第弐章 新たなる旅立ち

 オシェットは、薄暗い独房の中で目覚めた。

 あれからどれくらい経ったのだろうか。ルーシアが殺され、自分が叫んだところまでは覚えているが、それ以降のことは覚えていない。

「……気分はどうですか?」

 鉄格子の向こうからの声。そこにいたのは、マクマホンであった。

「最悪だよ。お前のせいでな……」

 オシェットは、皮肉そうに答える。

「君はこの結果に納得がいかない。違うかい?」

 オシェットは、突然、嬉々として語りだしたマクマホンに、驚きつつも答える。

「あ、ああ……」

「じゃあ、君は今まで起きた出来事を、もう一度やり直したいと思うかい?」

「……ああ」

 マクマホンが何を言いたいのかは、よく分からなかったが、やり直す事が出来るならやり直したいと思ったのは本心であった。

「そうか。それならば君も私と同じ能力を『彼』に授かるといい」

「『彼』? 誰だ、そいつは?」

「会えばわかるさ。それでは……」

 オシェットは困惑していた。敵だと思っていた奴に、突然、人生のやり直しをしないかと言われ、そして今、『彼』とやらに会わせる為に、魔法で何処かに飛ばされようとしていた。騙されていてもおかしくはないのだ。

「ま、待ってくれ! お前は何者なんだ?」

「私は、ガングリヒト様とエレジア様の崇高な理想を実現させるべく、彼らの命を守る者です。それでは、またどこかで会いましょう」

「え? ま、待っ……」

 オシェットは、闇と光の渦に飲み込まれ、再び意識を失った。


      *   *   *


 再び目を覚ますと、今度は光に満ちた空間にいた。

「なんだ、ここ。って、浮いてる?」

「ようこそ、神霊結界へ」

 突然、空間全体に声が響く。

「我が名は、オレイアヌス。この世界の創造者だ」

「オレイアヌス!? 始祖王の?」

 オシェットは、今まで伝説上の存在だと思っていた、神ともいえる存在と邂逅していた。

「ここはこの世界に有って、この世界に存在しない場所。神と呼ばれる存在が自らが治める世界を、直接干渉せずに監視・介入する場所だ。ところで貴様は今までの人生をもう一度やり直したいのであったな」

「はい」

「運命はそう簡単には変えられん。長くつらい道のりとなるだろうが、それでもいいのか?」

「覚悟は出来ています」

 恐怖はあった。だが、それ以上にエレジアを連れ戻したいという思いの方が強かった。

「そうか。それならば何も言わん。では、おぬしの勇者としての人生の始まり。第二回闘技大会の初日まで戻すが、それでよいか?」

「いつでも行けます」

「あと、死ねばいつでもここに帰ってこられる。そして、いつからやり直すかを変えることもできる。上手く活用するといい。他に何か気になることは?」

「移動の安全性は?」

 全知全能の神には、隠し事などは通用しないだろう。そう思ったオシェットは、心配事を打ち明ける。

「それなら心配はいらない。安全ということなら、すでにマクマホンが証明している。他には?」

「あなたは、人類と魔族。一体、どちらの味方なのですか?」

 人類の代表オシェットと、魔族側のマクマホンの二人に手を貸しているオレイアヌス。オシェットは、この行為の真意について訊ねた。

「どちらの味方でもない。我が造った魔族と人類、どちらが強いかを確かめる為、共に神の力を貸した。それだけだ。この続きはまた今度。では、また会おう」

「ま、待ってください。まだ聞きたいことが……」

 オシェットは、光に包まれ消失した。


「まあ所詮、魔人のコピーごときが、魔族に勝つ事など、不可能なことだろうがな……」

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