#5
——大陸戦争。
それは、今より六年前に勃発したエウロ大陸全土を巻き込んだ大規模戦争である。
エウロ大陸はこの世界においてもっとも大きな大陸であり、数多くの国家が大陸に存在する。そんなエウロ大陸において大陸戦争の火蓋を切ったのは、ラハト帝国という国である。
ラハト帝国はエウロ大陸西方に位置し、国土面積は小さいものの、周辺諸国よりも格段に進んだ科学技術を持つ先進国だった。
八年前、エウロ大陸は天然資源の将来的な枯渇問題に直面した。石油などの地下資源には当然限りがある。文明の進歩に比例して資源消費量は増加し、このままでは資源はそう遠くない未来に枯渇する事実は大きな影響を与えた。
エウロ大陸の主な資源産出国は輸出量減少に向かって舵を切り、石油を始めとした各種資源価格の高騰を引き起こした。
これに影響を受けた国は多く、特に天然資源をあまり持たない国にとっては大打撃だった。資源価格の高騰は各国の景気を揺るがし、資源産出国に対する反感の声も少なからず上がっていた。
それらの筆頭が、ラハト帝国である。
ラハト帝国の国土は天然資源に恵まれず、資源面は他国からの輸入に依存していた。進んだ科学技術を持つラハト帝国は、諸外国と比較して資源消費量が格段に多かった。そんな中で、先の資源価格の高騰である。国内経済は大打撃を受け、国内の景気は大暴落、治安も悪化していくという目も当てられない状況になっていった。
そのような状況に陥ってからまもなく、ある思想を持った集団が力を持つようになっていく。資源産出国を侵略し資源を確保して国家を立て直さんとする「過激派」である。
次第に悪化していく国内状況も手伝い、「過激派」の勢力は増加の一途を辿った。
ラハト帝国の科学技術は、軍事力へと遺憾無く注がれていった。
六年前、ラハト帝国は資源産出国に対して宣戦布告を行う。
強大な軍事力を持ったラハト帝国と同様の問題を抱える国家は次第に同盟を組み、対して豊富な資源と国土を持つ資源産出国同士も次第に結託していった。
そうしてラハト帝国が仕掛けた戦争は、瞬く間にエウロ大陸全土を巻き込んだ戦争へと変化したのである。
そして半年前、戦争は集結した。戦争の元凶である、ラハト帝国の崩壊によって。
だが、戦争がエウロ大陸に残した傷跡はあまりにも大きかった。
多くの土地は焼かれ、多くの街や都市は崩壊し、多くの国が滅亡した。
ラハト帝国は崩壊したが、対する資源産出国も国力を大きく削がれ、自国の建て直しに精一杯というのが現状だった。
国家間の戦争は集結したが、あまりにも荒れ果てた大陸では治安など微塵も存在しなくなっていた。
国として体裁をとっているところはまだしも、大陸の大半は無法地帯と化していた。
戦争が集結して半年が過ぎた現在でも、いまだに多くの人が無法地帯での生活を余儀なくされている。
互いに手を取り合って生きていく者もいる。
しかし、他人から奪うことで生きていく者も当然存在するのだ。
そう、彼らのように。
男は盗賊へと身を落としていた。
国があった頃の男はなんら変わりない、平凡な生活を送っていた。家族も居たし、妻は娶っていなかったが、それなりに幸せだった。
だが戦争は、そんな男の日常を容易く奪い去っていった。徴兵令により強制的に兵士として戦場に送り込まれ、戦争という極限状態に放り込まれてしまったのである。
大陸戦争の後期から終結まで約一年間だが、男は幸運にも生き延び、元居た場所へと帰っていった。
だが、住んで居た都市は崩壊し、すでに機能しなくなり、男の住んで居た建物は、ただの瓦礫と化していた。男は帰る家も、帰る国も無くしてしまったのである。
男は、生きるために盗む事を選んだ。生きるために食べ物を盗み、物を盗み、ついには相手を殺傷してまで盗むようになった。
良心の類は既に持っておらず、盗みを働く旨味だけが男を支配していた。
男が同じような境遇の者と手を組むのは、そう遅くなかった。
仲間は二人、三人と増え、今は五人の男達で、さらに過激な窃盗、略奪を行うまでになっていた。
男達のいる廃墟都市に住む人々は、男達のような、所謂悪党に恐怖していた。
その恐怖を与えているという事実は「自分たちに逆らえる者はいない」と、男達を次第に奢り高ぶらせていく。
次第に生きるためだけではなく、弱者を
強い者が弱い者を搾取して何が悪い、取られるほうが悪いのだ。
そうして、男はこの世界を生きているのである。
いつものように、男達は獲物を探していた。
裏路地を這い回り、こそこそと生きている者達をあぶり出し、奪い、そして殺すために。
—居た。
口角が釣り上がる。
ゴミ箱をガサガサと漁っている少し小太りの男は、にやにやと笑みを浮かべながら向かってくる男達の手に銃が握られているのに気づくや否や、顔を青くして一目散に逃げていく。
それを追いかける男達。
「ちっ、見た感じではロクなものは持ってなさそうだな。」
「だったら殺して気を晴らすだけだ。へへ。」
「どうせなら甚振ってやろうぜ。」
そんな会話をしながら、惨めに逃げてゆく小太りの男を追い立てる。
まるで、お楽しみはこれからだと言わんばかりに。
小太りの男は必死で逃げる。
行くあてなど無しに、ただひたすらに走る。
時折後ろからの銃声に身をすくめつつ、必死に足を動かす。
命からがらに狭い路地を抜けた先で最期に見たのは、二人の少女の姿だった。
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