第4話 ②
「これで良し、と……」
もぬけの殻となった街の、もぬけの殻となったとある飲食店で護国寺は綴町による治療を受けていた。言霊によるものではなく、消毒液をビシャビシャにかけまくり包帯でグルグル巻きにするという素人らしい応急処置である。
「ひとまず大丈夫かな、うん。あとは少し安静にしていたら問題ないでしょう」
「ほんとぉ? 消毒液が染みてめっちゃ痛かったんだが?」
「当方、『ありがとうございます』という感謝しか受け付けておりません」
雑な治療だったが、ひとまず彼女に礼を言う。それはこの処置だけでなく命の危機を救ってくれたことに対する礼でもあった。
はいはい、と彼女はどうでもよさそうに手を振った。照れ隠しかそうでないか判別は付かない。
応急処置が終わって人心地ついた彼は、改めて店内を見回す。焼肉店らしくそこそこ広い店内に、各テーブルには天井からダクトが伸びている。慌てて避難したのだろう、すぐ傍の網には消し炭と化した肉の残骸が残されている。
「ところでここ、お前のアジトか何かか?」
「いんや、開いたまんまだったからね」
「……あと、今気付いたんだけどそこらの医療品とかは?」
「それは近くの薬局がこれまた不用心に開けっ放しだったから、ちょいと貰ってきただけ」
「これって俺も泥棒の仲間ってことになるのかな……?」
あとで代金だけでも置いて来よう、と心に決めた護国寺。元はと言えば自分が怪我をしたからなので、彼女を責めるのはお門違いだろう。
会話が止まる。五年以上の歳月が二人の間に溝を築いた、というわけではない。その再会があまりに衝撃的なものだったから、何と切り出せばいいのか分からないのである。
綴町も同様なのか、爪の手入れをして気を逸らしている。このままでは時間がもったいないので、護国寺から疑問を言葉へと変えていく。
「……その、何だ。綴町、お前はマジで【十二使徒】なんだな?」
「――――ええ、そうよ。神名は【否定姫】、かれこれ二年くらいになるかしら。と言っても、まだ何も手がけていないけどね」
否定してほしかったのか、ズンと彼の心に重りが乗る。分かり切っていたことだが、こうして口に出されると心に来るものがある。
護国寺は眉間を押さえながら、
「だとすれば、聞いていた話と違うな。【十二使徒】に乗っ取られた当事者は、完全に自我を失うんじゃなかったか? それにしては、お前は…………」
「人類を全滅させようというのに、人間の心を残しておく意味はないからなあ。【兵隊王】とかは器をリスペクトしてたから、ある程度残していたみたいだけど。私に憑依した【否定姫】もその類……というか、もっと偏屈な奴でね。私と共存しているのよ」
「共存……」
道理で彼女は昔の印象とさほど変わっていないと感じたわけだ。たとえばムサシは乗っ取られた以後、完全に別人となっていた。あれが【十二使徒】に憑依された人間の末路なのだろう。
ホッとしていると、綴町は釘を刺すように口調を強くして、
「けど、あくまで私の行動原理は『人類の掃討』よ。【否定姫(せいしんたい)】に刷り込まれていたんでしょう、その思いが強く根付いているの。ぶっちゃけ、大多数の人間には生きる価値がないと本気で思ってるし。それに使命を害する行為は、さすがに【否定姫】に止められるわ」
「……だったらなおさら、何で俺を助けたんだ?」
