監禁少女2

アンズ 花言葉は臆病な恋、疑惑。長野県千曲市は名産地の一つ。

4月29日(金)

皇立コスモス女学院 1‐B教室前廊下


 入学式から一ケ月ほどが経ち、少女たちも女学院での生活に慣れてきた頃。彼女たちの興味は部活動にあった。

 コスモス女学院では、自発的な活動を促すために部活動に力を入れており、吹奏楽部やテニス部などのメジャーな部活動から、超能力研究会や世界征服を目指す会など、他校では見られないような部活動まで行われていた。

 そんな数ある部活動の紹介が昨日あったため、彼女たちの話題はどの部活に入るかということで持ちきりとなっていた。

 そして、かがりたちはというと……。


     *   *   *


「かがりさん。あなた、部活動どうするか、お決めになりましたか?」

 あんずは、廊下の窓側の壁にもたれ掛かりながら、隣にいるかがりに語りかける。

「まだ決めてないなぁ。中学の時はブラスバンドをやってたから、吹奏楽部もありかなぁって思ってるんだけど」

 と彼女は言ったものの、演奏の上手さは中の下だったので、あまり続けたいとは思っていなかった。

「そういえばかがりさん。あなた、超能力研究会の勧誘を受けましたか?」

「ああ、あの熱血部長の」

 超能力研究会。ただでさえ怪しい部名だが、部長の佐々木は熱血部長で誰彼構わずに勧誘しているようで、より怪しさが増していた。一部では、超能力実験のための被験体を集めているなんていう噂も流れている。

「あの方、何か焦っておられるようでしたが何か言われましたか?」

「ううん。入部しませんかって言われただけ。あ、そうだ。あんずさん、貴女は何部に入るの?」

 かがりは、あんずが何部に入るのか気になって仕方がなかった。

「私はソフトテニス部に入ろうかと思ってますの」

「あれ?テニスなんかやってたの?」

 その答えはかがりにとって予想外の答えだった。あんずはピアノをしているだから、音楽系の部活に入るのだと思い込んでいた。

「いいえ。他に入る部活も無いですし、何よりもテニスをしている女子って何だかお嬢さまっぽくありませんか?」

「お嬢さまっぽい……?まあ、なんか分かるけど」

「言葉使いや、住まいだけお嬢さまっぽくてもダメですもの。日々の行いもお嬢様さまらしくありませんとね」

 あんず自身は、自分が生粋のお嬢さまでないことを気にしているらしく、せめて外見はお嬢さまらしく振る舞わなければいけないと思っているようだった。しかし、かがりにとっては、あんずはお嬢さまどころかお姫さまの様な存在であった。

「あはははは……。そうだね……」

キーンコーンカーンコーン

「あら、予鈴がなったわね。次の授業何だったかしら」

「えーっと、カトレア先生の日菊史の授業だね」

「日菊史ですか……。私あの授業は苦手ですわ」

「でも準備はしておかないと」

「そうですわね」

そう言って二人は、自分のロッカーの下へと行き、授業の準備を始めた。


皇立コスモス女学院 1‐B教室


「皇歴71年9月1日、シュタールラント軍がブラテク共和国に進攻したことにより第二次世界大戦が始まりました。この戦いはアルビオン連邦、リバティア合衆国、ロマーシカ連邦、イ―リス共和国を中心とした連合国陣営と、シュタールラント、マルゲリータ王国、そして、我が日菊帝国の三国同盟を中心とした同盟国陣営の二つに世界は二分され行われました。ここまでは世界史でやったと思いますが、覚えていますか?」

「「「「「はーい」」」」」

 カトレアの確認に対して生徒たちはバラバラに答えた。

「よろしい、それでは行きましょうか。今日の範囲は大東亜戦争です。では、教科書の362ページを開いてください」

 そう言って、カトレア黒板に文字を書き始める。

「皇歴73年12月8日、日菊軍がハワイの真珠湾とアルビオン領マレー半島に上陸しました。その後も、日菊軍は緒戦で連勝を収めます。皇歴74年6月にはミッドウェー海戦において、日菊軍は空母2隻を失うも、ミッドウェー、ポートモレスビーの攻略に成功します」

 カトレアが、教科書の内容を読みあげていく。しかし、かがりやあんずたち1―Bの生徒たちは、口々に雑談をしたり寝ていたりと、きちんと授業を受けている人はほとんどいなかった。

「しかし、リバティアによる海上輸送の封鎖などによって、前線では物資が不足しつつあり、各地で戦線の後退が始まります。皇歴76年6月には、重要拠点であったマリアナ諸島沖での戦いにおいて日菊軍は惨敗。上陸を許してしまいます。これにより、日菊本土はリバティアの爆撃機の爆撃可能範囲内に入り、日菊各地が爆撃を受けるようになります。この情勢を重く見た軍部は、特攻兵器の使用を決定しました……」

 突然カトレアが話すのを止めたため、生徒たちは彼女の方を見る。

「皆さん、これから話すことは大切なことです。ちゃんと聞いてくださいね」

その言葉を聞いた生徒たちは、すぐに話すのを止めて前を向いた。聞かなければならないと思ったからではない。カトレアの穏やかな口調の中に静かな殺気を感じたからだ。

全員が話を止め、前を向いたのを確認したカトレアは再び話し始める。

「このような状況を憂いた、当時の東宮そして後の初代女皇、黒松百合華殿下が、連合国側に停戦を要求するべく、近衛軍を引き連れ上京します。そして、国会を占拠し、世界に向けて停戦を発表。連合が停戦に応じ、京都講和会議が開かれます。日菊は海外領土を全て手放し、国号を帝国から皇国おうこくへの変更、軍の不保持といった内容によって停戦。同時に連合国側で中立の立場を表明します。また黒松殿下は、自らを女皇と名乗り、以後東宮の家系が女皇を継いでいくということと、天皇としての権限は自身にあることを表明します。これが現代まで続く京都皇室と東宮女皇家の争いの原因となっています。それでは皆さん、ノートを取っていってくださいね」

 そう言ってカトレアは、再び黒板に向き直って字を書き始める。

「さっきのヤバいよね……」

 生徒の一人が、隣の席の生徒に小声で話しかける。

「満面の笑顔だったけど、殺気が滲み出てたよね」

「マジで殺されるんじゃないかって思っちゃった」

 話し声が聞こえたのか、カトレアが振り返る。

「あなたたち。私語はいいけれどノートは取ってくださいね。あと、殺しはしないわよ。殺しは、ね」

「「は、はいぃ……」」

 こうして、噂が伝わり、カトレアの授業で寝たり、私語をする学園の生徒はいなくなったのであった。

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