第13話 魔王にさよならを
司会者がいなくなってしまったため、その後の進行は急きょクレイさんがバトンタッチした。さすが普段から人前で説教とかやってるだけに、上手かった。
なんとかそれ以上大ごとにはならず、ツアーは終了した。
これがきっかけで付き合うようになったカップルも大勢出て、目標値は達成した。
でも、完全な失敗だった。
「フィクションはあくまで虚構。現実には上手くいくとは限らない。確かに私はシナリオを考えるのを仕事にしてるけど、現実にそれができると思う?」
私が言ったことだ。
だけど上手くいくことが多かったから、いつの間にか私も天狗になっていたのかもしれない。正直、落ち込んだ。
原案がいつもハッピーエンドで終われたのは、しょせんフィクションで登場人物は全部自分の思う通りに動くから。現実ではありえないのに。
結局、コーラルさんは皇帝と妃を襲撃したということで投獄された。死刑にはならないが、厳罰は免れない。船に暴風雨をお見舞いしたのと、人前で私を攻撃しようとした二つの罪が重なったためだ。
船にジュリアスが乗っていたのを知らなければまだ情状酌量の余地もあっただろうが、知っていたはず。それでいて皇帝に刃を向けたんだから大逆罪だ。その場で切り殺されても文句は言えない。むしろそれが当然と誰もが思っていたようで、やらなかったことに驚かれていた。
しかしこれを無罪放免にしてしまっては、国民に示しがつかない。無関係の人を大勢巻き込んだこともあり、何も罪に問わないのは無理と私も納得した。
嫉妬のあまり怒り狂って暴走したツケはあまりに大きかったわけだ。
コーラルさんの夫、司会者は直接やったわけではないということで、罰金刑のみで釈放された。毎日妻の面会に行っているという。彼は本当にコーラルさんが好きなのだろう。
パールさんも投獄された。実際暴風雨を起こしたのはコーラルさんでも、元凶は彼女。同じように公衆の面前で妃を攻撃しようとした罪も重い。離婚して自分と結婚しろと強要したこと、コーラルさんに暴言を吐いたことも加算された。こちらも厳罰は免れないだろう。
二人とも事務所からは解雇。アイドルも強制的に引退となった。社長はそれで逃れられると思っていたようだが、思ったよりジュリアスの怒りが強く、睨まれただけで事務所をたたむと決めた。チームも解散。……まぁ、恐いよね。
これらのことは秘密裏に処理された。表向きは健康上の理由で社長が引退、それに伴い事務所も閉鎖。『人魚姫』も解散。テレビクルーが船酔いで全滅していて、撮られずにすんだことが幸いした。
これは人魚族のため、私が必死になって頼んだ。事件が公になれば、風当たりが強くなるだろう。下手すれば迫害されるかもしれない。人魚は見目美しさから観賞用として、または不老長寿の妙薬として乱獲された歴史があるそうだ。また乱獲が始まれば、今度こそ絶滅してしまうかもしれない。
先祖の悲恋から逆に過度の肉食系になってしまったのは一部の人魚族だけで、全体はそうではない。一部の人魚のために前全員が同じ目で見られるのは気の毒だ。
ただしその代り、二度と同じことを繰り返さぬよう約束させた。処刑覚悟で飛んできた長老は涙ながらに約束した。
「本当に申し訳ありません。いくら先祖が悲しい結末を迎えたからといって、無念を晴らそうとする気持ちが誤った方向に行きすぎました。お妃様の恩情に感謝いたします……」
行き過ぎてしまうほどに、人魚姫のことは皆ショックだったんだろう。
長老はリゾートの経営権も手放すと言った。二度と暴走しないよう、他の種族に任せるという。適切な人材が見つかるまで、一旦国営となった。
豪華客船クルーズも「代替地の手配」という名目で休止。ところが反響が大きく、いつ二回目をやるのかという問い合わせが殺到。もはや中止は不可能であり、別の候補地を探すことになった。
前回候補地は他にもあり、それらでもよかったが、また何か問題があったらと慎重になった。調査に時間を要している。
「ごめんね。私がもっとちゃんと調べてれば、一回目だって失敗しなかったのに」
「別にお前のせいじゃない。まさか向こうのスタッフが事件を起こすとは誰も予想できなかっただろう」
「だけど、物語はしょせん物語。現実に上手くいくとは限らないって分かってたのに、何度か上手くいったからって甘く見てた私が悪い。……ごめんなさい」