【十二使徒】としての使命が強いのなら、助ける意味などなかったはずだ。綴町本人なら昔の馴染みで仏心を出したかもしれないが、それを彼女の内に潜む【否定姫】が許すはずがない。害する行為であることは明白である。
あー、と彼女は少し言いづらそうに頬を掻く。
「…………それは私と【否定姫】との意見が一致したからよ。あんただけは生かしておきたい、ってね」
「それは愛の告白的な……!?」
「ゼンゼン違うし。これはほら、結構言いづらいことだから明言したくないんだけど……」
「気になるだろ? 話してくださいよ」
あまり気乗りしない風の綴町。この様子だと相当話したくない内容らしい。しまった、と即座に感じた護国寺は「やっぱ話さなくていい」と言おうと口を開いたが、仕方ないと言わんばかりに綴町が首を振る方が早かった。
「まあ、言わないと納得できないだろうしねえ……。前置きしておくけど、同情はいらないから」
「……ん、分かった」
「どこから話そうかな……。まず私の言霊は【一期一会】――――って、このくらい知ってるよね?」
「ああ。一生一度の出会いかもしれないから真剣に臨めよ、的なやつだろ?」
さらっと自身の言霊をカミングアウトされてしまった。彼女の問いに護国寺は反射的に返し、綴町が納得して風に頷く。
「そう。その意味通りなら、【否定姫】なんてただの雑魚だったでしょうね。けれど私のは、かなり捻くれた解釈をしていることが厄介なのよ」
彼女はトントンとテーブルを指で突く。苛立っているのかな、と護国寺は何となく察する。
「言霊【一期一会】は一生一度ってところにフォーカスしてるのよ。つまり【否定姫(わたし)】と二度会うことは叶わない、ということ」
「二度? 偶発的に遭遇することもあるから、そんなの絶対に不可能なんじゃあ……」
引き篭もりだって両親とは少なからず顔を合わせるだろうし、牢獄に閉じ込められている囚人も看守と会話を交わすことくらいあるはずだ。人間は必ず誰かと関わっているのだから。
その通り、と彼女も同意を示す。
「良い所に気が付いたわね。――――だからその不可能を解消するために、私は対象からの干渉を阻害する能力を手に入れたのよ」
「…………、」
「【一期一会】は、とどのつまり無効化能力。相手は私を認識することもできないし、たとえ私が名乗り出たとしてもすぐに忘れてしまう……。たとえ広範囲攻撃を受けても、私はあらゆる干渉を無効化することができる」
認識から外れることができる。なるほど、だから『ムサシ』は彼女を視認することができなかったのか。無効化能力と聞けば、かなりの強能力であることは容易に想像が付いた。
だが、今の護国寺はそれ以上に、綴町に対して複雑な感情を抱いていた。ああ、だから彼女は「同情をするな」と言ったのか、と。つまり彼女は同情を求めていない、拒んでいるのだ。だから護国寺は、意地でもその感情を彼女へ向けるわけにはいかなかった。
(忘れてしまう、ということは世界中の誰も彼女を知らないということになる……。そして恐らくは、生みの親でさえも…………)
後輩も、同級生も、先輩も、教師も、バイト仲間も、今までにかかった医者も、唯一無二の親友も――――誰もが彼女を覚えていないのである。
世界で唯一、彼女だけが忘れ去られた存在であったのだ。
それは想像もできないことだけど、辛いということだけは真っ先に理解できた。
綴町は悲しげな顔も、物憂げな顔もしなかった。むしろ少し明るい雰囲気を漂わせていた。ホワイ?
