第二十四・五幕「カレイドスコープ」
ボルトを滑らせると、灼けて熱を持った薬莢が飛んだ。焦げ臭い火薬と、潮の匂いが混じり、鼻腔を満たす。
計算通りにマガジンが減ったなら、今このライフルは空。
身に着けたロングコートに指をなぞらせ、お気に入りのホルダーから目当てのものを引き抜く。目の前にそびえ立つ巨塔の明かりに照らされ、手に持ったそれがぬらりと光を反射した。
見た目は普通の銃弾そのもの。
しかし、その正体は対物ライフルもびっくりの威力を秘めた特殊弾丸。皆に配られた反動化マナ理論式手榴弾―ハンドグレネードを縮小し、弾頭に形を変えたモノ。いわば銃で撃てるようにした小型版だ。
口を開けて待っている愛銃にこれを食わせ、ボルトを元の位置に戻した。
『ベス、そっちはどうだ。模様を報告しろ』いつになく真剣そうなドクターの声がイヤピースから伝わってきた。
僅かながら、ノイズが乗っている。ヘリからのリレーをしているといっても、やはり妨害の影響は受けるようだ。
「スキャンの結果、敵性対象はアンドロイド三体。うち、一体は弐型、車両内に潜伏中。ハウンド、バッヂャーが壱型を、ラビットが弐型を相手にしてるわ」
『よし、分かった。伝言役とともに、引き続き援護を頼むぞ』
スコープをのぞき込むと、頭からつま先まで真っ黒い姿をした人影がじり、じりと車に近づいているところだった。兎というよりは、道を探るアリのように見える。
距離にしておおよそ千六百ヤード。今愛銃に咥えさせた弾丸の飛距離を考えたものだ。
触れた対象の消滅および破裂を成す弾頭であるが、手榴弾と違いその反応は発射されてから空中で起こる。当然これは空気に対しても反応してしまうため、飛びながら自己崩壊してしまう性質を持つ。その前に標的に当てなければ有効打とはならないのだ。ピンを任意に抜くといった動作がない分、タイミングなど扱いは格段に複雑となる。
集中せねば。
銃握により一層強く頬を押しあてる。
人影―ジャックラビットが袖を開いた。肩甲骨あたりから始まるジッパーが開かれ、ぼんやりとした光が彼の腕部から発せられた。
さぁ弐型ちゃん、どう動く。
車と一体化しているならばそのまま撃つけど、そうでなければ無駄撃ち。
弐型単体ではコンマ〇秒単位で動くことが予測されている。音速超の弾丸であろうと、その軌道を読めば避けることもできるだろう。
この場合、敵の死角をついて当てる他方法はない。
ジャックラビットが気を引いているうちに、敵に感知されぬこの遠距離から一発を放つ。
イメージはできてる。あとは敵がどう出るか、それだけ。
―と、件のアリ人間から通信が入った。
『べ...下...が......す!』
通信がまともに聞こえて来ない。
死闘の開幕、その合図だった。
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