あれからというもの、あんなに日に何本もポンポンと思いついていたアイデアがぱたっと出なくなってしまっていた。原案のほうもさっぱりネタが下りてこない。一日に余裕で十本くらい考えつくこともあるほど多作だった私が。
責任を感じる私をジュリアスはなんとかなぐさめようとしてくれた。
「初めにあそこについて話していたのはルイだろう。あいつも知らなかったらしいが。責任というならあいつにもある」
「そんな、ルイさんは悪くないわよ」
独身だったルイさんも元王子で売れっ子デザイナーなんだから優良物件だったはず。結婚攻勢に遭わなかったのかと疑問に思い、パールさんにきいてみたら、「あそこまで変人なのはいくらなんでもナシ」だそうだ。
確かにマラカス持って、半裸で始終意味不明なこと言ってて、踊ってる変人はナシだな……。まず通訳が欲しい。
シンデレラさんはあれが夫で本当にいいの?
「仕事が全て成功するとは限らん。気にするな」
「……うん……」
私は会社でも影でひっそり地味な仕事ばっかりやっていた。大きなプロジェクトはやったこともないし、関わったこともない。能力もなく、任されたこともない。だからこそこの失敗はこたえた。
とはいえ発案した責任上、クルーズ二回目を考えなければならない。視聴者の意見も幅広く集めたところ、やはり海は人気が高かった。そこで協議を重ねた結果、セイレーンの島を立ち寄り先にすることにした。
セイレーンというと、歌声で人を惑わし、海に引きずり込んで殺すというイメージが強い。昔はそうだったらしいが、今では歌声を平和利用している。戦争中は兵士への慰問、現在はアイドルグループ。
そもそも、人魚のアイドル戦略はセイレーンのを真似たものだったそうだ。
「セイレーンがアイドルでガッポガポもうけて、ファンを大勢獲得してるから、人魚も真似したってことですよ。ほら、ライブ会場は独身が大勢集まるでしょう」
元マネージャーが辛らつに述べていた。ちなみに事務所がなくなって解雇された彼は、リゾートの仮代表者として働いている。地味男で毒舌な彼は人魚族のタイプではなく、彼らを更生させつつ働かせるのにうってつけの人材だった。
セイレーンの住処は元々人間には生きにくい海域にあった。化け物として退治されていたから、わざとそういうところに住んでいたわけだ。
それだけに、整備はされていないが、手つかずの自然が残っている。ショッピングはできなくても、大自然を満喫することはできた。
昔から人気の人魚と違い、セイレーンは討伐対象だったから、今では他種族と仲良くしようと穏やかな気質になっていた。アイドル戦略も金儲けのためではなく、自分たちの悪いイメージを払拭しようとしてのこと。
あの人魚族は、人魚はたいていの人に好かれるから「人魚は人気だから、ちょっとくらい強引に迫っても喜ばれる」「私達と結婚できるのは名誉なこと」と天狗になってしまい、増長したのだろう。動機が先祖の無念を晴らすために違いはなかっただろうが、異常なまでレベルになったのはそういう意識があったからではあるまいか。
反対にセイレーン族は迫害されていたから謙虚さを身につけた。
セイレーンの本来の姿は頭が人間、体が鳥。人間に化けることはできるけど、人間よりははるかに鳥に近い。人型の種族は恋愛対象にならず、鳥型が好みだそうだ。
彼らは種族のイメージアップを目的としているため、接客も丁寧。参加者の中に鳥型の種族がいても、今は仕事中とわきまえているから迫ることもない。
船は軍艦だったから、この海域にも行くことができる。視察を重ね、決定した。
ショッピングを楽しみたい人のために、もう一つ行き先を追加した。元からある大型ショッピングモールだ。船が空も飛べることを利用し、内陸部も回ることに。
こうしてクルーズ二回目の発表と遊園地の開園日が迫ったある日のこと。
ジュリアスが「話がある」と私の部屋を訪れた。
「どうしたの? また何か?」
「いや……」
ジュリアスは真剣な声音で言った。
「離婚しよう。結婚指輪を返してもらいたい」
☆
「……は?」
私はさぞ間抜けな面をしていたことだろう。
何の冗談かと思ったが、ジュリアスは冗談を言うような性格ではない。
「今、離婚しようって言った?」
「言った」
「何で? 強引に結婚させたのはジュリアスでしょ」
「だからだ」
はい?