「諦めていた。呪いのようなものだと受け入れていた。――――けどそこへ、あんたが現れたのよ」
「あっ」
「って、今頃気付いたんかい」
ツッコミを入れられる。そうだ、良く考えなくても不自然ではないか。古い知り合いである綴町を、何故自分は覚えていられるのか。彼女が認識から外れていても、護国寺だけは彼女を自然に捉えていた。
「【否定姫】も誰かに覚えておいてほしいみたいでね。案外寂しがり屋な奴だからさ。私も誰かに名前を呼ばれるなんて久しかった。最近は【否定姫】、なんて呼ばれるばかりで。……自分の名前すら、最近じゃ思い出せなくなることもあったから」
ぽつり、と呟いて彼女は苦笑した。
孤独を寂しく思っていたのだろう。不謹慎だが、彼にはそれが少しばかり嬉しく思えた。それは人間にとって当たり前の感情で、即ち彼女はまだ人間であると確信が持てたからだった。
ようやく、綴町の表情が昔と少しダブって見えた。
「だから助けたわけなのよ。それに――――昔のお礼をまだ返していなかったな、と」
あの頃、というのは二人が小学生時代のこと。幼稚園からの友達だった綴町が、上級生に苛められていた現場を目撃した彼は、助ける際につい【風林火山】の力を振るってしまったのだ。その上級生は大怪我を負い、その際に綴町まで傷付けてしまった。前髪で隠れているが、恐らく今も彼女の額には古傷が残っているはずだ。
結局綴町は直後に転校してしまったから、護国寺は謝ることもできずにいた。
彼女は昔を懐かしむような表情に変わって、
「いきなり目の前でボッ! と火の手が上がったから怖かったけど、今思うとアレはあんたの言霊だったのね。今なら分かる」
「……あの時は悪かった。怪我を負わせて、転校させてしまった」
「違う違う。あれは心配性の親が半ば強引に転校手続きして……って、そうじゃない。謝るのは私の方なのよ、感謝し損ねたこともそうだけれど……何より、あれからあんたを一人にしてしまったこと、ずっと後悔していたの」
護国寺は思わず閉口する。確かにあれ以後、彼は周囲から忌避されるようになっていった。人生の分岐点、と言っても過言ではない。
あれからは辛い日々の連続だった。両親には捨てられ、彼を知る者は誰も近寄らなくなった。ただ自分が被害者面するのはおかしいと思って、何とか強く在ろうとしてきた。
だから彼は彼女の謝罪を受け入れるわけにはいかなかった。悪いのは自分の方なのだから。
「俺が悪いんだ、全て。色んな人に迷惑をかけて、今さら人助けをしようと思って『L.A.W』に入ったけど、結局ムサシさんを救えなかったどころか敵の手に落としてしまった。……まったく、駄目な人間だよなあ俺」
そう言った途端、綴町の目付きが鋭くなる。糾弾するかのようなそれに、彼は一瞬委縮してしまう。
「……変わったわね、嗣郎。昔はもっと迷いがなかった。もっと強い人に見えたけれど」
「そういう君は、少しばかり攻撃的になった」
口をついたのは挑発めいた言葉だった。自分でも驚く。きっと図星だったからだろう。
彼女は指で髪をクルクルと弄りながら、僅かに沈んだような口調で話した。
「そうでなきゃ、『私』を保っていられなかったもの」
「……ままならないものだな、お互い」
「――――そうね」
彼も彼女も、互いの変わったと自覚している姿を、多分見てほしくなかったのだろう。少し遠ざけるような言い回しをした。
腹を割って話すには、少々時が経ち過ぎていたのである。
昔はこうじゃなかった。もっと互いが互いに自信を持っていたはずだ。だから踏み込むことに臆することなんてなかった。相手を思いやる、と言えば聞こえはいいが、要は相手を信用し切れていないのだ。
「……この話は平行線ね、きっと。一旦止めておいて、今後のことについて聞かせてちょうだい」
ごほん、と綴町は咳払い一つで切り替える。大人になったなあ、としみじみ。
「今後? 式はどこで上げる的なやつ?」
「あんた、少し見ないうちに恋愛脳になっちゃったの? スイーツ(笑)男子なんて流行らないから止めといた方が利口よ?」
真剣に言ったわけでなく護国寺なりのジョークだったのだが、予想以上に冷たい答えが返ってきた。滑ったようで恥ずかしい。
「そうじゃなくて、国外へ逃げないかって話よ。さっきはこき下ろしたけれど、アレは相当強いわよ? まだ器と同調し切れていないだけで、時間が経てば経つほど完成度は増していく。純粋な対人性能では【十二使徒】でも上位に食い込むかもね」
