第38話


「ここは、この世界を支えるエレメントの動向を監視する部屋

 今そのエレメントがバランスを崩し始めている」


 そう言うと神父は一つの小さいほうの魔法陣を指さす。


「見たまえ、これは火のエレメントの法陣なのだが、輝きが薄れ始めている

 原因はわからぬが……」


 神父はそこまで言って、言葉を区切った。

 そしてまたゆっくりと話し出す。


「呪術について少し説明しておこう

 呪術は、この世界のエレメントの力を借りることによって発動することができる

 その力を利用することで様々な効果をもたらすことができるのだが

 それはすなわち、平たく言えば、エレメントを削ることを意味する

 使用し続ければ、世界のバランスは崩れる」


「ウサギの言っていたバランスってこのことなのね

 それで、人々の心が荒みだした」


 相沢と隼人はウサギの話と、最初にあった夫婦つまりはノークの夫婦の話を思い出していた。


「それだけではない。

 自然のバランスは崩れ、世の中は混乱の渦に陥るだろう」


「神父さん、それを食い止めるには」


「鶏が先か、卵が先か

 元を経てばむろんエレメントの消費は止まるのだが、

 今やエレメントはかなり弱っている

 エレメントの回復が先やもしれぬ」


「そのエレメントの回復をするにはどうすれば」


 今度はカルダが質問する番だった。


「それは、

 各地にエレメントを司る法陣が祭られている

 そのエレメントに法陣を注げばいいのだが」


「そうだ、いいものがある」


 そう言うと、神父はいったん部屋を出たのち、しばらくしてまた戻ってきた。


「これはエレメントの力を封じ込めたもの

 これを使えばあるいは」


 そう言うと、神父は相沢に、金属の筒に、木製の取っ手がつけられたものを手渡すのだった。

 それは実に簡素で、取っ手に装飾がある以外はシンプルなものだった。


「それを手に持ち、念ずることでエレメントが放出される

 それもまたエレメントを消費する、悪用しないように」


 それを聞き、相沢は深く頷いた。


「まずは南西へ向かい、木のエレメントを何とかしてほしい

 森の奥地へと趣き、法陣に打ち込むことで、その力は安定するだろう

 くれぐれも注意するように

 頼んだぞ」





 隼人たちが教会を出ると、辺りはすっかり茜色に染まり、

 街は静まり返っていた。


「今日はもう無理だな、どこかで宿を取ろう」


 カルダの提案に皆は頷いた。


「エレメントのガン

 エレガン

 元のエレメントと合わせて

 エレガント!だな」


 そうはしゃぎだすのはノーク、それを聞いた相沢は急にそれを手に持つことが恥ずかしくなり

 口を歪めて苦笑いするのだった。


「持ってる人はエレガントじゃないけどな」


「ったく一言多いのよ」

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