アルバイトでのこと

学生時代は接客のアルバイトをしていた。

具体的に言えば、ファミレスのウェイターだ。

入店対応をし、注文を取り、できた料理を運び、会計をし、テーブルを片付ける。

複数のタスクをどう組み合わせ、仲間とどう連携するのか。ピーク時間帯をどう切り抜けるのか。お客様にありがとうと言って頂くありがたさと同時に、こういったタスクのこなしっぷりにもおもしろみを見出していた。


ある日、やたらと混み合う時間帯が続き、人員不足もあっていかに場を回すかだけに集中してしまったことがあった。結果、料理を雑にテーブルに置いてしまったらしい。


「おい!」


初老の男性に呼び止められる。


「こんなガチャンと置いたらアカンやろ。」

とっさに、次のタスクが止まってしまうことを考えてしまった。

めんどくさいクレームだと思ってしまった。


「忙しいのは見たらわかる。だからといって、雑に対応していいわけじゃあないだろう。」

伏せていた顔を上げる。これはただ一方的に感情をぶつけるクレームではない。私を諭そうとしている。


「こんな時こそ、丁寧に仕事をせなアカン。忙しいときに雑な仕事をしたら、クレームがきて余計に忙しくなる」


がらりと価値観が変わる瞬間だった。


お客様は、レストランでゆっくり食事をする時間 にも対価を払っている。ただでさえ忙しそうな店内で、雑なサービスを受けてしまったら、どう思うか。忙しそうであっても、きちんと一人の客として扱ってもらえれば、どんなに良いか。慌ただしい店内でも、許してしまうのではないか。


忙しいときこそ忙しく見せず、丁寧に。

接客のバイトから学んだことは、後の仕事やコミュニケーションの中にも活きている。

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