第47話


 ロングヘアの男は鞭を構えると、一振り、バチンと床に叩きこむ。


「我が名はグルザ。お相手願おう」


 そして、再び鞭を構えると、水平に振りぬき、返す手で、斜め上方からたたきつける。


 グルザの連撃に、隼人と、カルダは、一歩、また一歩と引くしかなかった。

 隼人は考えた、何か手立てはないかと、そして隼人が出した答えは。


「槍」


 隼人は武器の形を変化させ、それを勢いよく突き抜く。グルザはとっさのことによけきれず、かすり傷を負うのだった。

 隼人は柔軟だった、直ちにその状況に順応する、それが隼人の特性かもしれなかった。


 隼人は手を休めず、手に持つ槍で連撃を加える。一歩一歩下がらなければいけないのは今度はグルザの方だった。


 グルザはついには、壁に追い詰められ、ドンと一撃、腹部に強烈な一撃を食らう。


「ぐふっ、見事だ。今日のところは様子見だ、また近いうちに会おう」


 そう言うと、グルザは近くの扉から外へと消えていくのだった。


「なんだったんだあいつら」





「グルザ坊ちゃま、間もなくお昼ですよ」


 グルザは裕福な家庭の生まれだった。敷地内には大きな庭があり、無数のバラが植えられていた。

 ある時グルザが庭で遊んでいると、ボールを誤ってバラの中に落としてしまい、何も知らないグルザはバラの中に手を突っ込み拾い上げようとする。


「いてっ」


 バラの中に手を入れると、引っかかれたような痛みが走り、グルザは腕を止めた。その後よくよく観察し、バラの棘を見出すのだった。

 そこに、ちょうど愛犬のメリーが遊びに来ていた。


「メリーおいで」


 グルザは、メリーを呼び寄せると、抱きかかえ、こともあろうかバラの中に放り投げたのだ。

 するとメリーは痛みにもがき、しばらくすると外に出てくる。

 グルザにはその姿が楽しくて仕方なかった。

 そして、それを何度も何度も繰り返すのだった。


「グルザ坊ちゃまは、メリーと仲がいいですね。大切にしてあげてくださいね」


「もちろんするさ、あれは僕の大事なおもちゃだ」


 育児係はもはや苦笑するしかなかった。

 彼女にはわからなかった、グルザが一つも顔色を変えずにその行為をしていることが。

 立場的に、グルザを叱るわけにもいかなかったし、仮に自分の息子だったとしても、どう反応していいかわかりかねるほどだった。





 隼人たちは、グルザの一件の後、土のエレメントを目指していた。

 景色は草原のものから徐々に、植物が減り、土肌一色となっていた。


「土のエレメントの影響?」


「だろうな。

 にしても暑いな」


 辺りには日を遮るものは何もなく、また熱を吸収する草もなかったため、彼らはもろに熱を浴びていた。


「蜃気楼がだんだん水たまりに見えてくるぜ」


 カルダはそう言うと顎を拭った。


「どこかで水分を補給しないとな。こんなことになるとは予想してなかった」


 カルダのその言葉にはどことなく力がなかった。


 そうしてしばらくしたころだろうか、遠方に角ばった建物のようなものが見え始める。


「あれ街じゃないかしら」


「どうせ蜃気楼だろ。それよりこの暑さ何とかしてくれ」


「だらしないわね、いつもは馬鹿みたいに元気なのに」


「馬鹿みたいにって……怒る元気もねーわ」


 相沢はもう肩を落とすしかなかった。

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