第五章

第40話


 隼人たちは森に来ていた。そこは草木がうっそうと茂り、皆不規則に伸び完全に放置された状態で育ったことを思わせる。

 木々にはツタが巻き付き、石には苔がむし、中には見たことのないような植物も見受けられた。


 空気は冷たく、陽の光も木々に遮られ、地上に届くものはわずかだった。また何より、空気が街のものとは違っていた。

 その澄んだ空気は、吸い込めば肺全体に広がり、まるで体内まで浄化されるようだった。


 隼人は、前を進み皆の道を開きたかったのだけど、ノークがカルダに買ってもらったナイフで楽しそうに切り開いているのを見て任せることにしたのだった。

 ノークは、ミーナにはこう言っていた。


「危ないから下がっていろ」


 と、すっかりお兄ちゃん気取りである。ミーナはコクリと頷くと、皆と同じく後ろに下がり、相沢の服を掴んで隠れるようについてくるのだった。


 そのようにして、五人は草木をよけつつ、足元に横たわる丸太を乗り越え、滲む汗を拭き、進んでいくのだった。


「深い森だ」


 口を開いたのはカルダだった。


「そう、ね、どこか神聖なものすら感じるわね」


 障害物をよけながらなので、言葉が途切れ途切れになる。


「そうだな、目的さえなければ心現れるといったところか」


「ノーク君、無理しちゃだめよ、疲れたら言ってね」


 先を行くノークはもはや隊長気取りで、草を切り分けては周りを見渡し、足元を確認するのだった。


「こんな奥地だ、盗賊も入っては来ないだろう」


 その言葉に、相沢はもう黙っていた。





「人間が侵入したらしいな」


「来たか、欲にまみれた人間たち、エレメントは奪わせないぞ」


「あいつら食っていいか?」


「好きにしろ、厄災が去ればどんな方法でも構わない」


「任せておけ、人間ごとき、俺たちの餌食にしてくれる」





 不揃いな五人は、森の中を流れる清流に差し掛かっていた。

 水は本当に澄んでいて、川底までくっきりと見える。また、その流れは穏やかで、疲れた心が癒されるようだった。


 ノークは川をのぞき込み、興味津々に眺めている。ミーナと連れ立って眺めるその姿はほんとにかわいいと思えるのだった。


「少し休もう。もう日も暮れる、今日はこの辺で野宿だな」


 まだ空は青かったけど、山の夜は危険だというカルダの意見で、そこに陣を張ることにした。

 五人は思い思いに川で汗を流し、木の陰で安らいだ。


 そして、各々自由時間を取ることになったのだけど、ノークとミーナは川で遊び、

 相沢は、少し汗を流してくると言って、どこかへ行ってしまう。


「あまり遠くへ行くなよ」


「分かってる」





 相沢は、少し深く、流れの穏やかな場所を見つけると、身に着けていた衣服を脱ぎ、

 それは汗でぐっしょりとしていたため、適当な石を見つけるとその上に広げ簡単に乾かすのだった。


 下着姿になった相沢だったけど、下着もやはり汗で濡れ、何かしら恥ずかしさがこみ上げてくる。

 それも手早く脱ぐと、水の中へと身を投じる。


 水は冷たく、心地よく、熱せられた体を冷ましてくれる。しばらく泳いだり、手ごろな石を見つけてはそのに寄りかかり川の流れを楽しむ。


 すると、ガサッとどこかで音がし、とっさ振り向くもそこには何の姿もなく、静かな森が広がっているだけだった。

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