第27話


 朝の新鮮な空気の中を隼人たちは、雑貨屋へと向かう。

 まだ街も眠っているようで、人影もまばらなら、お店もまだ開いてはいなかった。


 雑貨屋は相変わらず、暗闇へといざなうようにぽっかりと口を開け、

 そこにたたずんでいた。


 こんな早くにお邪魔するのもと、やや躊躇はしたものの、他に行くところもないため、

 覗くだけとの気持ちで中へと入っていくのだった。


 中はやはり薄暗く、冷えた空気が一層その空間の怪しさを演出しているように思えた。


 そして、店の奥には、ポツンと丸椅子が置かれ、やはりというかそこに老婆の姿はなかった。


 あきらめ、帰ろうと振り向くと、カルダが後ろを指さし、口を開くのだった。


「あの壁」


 もう一度振り向き、壁をよく見てみると、そこはわずかにずれており、隙間が空いているように見えた。

 壁の向こうに何かあるのだろうか、カルダはその壁に触れるように言う。


 言われた通り、触れてみると、壁はギィと音を立てて開き、そこには薄暗い階段が続いていた。

 その奥に進むのはためらわれたのだけど、カルダの、ここにいても仕方ないだろ、という意見から

 奥に進むことに。


 暗くて分からなかったけれど、その階段は案外に短く、階段の先には壁があるだけだった。

 そして、再び、カルダに壁を押すよう促され、押してみると、わずかな光が漏れ

 人の気配が感じられるのだった。


「おや、ペルソナの子、来たのかい」


 そこには、件の老婆の姿があり、少し安心するのだった。


「また何か困ったことでもあるのかい?」


 その問いに対して、相沢が答える。


「あの、呪術について何かご存じゃないかと思いまして」


 そして、老婆はゆっくりと話し始める。


「また随分と大所帯になったものね

 呪術、ね……

 本来ならしらを切るつもりだったのだけど、ここを見られたんじゃ仕方ないわ」


 そう勿体つけて老婆は話し始めるのだった。


「呪術は本来禁忌とされているの

 だからわしは、こうしてこっそり店の奥でやってるじゃ

 だけど、危険なものではない

 わしの呪術は他にヒーリング効果をもたらすもの

 傷や病には効果的じゃ」


 老婆はそう言って、部屋の中央に描かれた魔法陣のようなものを指さすのだった。


「最も、ペルソナの子のそれは治せんがな

 かっかっか」


 老婆は隼人を見て、おかしそうに笑うのだった。


「その呪術を私たち以外の人間が求めてやってきたと聞きますが、それもご存知ですか?」


「それはわしも噂に聞いた程度じゃ

 その男の顔は青ざめ、死に物狂いになって呪術を求めてたと聞く

 その男は西の方へ向かったときくが、わしが聞いたのはその程度じゃ」


 老婆は、考え込むように顎髭を擦り、そう教えてくれた。


「ありがとう、おばあさん」


「なに、また何かあれば来るといい」


 そう言って、隼人たち四人は部屋を出ていこうとする。

 その姿を老婆は、目で追い、思い出したかのように口を開く。


「娘さん。ちょっとこちらへ」


 老婆は、相沢を呼び寄せると、声を潜めて、相沢にだけ聞こえるように話し出す。


「おぬしは、ペルソナの子が心配か

 わしの呪術では効果はないが、手段が全くないというわけではない

 ペルソナの子を救うには」


「あの子が地に落ちた時じゃ

 その時に手を差し伸べるといい

 おぬしらに幸あらんことを」


 相沢は、すべてを理解できたわけではなかったけど、深く頷くと、老婆にお礼を言ってその部屋を後にするのだった。

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