第31話


「外傷はほとんどありませんが、栄養失調と、あと、心の傷ですね

 栄養失調の方はどうにかしますが、心の傷の方はね……」


 そう医師は皆に告げるのだった。

 それに対して、皆黙り込むことしかできなかった。

 近くをたまたま通りかかり、騒がしいから覗いてみたら、その子が裁断機にかけられそうになっているのを見かけたのだった。


「栄養失調だけでも、お願いします」


 相沢はそう言うと深々と頭を下げた。

 そして、相沢たちは顔を見合わせた。

 というのも、助けたはいいものの、心に傷を負ってほとんど話せない状態で

 加えて、身寄りも分からないのだった。


「一緒に行動しながら、探す、か」


 カルダは、やれやれというように、そう口にだず。


「それしかないわね」


 相沢も、考えながらもうなずくしかなかった。


「ったく、それより俺の財布事情も考えてくれよな」


 そう嘆くのはカルダ、それに対して、すかさず相沢は反論する。


「あら、賊の財布があなたの財布事情なのかしら?」


 カルダは、その言葉に、冷や汗を流す。


「てめ、見てたのか」


「もうばっちり

 戦いながら、引き抜くって

 ほんっと、手癖悪いわね」


「癖みたいなもんだ

 そのおかげでこうして医者にも来ることができたんだ

 感謝してほしいくらいだ」


「感謝してないないなんて言ってないじゃない」


「お前は一言多いんだよ」


「お前って……」


「二人とも子供みたいだぞ」


 そう子供のノークに言われ、二人ははっとなり、黙り込むのだった。

 隼人はというと、相変わらず、何も語らず、建物内を見渡してるようだった。

 そんな姿を見て、相沢は首を横に振るのだった。





「この子名前も教えてくれないの」


 無理もない、もともとの精神状態で、あんなことがあった後なのだから。

 四人はその女の子を受け取ると、建物を後にするのだった。


「名前も分からないって困ったわね」


 するとノークが得意げそうに前に出て、こういう。


「こうするんだ」


「おい、お前の名前はなんだ

 僕に教えろ」


 そんなことで、とそう肩を落とすのをよそに、ミーナはゆっくりと口を開くのだった。


「ミー、ナ」


「ミーナ、ミーナっていうのか、よろしくな」


 ノークはよほどうれしかったのか、満面の笑みを浮かべミーナの手を握り、ブンブンと振るうのだった。

 相沢と、カルダはまさかという顔をして、顔を見合わせるのだった。


「ミーナ、私は相沢優香、こっちは桐原隼人君、こっちはカルダさんで、その子はノーク君よ

 よろしくね」


 それを聞き、ミーナはコクリと頷き反応を見せてくれ、その姿を見て、相沢はほっと胸を撫でおろのだった。


「隼人君は、普段無口だけど、頼りがいあるのよ

 カルダさんは、手癖は悪いけど、根はいい人

 ノーク君は、お子様ね

 ミーナちゃんと合うかもしれないわね」


 そう簡単に、相沢に自己紹介され、皆の顔は少し複雑だった――――





 隼人よ、大変なのはこれからだな

 様々な意味でな――――


 ~ 第三章 Fin. ~

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