第三十五・五幕「リザレクト」
「ドクタータチバナ。いくらなんでも、この仕打ちはないのではありませんか」
ミスシュガープラムの愛称で呼ばれる、いつでも小難しい顔をした人物が大柄の男に話しかける。
「いや、これでいい」
似合わない白衣を着た大柄の男が顎を撫でながら言った。
「それでも、あんまりですわ。死んだ人間を生きた人間と巡り会わせるなんて―」
「―何が起きてもおかしくはない、かな?その続きは」
「っ、その通りですわ…」
大柄の男の脇にある椅子に腰掛け、体躯に似合わない、大きなため息をその小柄な人物がつく。
しばしの沈黙。
急に、大柄の男が確認するような口調で話し出した。
「奥村という男も、あの保管庫にいたオヤジさんも、共通点を持った証言をしてくれた。それは、アンドロイドに関する話―儲け話であろうと、対処法であろうと―が出た時、必ず相談役となった団体があったこと」
「―
大柄の男が振り返る。顎に当てた手はそのままに、今度は歩き出した。
「本来、アンドロイドに関する情報を得たいのであれば公安局に問い合わせるのが確実―しかしながら、それとは裏腹にこのような団体が存在し、あまつさえ相談役として機能している―」
小柄な女性が、腕に持っていたファイルから数枚の資料を取り出した。
「―それは、公安局のあまりの権力の強大さに由来しますわ。政府内の人間を絶えず監視し、調査している警察組織―見方を変えれば、個人の権利をも無視した超法規的権力を持ちますわ。人によっては不安を掻き立てる存在でしかないのも分かります」
会議室に備え付けられた長机に、何枚もの資料が散らばる。その紙面には、公安局の存在に対して否定的な態度をとる声の数々が書かれていた。衛星通信の存在しない今、狭いながらも広がるネットワーク、そこで人々が交流し合う掲示板から拾われてきたものだ。
「―下手に連絡をとれば自らが怪しまれることもある。またあるいは、そもそも後ろめたい背景がある人物ならば警察には頼りたくない、か。そこで、民間にもアンドロイドに関するアーカイヴがあればそれは便利なものだ―そうして彼らはニーズの受け皿となり、着実に知名度を上げてきたわけだ」
今度は、タチバナと呼ばれた大柄の男が自らの持っていた資料を広げる。
高田ノ園―その名が載るパンフレットには、アンドロイドに関する相談を請け負うこと、また、家族を機械に奪われた者―アンドロイド遺族への支援を行うことなど、その他にも機械に関連した活動を数多く展開していることが記されていた。
しかし中でも群を抜いて目を引く事項が一つあった。
『私たちは、機械と人間の共存を望み、その実現を目指して活動することをここに宣言します』
それは、機械と人間の共存こそが至高の解であると、自らに課す記述だった。
「敵は強いぞ。間違いなく、だ」
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