「お前は言っていただろう。相手のことを想うなら、無理やり結婚させるべきではないと。相手の幸せを優先するのが愛情だと」
「……それは、言ったけど……」
ジュリアスに向けたものではない。
「人が同じようなことをしているのを見て、初めてどれだけ自分勝手だったか分かった」
……それはよかったね。
「そしてお前が襲われたことで気づいた。話退社ただ役に立つからという理由でお前をつなぎとめようとしたわけではないようだ」
ジュリアスが私の前にひざまずいた。左手を取る。
「どうやら私はお前を愛しているらしい」
「………………」
皇帝がひざまずいて告白。夢みたいなシーンだ。
でも待て。色々つっこみたい。もう結婚してるのに今さら告白ってどういうことだ。しかも「らしい」って何だ。
つっこむべきか赤くなるべきか真剣に悩んだ。
「色々言いたいことはあるけど……まずきこうか。らしいってどういうことよ」
「私には恋愛感情がなかったからよく分からん」
そういえばこの人、恋愛初心者だった。
たぶんこの感情が好きだってことだと予想はつくけど、経験がないだけに確証がないんで断言できないと。
「エリーを可愛いと思うし、愛おしいと思う。こういう感情を抱くのはエリーだけだ。一生傍にいてほしいと思う。だから私はエリーを愛している……と思う」
最後のところで脱力する。
プロポーズの言葉としては何か間違ってないか。でもこれがジュリアスの精一杯なんだろう。断言しないのは誠実さの表れだ。
「私はエリーに妃でいてほしいが、お前は愛し愛される人とでないと嫌だと言った。私はエリーが好きでも、エリーはそうでなはないのだろう? だまして結婚させたことはすまなかった」
ジュリアスが謝った。仰天する。
え、大丈夫? 今日世界が終わるんじゃない?
「だからお前を解放しようと思う」
「解放……って」
「お前を元の世界に帰す」
「え?」
目をしばたいた。
「帰りたかったのではないのか?」
「そりゃ帰りたいけど、なぜか魔法が作動しないじゃない」
「あれは私が妨害していたからだ」
「はあ?!」
驚愕の事実。
理屈は分からないけど、ジュリアスが邪魔したせいで帰還魔法が使えなかったと。神官団総がかりでやったものをたった一人で妨害できるって、ジュリアスはどれだけ魔力が強いのだ。
「じゃあ、私はいつでも帰れたってこと?」
「ああ」
―――帰れる。
その時になったらうれしいはずだった。
……でもなぜだろう。あまりうれしくない。
ここは私のいた世界ではない。家族もいない。せいぜい一年くらい滞在する程度のつもりだったのに。
どうしてここにいたいと思うんだろう?
「契約印は消すことができない。そういう魔術だからだ。だがそちらの世界では何の力も持たないだろう。ただの入れ墨と同じだ」
「……そう」
「指輪はそうではないから、外せる。元々無理やり押しつけたものだ。返してくれ」
薬指から結婚指輪が抜かれる。それはあまりにあっさり外れた。
これは魔具ではない。私の世界の結婚指輪を模した、ただの指輪だ。外れるのは分かっていた。
分かっていて、外さなかった。外せなかった?
