約束の場所
2009年3月23日、第2回WBC決勝戦が行われていたその日、私は就職活動の真っただ中であり、かつ最終面接の日を迎えていた。
日本での中継は午前中。面接も午前中。
面接の中のやり取りで「早く試合が見たいです」なんて言いそうにもなりながらも面接を終え、携帯電話で試合経過をチェックした。まだ試合は始まったばかり。
家まで帰ると1時間半はかかってしまう。
その会社から数駅、大阪駅近くの映画館でパブリックビューイングがあることを調べていた私は急いでその会場へ向かった。
そもそもパブリックビューイング自体が初体験だった。
大型スクリーンに野球中継が映り、球場の観客席のように試合を見守る人々が集まっている。さすがに鳴物などはないが、野球中継を観に、集まっている人たち。
試合の展開一つ一つにリアクションがあり、声が出る。不思議な空間に居合わせたと思った。しかし、すぐにその場に溶け込めたような気がする。ここにいるみんなは、野球を観に来た人たちだ。
この決勝までの波乱や、決勝の試合内容自体は、もはや触れる必要はないだろう。
結論から言えば、会場は大いに盛り上がり、知らない人同士でハイタッチをし、抱き合った。
この空間で、一緒に試合を見届けたもの同士の喜びがあった。
そこに、とある報道機関の記者がいた。
リクルートスーツに身を包んだ私に目を留めた彼は、私の感想を求めた。
興奮し気が高ぶっていた私が何を言ったのかは、よく覚えていない。
今日最終面接に行ってきた、なんていうことを話したことは覚えている。
簡単な取材が終わった後、彼はこういった。
「4年後の決勝で、また会いましょうね」
その後、WBCの決勝の舞台に日本は立てていない。
もし決勝に進むことがあれば、私はきっとあの映画館のパブリックビューイングに行くだろう。
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