第53話


「街に面する内海の中央に祭壇があってその中にあるらしい

 今日はその祭壇を祭る祭りだったらしいな」


 相沢たち四人は、カルダのその話に聞き入った。そして、この街はお祭りをするほど、その祭壇のことを大事に思っているのだと、そう思えるのだった。


「そうなると船がいるわね」


「船着き場にいけば何とかなるだろ」


 カルダのその意見は楽観的なようにも思えたけど、他に手があるわけでもなかったし、素直にそれに従うことにした。





 そして、五人は連れ立って船着き場へと向かう。所々に案内標識のようなものもあったし、海を目指せばよかったから、それほど迷うようなこともなかった。

 途中、物凄い轟音を鳴らす水門のような場所や、噴水のような小さな広場を横目に見ながら、船着き場を目指すのだった。

 そこに近づくにつれ、辺りには潮の匂いが増し、また、人々にも活気があるように思える。


 船に乗り込むためだろうか、早足に急ぐ家族の姿や、荷車を引く人たち、お祭りの時とは違った騒がしさがそこにひしめいていた。


 カルダは手ごろそうな船を見つけると、そこに交渉に行くのだった。そして、しばらくして戻ってくると四人にこう伝えた。


「だめだ、観光として外から眺めることができるそうだけど、着岸は無理だと言われた」


「困ったわね。だけど、この街の人たちも水のエレメントの危機に気づいてないのかしら」


「どうも神聖な場所らしいな、近づくことを恐れていたようにも見えた」


 相沢とカルダはもはや考え込むしかなかった。相沢が考え込む脇で、カルダはあたりを見渡し、難しい顔をしていた。


「今夜、いや、明日の早朝。やってみよう」


「この街の対岸に移動しよう、ここからでは無理だ」


 カルダは港の対岸を指さすと、そこへ行くようにみんなを促した。





 対岸へとたどり着くと、カルダはいつものように焚火をくみ上げ、どうやら今日も野宿になりそうだった。

 カルダは、焚火をくみ上げるも、動きを止める様子はなかった。バキバキと枝を折り、ツルのようなものを採取しては、焚火の周りに集めせわしく動く。


「ノーク、ちょっとそっち抑えててくれないか」


 あらかた材料が集め終わったのか、カルダはノークを呼び寄せると、何かを組み始めた。カルダは、いかだを作り出そうとしていたのだ。

 そんな姿をみて、相沢は改めて感心するのだった。この人はなんでもできてしまうのだなと。


 その作業は夜通し行われているようだった。その横で、相沢とミーナはうとうとし、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。

 そして、翌朝目が覚めたころにはそれはほぼ完成していた。ノークとカルダは元気なもので、楽しそうにその作業を進めているのだった。


「ノーク君、カルダさん、無理しちゃだめよ」


「無理なんかしてないぞ」


 男の人って、夢中になると夜通しでもそれを成し遂げてしまうことに、相沢はどこかしら関心のようなものを抱いていしまう。

 ようやく組みあがったいかだを砂地の浜に置くと、いよいよ出発だった。

 そのいかだは、五人が乗るには少し小さかったけど、だれかを置いていくわけにもいかなかったから、仕方なく、詰め詰めで全員が乗り込むことに。

 ノークが中央を占領し、カルダは右の舵を、隼人が右の舵を担当することになった。


 そして、海に乗り出す五人。波は穏やかで、ゆったりと進むそれに安心感を覚えることができた。

 しばらくたったころだろうか、ノークが何かの異変を感知する。


「なんだろ、何か様子がおかしい」


「どうしたの?ノーク君」


「分からない」


「ほら、あれ」


 そう言い、ノークが指を指すもそこには穏やかな海が広がっているばかりで、何も変わった様子はなかった。


「ほら、また」


 そう言われ、目を凝らすも、やはり何もない。


「何も……」


 そう言いかけた時だった、黒い影が、相沢の目にもはっきりと映った。海の中をうごめくその黒い影はいかだを周回するように回ると、また消えていく。


「何、あれ……」


「皆、いかだにしがみつけ、まずいぞ!」

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ペルソナ~心を失った少年~ ユウ @yuu_x001

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