「……色々とすまなかった。ありがとう」
別れの意味か、手を握る。
「エリー、どうか幸せに」
☆
ジュリアスが出て行っても、私は動くことができなかった。
機能が停止したように、頭も手足も動かない。
フェイがやってきて、残念そうに言った。
「持って帰りたいものは何でも持って帰っていいそうです。……何かご入用のものはありますか?」
わずかに首を振るのが精一杯だった。
何もいらない。ほしくない。もとより帰る時は何も持たずに帰ると決めていた。
来た時着ていた服を渡される。着替える気力もなかった。
包みを持ったまま立ち尽くしていると、神殿へ連れて行かれた。
祭壇へ案内される。
クレイさんはじめ神官団が待っていた。
「エリー様、とても残念です。でも陛下のご命令なので……」
ジュリアスはこの場にいない。見送りたくないのだろう。
「……また、こちらに来ることはできる?」
クレイさんは否定した。
「陛下が二度と召喚魔法は使ってはならないと」
もう二度と会えない。
その事実が現実としてつきつけられる。
どうして私はこうまでショックを受けているんだろう。あんなに彼を拒絶していたはずなのに。
「お妃様、こちらへ」
祭壇の中央を示される。
私はお妃様じゃない。そう必死に否定していたはずだった。いつからその呼び方を拒否しないようになっただろう?
いつから?
なぜ?
……確かに、最初は無理矢理だった。だまされて結婚させられた。それを受け入れるようになったのはなぜ?
ジュリアスは見た目が恐いし、いつも不機嫌面だし、眉間にしわが寄っている。
ぶっきらぼうで偉そうで上から目線で無口。魔王と呼ばれ、面倒だからと黒ずくめで、誰からも恐れられていた。
でも為政者としては優秀で、きちんと仕事はしている。皇帝なのに使用人たちが逃げて務めを果たさなくても怒らない。一人で黙って食事して、着替えて、寝てる。
いつも独りぼっち。
実の親に捨てられ、そのことがトラウマで人を愛せず、自分は誰からも愛されないと思っている。だから乳母一家の愛情にも気づけなかった。
クレイさんやフェイが傍にいたのに、『家族』が分からなかった。自分は押しつけられた厄介者で、申し訳ないとさえ思っていた。迷惑をかけまいと出ていき、傭兵になる。どこぞの戦場でのたれ死んでもいいと思っていたに違いない。
辛さを感じないで済むよう、感情を捨てた。
常に孤独で、他者とどう接していいか分からなかった。だからあんな態度を取っていただけ。
――――不器用で、強いのにどこか弱気で、優しい人。
「……馬鹿ね」
ぽつりとつぶやく。
だまして結婚したくせに、私が嫌だと言ったら素直に「愛し愛されるよう頑張る」って。ただの人材確保なら結婚する必要などなかったのに。その時点でどうして気づかないのよ。
私が好きだったから結婚したかったんだって。強引にでも離すまいとしたんだって。
危険が迫れば助けてくれて、本気で怒ってたくせに。
そのくせ結局は優しいから、私の幸せを優先すると手放す覚悟をした。
「―――本当に不器用で馬鹿な皇帝陛下なんだから……」
私は苦笑して、背筋を伸ばし、前を見た。
「儀式を中止してください」
凛とした声で告げる。
クレイさんが驚いて、
「え? でも……」
「私はジュリアスのところに帰ります」
彼の元が私の帰る場所だから。
皆ぱっと明るい顔に戻った。
「エリー様、それでは」
「ええ。だって、私はジュリアスのお妃だから」
☆
城に戻ると、誰もが驚愕していた。
「お妃様、帰られたのでは?」
「どうかなされたのですか?」
「ジュリアスはどこ?」
山のような質問を遮ってきく。
「陛下でしたらご自身の部屋に……。執務室におられましたが、ずっとぼんやりしていて仕事にならないと、お部屋へ引き取られました」
「そう。ありがとう」
ジュリアスの部屋へ向かう。勢いよくドアを開けた。
「ジュリアス!」
ジュリアスはソファーに座り、ぼーっとしていた。視線は私の指から抜いた結婚指輪に注がれている。
私はズカズカと近づいた。
「ほんとにあなたは馬鹿なんだから!」
