第五幕「黄泉竈食ひ」

「―ややこしいです、所長」

「いいんだよ、最初くらいドラマチックでも。換言、修飾着色はスピーチの醍醐味うまみだ」

「どういうことですか?」理解が追いつかない。

 男性がやれやれ、といった顔で説明を始める。

「正しく言うと、君は突如として現れたアンドロイドに右半身を食い破られた。そんな瀕死状態の君を、私達が黄泉の淵から掬いあげたのだよ」

「傷は酷いものでした」女性がつづいて話し出す。

「新現代と呼ばれる今の技術でさえその修復は非常に困難と判断され、致し方なく、人工的な部位がはめ込まれたのです」

「それってつまり…この黒いのがそうってことです、よね?」

「その通りだとも。その装甲の下には精巧に作られた臓器が、義手、および義足には現時点で与えられ得る最高のものがはめ込まれている」

 それを聞いた瞬間に吐き気がした。この二人が言っていることはつまり、この黒い金属の下は全て機械だということだった。

 あまりのことの急さに目が回り始める。起こしたばかりの体は途端に力が抜けてしまい、再び寝台に倒れ込んでしまう。―と同時に機械の駆動音らしきものが自分から発せられたことに気づいた。うわあ。

「おお、プラム君、君がそんなことを言うから私達の患者が倒れ込んでしまったじゃないか」

「いずれは判明することです。遅かれ早かれこうなっていたことでしょう。」

 僕は相変わらず強い光で照らしてくる照明を遮るようにして腕で顔を覆いながら、何も考えられないでいた。

「僕の」

「んん?何かね?」

「僕の他に、襲われた人は?」

「いいや、君の勇敢な行動によって、あのアンドロイドは他の人間をその歯牙にかけることがなかった。君が噛み付かれてすぐ、公安が駆けつけ、速やかにあいつは破壊されたよ。瓦礫やもつれによる重軽傷はあったものの、アンドロイドに直接危害を加えられた者は他におらず、死亡者も君を除けばゼロだ」

 意識せずに出た言葉であったが、チカが助かったことがわかった。それだけで少し気が楽になった。

 

 ドクター、プラム君と互いを呼び合う二人が何だかよくわからない機械で数値を確認している間、僕は軽食を持たせられ、少し休憩するように言われた。

 ようやく、一心地がつく。

 しばらくして、僕はずっと引っかかっていたことを質問して見ることにした。

「ところで、ここは病院でよろしいのですよね?僕はいつここを出られるのでしょうか…」

「ああ、君はここがどこだか知らないのだったね。道理で困惑しているわけだ」ニヤリと男性が笑った。

「説明しよう。ここは人類都市シンジュクの地下奥深くに存在する極秘研究施設群、アカデメイアだ。そうして、これも教えてやらないといけないな」男性が咳払いをする。

「公式のうえで、君は不幸な事件の被害者として死んだ。きみは今や亡き者―そしてこれからはシンジュク政府の極秘研究の一端を担う者となる。ヒロトトウムラ、私等一同は君を歓迎する。ようこそ、冥界へ」

 アップル味のゼリーが滝を作った。

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