「そのことなんだが……何か違和感があって。具体的にどうとは言い難いんだけどさ、憑依したばかりの剣術じゃないというか、所々が妙に素人離れしているというか…………」
「言いたいことは分かる。ちょうど私もそのことついて話しておこうと思ってたの」
綴町に聞きたかったこととは、戦闘中に感じた不自然さについてである。剣技そのものは身体能力任せで、動きはキレていたが技術は振り回しているだけだった。もしもムサシ並みの腕があれば、首を幾度落とされる隙があったか計り知れない。
かと思えば、防御に関してはまさしく鉄壁であった。通常は多少なりとも回避しようとするものだが、男は護国寺の攻撃を悉く刀で弾いてみせたのだ。完全に使いこなしているとしか思えない練度を感じさせた。
そこだけがどうしても合点がいかなかった。しかし綴町は知っているようで話し始める。
「そもそもね、私だって元は無能力者よ。【十二使徒】に憑依されて言霊師になった。――――つまり、奴らの言霊は全て【十二使徒】が持ってくるの」
「まあ、普通に考えてそうだよな。人間の中でそうそうあんな強力な言霊師がいるはずない。【兵隊王】も器を選ぶ基準は高潔さだどうのこうのって……」
「【否定姫】が私を何故選んだかは知らないけど、健康な肉体なら何だっていいのよ。さすがに性別くらいは合わせているけれど」
【兵隊王】の言霊【千軍万馬】のように、強力な能力を肉体の持ち主が持っていることなどそうないはずだ。勿論選別すれば可能だろうが、それよりも自前で用意した方が余程確実である。ムサシのように強能力が手に入ることなどそうない。
あれ、と思考が詰まる。川の流れが塞き止められたように、理性が待ったをかけた。
護国寺は声に出して、浮かんだ考えをまとめていく。
「【十二使徒】が言霊を運んでくる……。だから能力が使える。だけど、ムサシさんは自前の【一刀両断】を有している。つまり、つまり――――――――っ!」
頷いて、綴町が総論を述べた。
「――――“あの柳生武蔵は、言霊を二つ保有している”」
世界が遠ざかるような感覚に嵌る。茫然としてしまう。それがいかに厄介なことか、考えるまでもないからだ。
【一刀両断】は強力な言霊だ。溜めれば溜めるだけ斬れ味は増し、飛距離も伸びる。ムサシの剣術と噛み合っていることも彼を強者足らしめる理由の一つである。
それが二つ――――恐らく、刀の扱いに不慣れな【十二使徒】でも不自然なほどの防御技術を見せていたことに関連しているのだろう、と瞬間的に理解できた。
(完璧な防御……。避けるのではなく、迎撃する。死角からも対応されたことから、自動迎撃の類か?)
だとすればあの鉄壁さにも頷ける。幸運があるとすれば、こちらから仕掛けない限り発動しないということか。
これでも護国寺はかなり相手の言霊を過大評価していた。低く見積もるよりもマシだろうと考えたからだ。
けれど綴町から明かされた能力は、その予想を大きく上回る。
「アレの言霊は【百発百中】。――――つまり『必中』よ。嗣郎の攻撃を防いでいたのは、単に迫り来るものに反応していたってだけ」
「ひっ、ちゅう……?」
思い返してみれば、護国寺は『ムサシ』の剣を一度も躱し切れていない。避けようとしても必ず身体に傷を付けていた。
必中。シンプルだが超強力。躱せない以上受け止めるしかないが、今度は【一刀両断】の力がそれを許さない。あらゆる防御を切断する言霊と、回避を決して許さない言霊。あまりに凶悪過ぎる組み合わせだった。
それが迎撃にも適用されるとなると、ほとんど無敵に等しい。向かってくる攻撃を全て弾き落とすというのなら、どんな攻撃も無意味だということだ。
綴町はチ、と小さく舌打ちして、
「恐らく【言霊王】は柳生武蔵を知った時から、この組み合わせを考えていたんでしょうね。準備が良すぎると思った。ただの人間にしておくには惜しい男なのは事実だけど、ここまでするなんて……」
「じゃあ何か、ムサシさんが乗っ取られたのは――――!」
「ええ。あいつの想定通りよ。自分が負けないと知っておきながら、さもハンデを与えたかのように叩きのめしたのよ。性格最悪ね、あいつ」