ジュリアスは呆けたようになっていたが、幻覚ではないと気づくと慌てて立ち上がった。
「エリー?」
「まったくもう! 不器用にもほどがあるわよ。いつも肝心なところで人の言うことをきかないんだから」
「帰ったんじゃなかったのか?」
私は腰に手をあててつめよる。
「やめたの。あのね、ていうかそもそもどうして帰す前に私の気持ちを確認しないのよ」
「……それは……」
「どうせフラれるのが恐かったからでしょ」
「…………」
「やっぱり」
ジュリアスは自分が人に愛されない存在だと思っている。でも誰かに愛してほしかった。だから拒絶されるのが恐くて。
まったく、妙なところで弱気なんだから。
「あなたみたいにどうしようもない人、私がずっとついてないと駄目ね」
「エリー?」
私は左手を伸ばし、ジュリアスの右手にからめた。おそろいの契約印がそろう。
「決めたの。私は一生あなたの傍にいる。ジュリアスのお妃になるわ」
社会的・法律的にはとうにお妃なんだけど。
ジュリアスは結婚してだいぶあとでプロポーズした。私が今さら自ら認めてもいいだろう。ある意味これもおそろいだ。
ジュリアスの目が見開かれる。この人がここまで目を大きくするのは人生初に違いない。
「エリー……じゃあ」
「ああもう、一回しか言わないからよく聞きなさいよ! 私もジュリアスが好きなの!」
真っ赤になりながらも叫んだ。
は、恥ずかしいぃぃ!
人生最大の恥ずかしイベントだ。持ってる全ての勇気と精神力をつぎこんで、よく言えた私。
自分で自分を褒めてあげたいとはこのことだ。
「エリー、愛してる!」
がばっとジュリアスが抱きついてきた。
「ぎゃああああああ!」
思いっきり濁点つけて叫んだ私は悪くない。悪くないよ!
当分の精神力は使い果たしたよ!
「は、はなし……」
これ以上ないくらい顔を赤くして上げれば、ジュリアスが笑っていた。
びきっと音をたてて固まる私。
ものすごいものが見えた気がする。幻覚か。幻覚にしてもどうなんだこれ。
いや、本当に笑ってる。まぎれもなく口の端が自然に上がっていた。
「じ、ジュリアス、笑顔……」
「ん? これがそうなのか?」
「……だよね」
残虐な魔王の酷薄な笑みではなく、心から嬉しい時の顔だ。
「そうか。私は笑えたのか……」
感慨深げだ。
よかった。感情が戻ってきたのね。
「エリーのおかげだ。やはり私はお前がいないと駄目らしい」
「そうよ? また離婚するとか、帰すとか言ったら怒るからね」
「言わない。エリーとずっと一緒にいたい」
まるで小さな子供だ。笑ってしまう。
「魔王って恐れられてた人が、何子供っぽいこと言ってるのよ」
ああ、そうか。私達は何の話がモチーフかと思ったら、やっぱり『美女と野獣』だったのね。
残念ながら私は美女じゃないけどね。
「……まぁ、夫が妻にちょっと甘えるくらいいいけど」
ジュリアスは誰かに甘えた経験がない。私くらい甘えさせてあげたい。今まで手に入らなかったぬくもりをあげたい。
ジュリアスがまじまじと私を見た。
「ふむ。これがツンデレというものか」
「違う! それは絶対に違う!」
断固抗議する!
「それよりエリーが私を夫と認めてくれてうれしい。もう一回言ってくれないか?」
私はつんとしてそっぽを向いた。
「言うわけないでしょ。一回きりだって言ったじゃない」
「エリー。言ってくれたらうれしい」
「う……」
ジュリアスが喜ぶなら……。
そう考えてしまうあたり、私も相当どうかしている。
「……ジュリアスが好き。愛してる」
聞こえるかどうかというくらい小さな声でつぶやいた。
これが限界。勘弁して。
「可愛い、エリー」
頬にキスされた。
「だ、だからそういうことを……っ」
「嫌か?」
「……嫌じゃない」
ジュリアスが私の左手を持ち上げる。
「結婚指輪、はめ直してもいいか?」
「もちろん」
何の変哲もないシンプルなリングが薬指に通る。
私達はどちらともなく微笑み、唇を重ねた。
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