人形少女3

ヒガンバナ 花言葉は情熱、諦め、独立、悲しき思い出。別名は曼珠沙華など。

4月28日(木)

皇立コスモス女学院 廊下


 終礼が終わり、なずなは部活動見学に参加するべく、部活の勧誘を行われている学院内の廊下を歩いていた。

 なずなは、母親から必ず部活に入ること。部活動に参加したのなら帰りが遅くなってもかまわない。などと言われたため早退してもかまわないような緩い部活を探していた。だが、運動部はNG。ということで文化部を中心に回っていた。

 熱血系の勧誘を受け流しながら歩いていると、和室の前でオレンジの髪を短く切った少女に声を掛けられた。

「ねえ、そこのお嬢さん。茶道やってかない。茶道。あ、私なんか見ればわかると思うけど、そんな作法とかには厳しくないゆったりとしたとこだよ。どうだい?」

「あ、じゃあ体験してみてもいいですか?」

 まさに理想としていたような部活がここにあった。なずなはショートカットの少女に連れられ茶道部の部室である和室に入った。


アブラナ 花言葉は快活、明るさ。別名はナノハナ、ナタネ。

第二和室(華道部室)


「ようこそ茶道部へ。私は二年生の鬼灯嘉賀茅かがち。で、あっちの座ってるのが」

 部室に入ると、ショートカットの少女が自己紹介をし、部屋の中程を指さした。そこにはもう一人、部員と思われる少女が座っていた。

「こんにちは。鬼灯と同じ二年生で部長の清水菜乃花なのかよ。まあ座って頂戴」

 ふたりの先輩は畳をポンポン叩き、そこに座るように指示していたので、なずなはそこに正座で座り込む。

「あ。足、崩してもいいよ」

 嘉賀茅がそう言ったので、なずなは言葉に甘えて足を崩した。

「ようこそ茶道部へ。うちの部員はこの二人だけなんだけど、時々講師を呼んだりしてお茶を点ててお茶菓子を食べたり、談笑したりする部活よ。と言っても、講師なんかほとんど呼ばずに適当にお茶を点ててるだけの部活だから、お嬢様学校でも全然部員が集まらないのよね」

 菜乃花が部活の説明を行う。

 コスモス女学院には50近くの部活動があり、そのほとんどがマイナー部活であり、部員がほとんど集まらないところも多くあった。そんなこともあり最低部員数は二人とされており、部員が一人を切った状態で5月頭を過ぎると廃部ということになっている。そして茶道部はその廃部ギリギリの状態であった。

「今の話を聞いても茶道部に入ろうと思う? もしほんとにきちんとお茶を点てたいのなら学園の外でやることをお勧めするわ」

 菜乃花はそんなことを言っているが、なずなの求める部活像そのものであり、そもそも茶道にはそれほど興味は無かったので、損した気分にもならなかった。

「ええ。大丈夫です。そういうのだからいいんです」

「だよねー。分かってるじゃん。はいこれー、入部届。ぱぱぱっと書いちゃって」

 嘉賀茅がなずなの肩に組みかかりながら、入部届を出した。

「こんなどうしようもない部活だけどよろしくね。えーと、松村さん」

 菜乃花は入部届に書かれた名前を読みながら挨拶をした。

「はい。こちらこそよろしくお願いします。清水部長、鬼灯先輩」


ホオズキ 花言葉は偽り、裏切り、不信仰。

皇立コスモス女学院前


 なずなが条件に合う部活を探している間、あずさは帰路についていた。

 あずさは部活動に興味は無かった。どうせ入ったとしても自分の取り巻きが出来るだけという結果が見えていたからである。

 帰り道、学院前の大通りで見覚えのある金髪ツインドリルの少女と、その連れらしい少女があずさの横を通り抜ける。あずさは金髪の名前を呼んで呼び止める。

「千曲さん。ごきげんよう」

 声に気付いた金髪ツインドリルの少女、千曲あんずは振り返り挨拶をしてきた。

「ごきげんよう。紫陽さん。S組はどうです。不満に思うこともないでしょう?」

「ええ。皆よく出来る娘たちでよかったです。ところで、そちらのお方は?」

 あずさは、あんずの連れらしい少女が気になり尋ねた。

「ああそうね。この子は同じB組の……」

「牧野かがりです。ねえ、あんずちゃん。この人は?」

 あんずの言葉に続く形でかがりが名乗り、同時に、あずさについてあんずに問いかけた。

「ああ、そうね。貴女は知らないわよね。彼女は紫陽あずさ。私たちと同じコス女の一年生でS組の生徒よ。しかも入学試験では私の三位より上の一位だったわ。そして、私の住んでいる東宮タワーハイツを建てた紫陽建設社長の一人娘にして、私と同じ80階住みよ。あと、親同士の交流もあったから幼いころからよく会っていたりもしたわね。そうよね、あずさ」

「ええ。しかし貴女がB組だなんて驚いたわ。三位なんだからもう少し上かと思っていたのに」

 コスモス女学院の新入生はS・A・B・Cの四クラスに分けられるようになっており、それらを学力テストや健康診断の結果によって定められていた。

「でも二位の方はA組ですよ。それにS組にだって、そこまで勉強のできない娘だっていますしね」

「そうなのですね。まあクラス分けなんてどうでもいいわ。私もB組でよかったと思っているしね」

「ふふふ。ところであんずさん。貴女はこのまま帰るのかしら?」

桜田門交差点にまで来たあずさは、タワーハイツに向かおうとしていたが、かがりを連れているあんずがどうかは分からなかった。

「いいえ。私はこれからかがりさんと一緒にトライタワーのショッピングモールに行こうと思ってるの。あずさも一緒にどうかしら」

 東京トライタワーは二本の電波塔とその間に立つ世界最大の電波塔、およびその下部にある鉄道駅を含めた複合施設である。鉄道駅は東京駅に代わって現在の日菊鉄道網の中心となっている。駅舎ビル内にはショッピングモールが併設されているため全国からの旅行者でにぎわう場所となっていた。

「そうですか。では私は先に帰らせていただきますね。それではごきげんよう」

「ええ。ごきげんよう」

 そう言って彼女たちは、それぞれ別の道に分かれていった。


アンズ 花言葉は臆病な恋、疑惑。長野県千曲市は名産地の一つ。

東宮タワーハイツ 8009号室 あずさの自宅


「お母様、どうかしましたの? あ、もしかして人形の素材? そう。ありがとう。うん、そのまま送って頂戴。ええ。準備しておくわ。それじゃあ、ありがとうねお母さん。愛してるわ」

 あずさはそう言って、母親からの電話を切った。

「ウフフ。新しいお人形さん。楽しみね。どのようなものにしようかしら」

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