叩きのめした、ということはムサシ対【言霊王】の結果は見るからに圧勝だったということだろう。【言霊王】――――あの場にいた誰よりも凶悪な雰囲気を放っていた男。上には上がいる、そう思うと人類がどれほど絶望的な戦いを強いられているのか再確認させられる。
彼の表情が固まっていたのを見て、綴町は気遣うような声音で尋ねた。
「……分かったとは思うけど、今の嗣郎では柳生武蔵に勝つことはできないわ。勝負に絶対はないというけれど、実際にはあるのよ。人間は何事にも希望を持とうとする生き物だから、そんな無責任なことを言うの」
「…………、」
勝てない。そう突き付けられて勝機を頭の中で探ってみれど、一向に見えてこない。攻防共に隙がないのだ。どうやったって負けるようにできているとさえ思える。
ならばなおのこと、国外へと避難すべきだ。今は勝てなくとも訓練次第で勝ち目が見えてくるかもしれない。今軽々に命を投げ捨てるのは愚かそのものである。
――――そんな、最もらしいことを並べて自身を納得させられたら、どれほど人生を生きやすくなっただろうか。
「綴町。俺、あいつと戦う。戦わなくちゃならないんだ」
顔を上げて、彼女の顔を正面から見据えて告げた。
「思えば逃げてばかりの人生だったよ。一番簡単な我慢って手段を美徳に、言い訳して。自分さえ耐えていればいい。そんな身勝手な方法が誰かのためになるなんて、そんなはずはなかった」
「…………、」
綴町は口を挟まない。ただ彼の言葉に耳を傾けている。
「俺はずっと誰かに対して求めてばかりだった。親には駄目なことをしたら叱ってほしい。友達がいたら弱い自分を支えてほしい……。求めるにはまず、自分から与えることが必要だったんだ。自分を救ってほしいのなら、まずは他人を救わなければならない。――――考えてみりゃ、当たり前だな」
はは、と護国寺は苦笑した。今になってようやく気付くなんて、ホント自分は愚かな人間だな、と。
だけど死ぬ前に気付けてよかった。
だから今は、ムサシを救おうと思う。勝てるかどうかも怪しい相手だが――――それこそが自分の第一歩になると予感があったのだ。
「逃げるわけにはいかない」
自分の決意を表明するように。
「ここで逃げたら、俺は一生駄目な人間のままで過ごすことになると思うから」
聞き入っていた彼女はやがてはあ、と大きなため息を吐いた。
「……ほんっっっとぉに、男ってどうしようもないわ!」
「うぐ」
「マジでね。ドヤ顔で痛車乗り回してるオタクかっての。命の大事さ、分かってるようで全っ然分かってないんだから。それに振り回される側の身にもなってほしいもんだわ」
爪楊枝で突かれるような罪悪感に苛まれている中、護国寺はん? と首を傾げて、恐る恐る伏せていた顔を上げる。
「あ、あのぉ……、振り回される側ってことはひょっとして、綴町さん手伝ってくださるんで?」
そう問いかけると、彼女はプイと顔を背けた。
「仕方ないでしょ。私の特性上、あんたと離れるわけにはいかないんだから。そもそも命が惜しいのなら、【十二使徒】を抜けたりしないわよ」
「……すまない。ありがとう」
頭を下げる。何だか今日は良く感謝している気がする。けれど不思議と良い気分だった。教えられているということが、今はとても染み入った。
綴町は立ち上がって、ぶっきらぼうな口調で言った。
「ふん。なら、今は少しでも身体を休めときなさい。どの道その怪我じゃ、今すぐには戦えないでしょう。焼け石に水かもだけど傷を癒やしておくべきよ」
「……そう言われても」
「大丈夫よ。アレは遅れて【十二使徒】になった。だったら日本全土を滅ぼすには相当のエネルギーが必要となってくる。今から限界まで霊力を溜めて放出するほか、粛清を達成することはできないの」
理屈は分かるが、今のままでは眠れそうにない。色んなことが頭を駆け巡って、目が冴えてしまっている。
護国寺が難しい顔をしていると、綴町は不意に指をゴキゴキ鳴らし始める。
「休めないのなら、私お得意の首チョップしてあげるけど? あらこれって意外と名案かも。運が悪ければ後遺症残るし、そん時は強制的に国外へ連れていけるんだから」
「すんませんしたぁあああああああっ!! 奥の座敷で横になってきます!」
不安もあったが相当疲弊していたようで、横たわった途端に彼は泥のように眠りに落ちていった。
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