第43話


「間もなくだ、間もなく完成する」


 男は黒いロングコートを翻し、ゆっくりと階段を下る。


「だがおかしい、エレメントの力が弱くなっている」


 男は床に描かれた巨大な法陣を眺めて、輝きが弱まっていることを嘆くのだった。


「もっとだ、もっとだ、もっと吸い取れ

 この世界など滅んでも構わない

 この地の全てを吸いとれ」


「……様、この世界に人間が迷い込んだとの情報が入っております」


「人間か……捨て置け……いや、呪術の完成には生き血が必要

 そ奴らをここへ連れてまいれ」


「はっ」


 黒いローブをまとったそいつは、頭を下げるとその部屋を後にするのだった。





 不揃いな五人一行は、また森へと戻っていた。そこは先ほどより深い緑に覆われ、土が見えないほどに茂っていた。


「こんな深い森があったなんてな」


「俺も来るのは初めてだ」


 しばらく進むと開けた場所に一本の大樹があり、その気は本当に大きく、何人も手をつながなければ囲めないほどの大きさだった。


 隼人は、その木に触れ、そして額を付けた。

 木の表面は冷やりと冷たく、ざらざらとした感触で、触れていると心地よかった。

 その場所は風がそよぎ、小鳥がさえずり、驚くほど静かな場所だった。

 木の幹に集中すると、中を流れる水の音が聞こえ、生命の活動を感じられる。


 葉の隙間からは、光の帯が伸び、地に光の輪を映し出す。


 隼人はそのようにしながら、またボヤリと木を眺めるのだった。

 目の前の木のみならず、辺りを見回し、緑と茶と闇のコントラストをただ眺めていた。


「木」


「木?」


「ペルソナ」


「カルダ!木に備えろ、囲まれてる」


 それは、いつも風景を眺めていた隼人だからこそ気づいたのかもしれない、風景のちょっとした変化に違和感を感じたのだ。


 何もないただの森から、ツタのようなものが飛び出し、カルダの腕に巻き付く。


「なんだこいつ」


 隼人は、いつものトンファーではなく、斧をイメージし、その形に武器を変化させると、

 カルダの腕に巻き付くツタを切り裂く。


 それは何本も飛来し、カルダ、相沢、ノーク、ミーナの体をとらえる。


 相沢はとっさにエレガント?を構えるも、それは弾き飛ばされ、草の上に転がり落ちるのだった。


 焦る隼人、そのツタを一本一本相手に、切りにかかろうとしたとの時だった。


「ぬしら、ここへ何しに来た」


「私たちはただ、エレメントを、キャ」


 話す相沢に、さらにツタが巻き付き、言葉を遮る。


「勝手なものだな。我らは痛みも心も持たずただここにあるだけ。

 ぬしらは我らを都合の良いときに生かし、都合の良いときに殺す。

 生かすも殺すも、ぬしらの都合次第というわけだ」


「何が望みだ」


 隼人は、木々の嘆きに切り返す。


「我らは静かに生きたいだけ。我れらの静寂を破るものはすべて外敵」


 そう言うと、ツタを再び隼人にけしかける。

 隼人は、そのツタを斧ではじき、次の攻撃に備える。


 残り四人をとらわれ焦る隼人、そのツタは彼らの体を徐々に締め付け、一刻の猶予もない。

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