第二十五・五幕「鬼祓い」
かつて、このシンジュクのはるか西、今は亡きニッポンという国が存在する前に、鵺という怪物がいたらしい。それは四つ脚で歩き、その声は大変に不気味であったという。
それからそう何百年もしないうちに、同じような怪物が地上を闊歩するなどと、誰が想像したであろうか。
「対象はウミホタルより逃走。高速道を逆方向に進み、現在もその距離を伸ばしている」
空気を、マナ理論が焦がす。
熱気と青白い光が人工的に作られた四肢を包む。暗視能力を得た両目が正確なメカとの距離とその速度を映し出した。
バッヂャー、あるいはインという名の少女が、その場に屈んだ。背中に回した巨大な剣が地面に触れ、カララ、と、金属特有の濡れた音を発する。
音なき疾走。
その姿を一つの光の帯に変え、少女がおおよそ人間には出来ない芸当をやってのける。
金属がひしゃげ、千切れるような醜い雄叫びを上げる怪物に追いつくまで、そう時間はかからなかった。
「法的破壊=解除」
【法的破壊=解除を確認。反動化マナ理論式崩壊機構―始動します】
光の帯が二つに分かれる。一つは青白く、もう一つは鮮やかな赤色。
それが悪鬼を追い越し、交差する。
駆け抜けた光に取り残され、悪鬼はその場に停止した。そうして、ガラン、と、そのまま倒れこむ。
少し離れた位置でため息をつく少女の後ろで、その死骸は真っ赤な閃光を放ちながら四散した。
「ヘルハウンド、応答せよ。そちらの標的の状態は」
『インかあ?ちょうど今倒したとこだ。ちょっとばっかし手こずらされたけどな』ドスの効いた、男性の声が返事する。
「ならば、至急ウミホタルに戻ってください。戦況はどうやら不利のようです」
『なんだ、お前らしくもない。どうかしたのか』
「嵌められました」
少女は感づいていた。メカの逃走が、すなわち陽動であったことを。
嫌な感覚が、潮風で洗い流されることなく、生臭く空気に満ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます