第参章 闘技大会開会
オシェットは目覚めると、神聖セレナーデ帝国の聖都、ラグナノーグの闘技場内の人だかりの中にいた。
「ここは……。帝国中央闘技場? どうしてこんな所に……?」
自分は確かにオージェラまで行って魔王と。いや、エレジア姉と戦って、やられて、牢屋に入れられて……。そこでマクマホンとかいう奴に今まであったことをやり直さないかって言われて、始祖王オレイアヌスに会って……。
そんなことを考えていると、開会式が始まった。神聖皇帝デュルム二世が壇上に上がると歓声が上がった。
「ようこそ、親愛なる臣民諸君。諸君らも知っての通り、我々神聖連合は崩壊の危機に瀕している。ユーグ公国は領地のすべてを、エルフ族のエルージャ王国は国土の大半を失った。我々が魔族に滅ぼされるまで、幾ばくも無いであろう。この度の第二回闘技大会は前回同様、優勝者には勇者の称号が与えられる。今回、勇者に与えられる任務は魔王ガングリヒトの征伐、前回の勇者たち、エレジア・イシュタール、シエナ・レンハート、ミリィ・シュミットの三名を連れ帰るという任務の二つである。先代勇者の裏切りは非常に残念なことであった。今回選ばれる勇者は、必ずや人類の領地から魔族を追放してくれると信じておるぞ。諸君らの健闘を祈る」
皇帝の演説が終わり、代わりに壇上に登ったのは、アフロヘアーでサングラスを掛けた派手な衣装の男性だった。
「それではここからの司会はわたくし、神聖教会舞踏祈祷師のマクシオル・マーティンがお送りします。改めまして、本日は第二回闘技大会におこしいただきありがとうございます。それでは皆様、お楽しみの時間の始まりです!」
会場から歓声が上がる。オシェットは空いていた席に座り、状況を理解しようとしていた。
『これは確かに自分が参加したはずの第二回闘技大会だ。でもどうして自分がここにいるのだろうか? 俺はオレイアヌスから闘技大会初日に戻すと言われたけど、過去に飛ばされたってことか? そうだとしたら、あれはやっぱり現実だったのか?』
そんなこんなを考えていると、入場式が始まっていた。
「今回の大会参加者は8人です! 参加者の皆様、ご参加ありがとうございます。それでは参加者は順番に入場をお願いします」
最初に場内に入ってきたのは、軽やかな衣装を身に着けた少女だった。
「まず最初は、海を超えてリンファン帝国からやって来ました。シーリン拳法を極めた少女。破った道場は数知れず。リンファンで行われた武闘大会でも優勝した実力者。ヤン・ホウチュウ!」
ヤンと呼ばれた彼女は観客の人々に笑顔で手を振りながら、中央へと歩いていく。そして、続いて入場してきたのは、弓を携え、緑色のドレスのような戦闘衣装を着た、長い金色の髪と長い耳を持エルフ族の女性。後のオシェットの仲間になる、第二次魔王征伐隊のメンバーであるユグドラだった。
「続いては、エルージャの第二王女にして弓の名手としても名高い、風を操る能力の使い手であるユグドラ・ローグレス!」
彼女も観客に対してプリンセススマイルを送り、中央へ向かっていった。そして。
「三人目は、先代勇者エレジアと同郷出身の光の剣士。オシェット・レイバーン! ……おや、どうやらオシェットさんはまだ会場に到着していないようです。どうしたんでしょうか」
オシェットは自分の名が呼ばれたことに驚き飛び上がり、場内に向かって階段を走り降り、そのまま場内へと飛び込み叫ぶ。
「すいません! オシェット・レイバーン。道に迷っておりました!」
会場からは笑い声が上がったが、オシェットは気にせず場内中央部の参加者集合地点に向かった。すると、ヤンが話しかけてきた。
「ダイジョブ、ダイジョブネー。私も道よく分かんなかったから気にしなくてもいいネー」
「ありがとうございます。ヤンさん」
どうやら、ヤンは観客たちに笑われたことへのフォローをしてくれたようだった。そんな話をしていると、次の参加者が入場してきた。
「オシェットさんも入場したことですし、続いての選手の入場です。神聖帝立魔導研究所の首席魔導士。メロウ・フェレット! どうやら彼女は、精霊の声を聴くことが出来るそうです」
入場してきたのは、ローブを纏った黒髪長髪の女性。後の仲間のメロウであった。初めての闘技大会参加時は緊張の所為かあまり記憶がないが、どうやらメロウは人類の魔法界ではかなりすごい人物だったらしい。
「続きまして入場するのは、第一次魔王征伐隊のエミリア・トールモンドを姉に持つ、肉体強化系の僧侶。ルーシア・トールモンド!」
次に来たのも、後の仲間のルーシアだが、彼女にいつものような元気さは無かった。
「続いては、魔族からの度々の進行から民を守ってきたグレアの聖騎士。白銀の騎士団団長。ベンジャミン・ホワイトクリフ!」
白い鎧を身に着けた聖騎士が入場してきた。ここまで入場した六人中二人だけが男性というこの状況。もうちょっと頑張ってくれ、神聖連合の男子諸君!
「続いてなんですが……。えっと、今回の参加者であるメロウさんの弟子ということしか分からない謎の少女。リューム・カルティーニ!」
続いて入ってきたのは彼女も同じく仲間となるリュームであった。何も話そうとはせず、師匠であるメロウに対して、少し目配せをしただけで集合地点に向かった。すると、突然観客席の方から下卑た男たちの歓声が聞こえてきた。そんな中、司会のマクシオルは最後の参加者の紹介を始める。
「次が最後の参加者です。海の次は陸を統べるか。海賊たちを従える海賊王。オドアデル・リッチモンド!」
「うおおっ、オドアデル様っ! 優勝して世界救っちゃってください!」
「おう、まかせとけ」
海賊団の男が掛けた言葉に対し、オドアデルは刺青の入った右拳を掲げて答えた。
最後に入場してきたのはグリモンド島を拠点に活動する海賊たちの親玉である、オドアデルだった。彼は若くして大小さまざまあった大陸周辺の海賊団を纏め上げ、海を自分のものとした英雄とも呼べる男であった。
グリモンド島は、もともとは魔族が監獄島として開発したが、人類が独立した際に人類側にあったため、そのまま人類も監獄島として利用し始めた。監獄島として使用されなくなると、統治が及ばなくなり人類と魔族が交流する場や海賊などの拠点になっていた。
そんなところで生まれ育ったオドアデルは、人魔ともに分け隔てず、優秀な人材を集めて海を支配するに至ったのであった。
「以上で参加者計八名が出そろいました。それでは今回の大会のルールを発表させていただきます。今回はリーグ戦で計7試合三日間の行程で試合を行い、それによって優勝の座を争ってもらいます。優勝者に与えられるは勇者の座と、皇帝家に伝わる聖剣。また予選を突破した者には、勇者一行として参加する権利が与えられます。負けてしまってもあきらめないでください! 続いては戦闘におけるルールです。相手が動けなくなるか、死亡または審判による死亡確実の判定を得れば勝利! また、能力使用や相手の殺傷も容認されています。これだけの簡単な、何でもありのルールです。皆さん全力でぶつかり合ってください! それでは早速、予選第一試合のマッチングを発表させていただきます。予選第一試合は、ヤン・ホウチュウ対ユグドラ・ローグレス。第二試合は、オシェット・レイバーン対メロウ・フェレット。第三試合が、ル―シア・トールモンド対ベンジャミン・ホワイトクリフ。第四試合は、リューム・カルティーニ対オドアデル・リッチモンドです。試合は十分後より開始となります。それでは十分後にお会いいたしましょう」
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