だろうと、誰も外に行きたがらないとしても、僕は、僕だけは、彼女のもとに向かう。


 それが、それだけしか、妹を救う方法がないと知っているからだ。

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