第三十九幕「回転扉」
―静。
しかして、その中には暴れ狂うような激しい動が宿る。
まるで重力の理から離れ、轟きとともにそのまま抜け落ちて行ってしまいそうになる程障害物も何もなくただ広がるだけの空はどこまでも青く、深く続き、銀のレースで縁を着飾った雲が膨らんできらめく。
ぼっ、と吹く風。
殴りつけられているような濃い香りに酔うような感覚を覚えた。
それはどこかにすえたような匂いを孕ませつつ、水を含んで柔らかく、どこか懐かしいような香りだった。
足元が軽く沈み、自分の履く靴が地面にめり込むのに気づいた。
そこにあったのは、緑色の芝生だ。
揺れ動かされ、乾いていても生き生きとした合唱を打ち鳴らす芝が、遥か彼方の消失を飲み込む地平線まで続く。
激しい命の鼓動が聞こえる気がした。自分の中の何かが、熱い衝動を叫ぶ。
大地―。
そこには、遥か昔に失われたはずの大地が存在していた。
「何が、起きている―」
思わず漏らした言葉を、一層強く吹いた風がさらっていった。何か恐ろしい予感がして腕で顔を隠すと、瞬きのうちに景色が変わっていた。
先ほどまであったはずの広大な空は消え失せ、そこにはコンクリートの不細工な天井があるだけ。地平線まで続いていたはずの、緑色に輝く芝生は狭くて汚い地下通路に変わっていた。
「―いかがでしたか?」
チカがこちらに向かって話しかけてきた。
「さっきのは?」
ベスが彼女に問いかける。
「記憶です。―殺風景でかわいそうな姿になる前の、地球の記憶」
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