第26話


 起床した隼人たち四人はひとしきり支度を終えると

 女将に一言挨拶をして、出かけようとしていた。


「お世話になりました。

 お料理も温泉もよかったです

 ありがとうございました」


 そう丁寧に挨拶するのはやはり、相沢だった。そしてさすがというか、こう付け加えるのだった。


「あの、呪術に詳しい方ってどこかにいらっしゃいますか?」


 女将はやや考えたのち、口を開く。


「呪術ねぇ、雑貨屋のおばあさんならもしかしたら」


 今度は相沢が考える番だった。


「雑貨屋の……あのおばあさんね」


「あら知ってるのかい?

 なら話が早いわね。行ってみるといいわ」


「はい、ありがとうございました」


 そう言うと、靴を履きのれんをくぐるのだった。

 のれんになびく相沢の髪からは、お風呂に入ったためか、甘いいい香りがしていた。


 外はまだ朝の冷たい空気が流れ、街ゆく人々もまばらだった。

 そんな中を、アンバランスともいえる四人は歩き出すのだった。




 ミーナは目を覚ますも、それが朝なのか夜なのか皆目分からなかった。

 目を覚ましても、何もすることはなかった。

 辺りを見渡しても、真っ暗闇で何かをしようにもできなかったのだ。


 仕方なく、元居た場所に寝ころび、考えを巡らす。

 だけど、何も浮かんでは来なかった、もはやなぜ怒られてたのかすら思い出すことはできなかった。


 ほどなくし、ガタガタと扉の開く音がする、同時に光が差し込み

 眩しかった、そう、ただ眩しかった。


 そこには母の姿があり、ミーナに手渡たされたそれは、皿の上にべちゃりとしたものが乗せられており

 まるで、動物の餌のようでもあった。


 そして、母のようなものの後ろから、父のようなものの声が聞こえた気がした。


 ミーナにはすべてに膜がかかっているようだった。

 味覚も聴覚も視覚も触覚も全てが鈍くなっているように思えた。


 ミーナの母は再婚していた。若い男性と。

 ミーナは母の方の連れ子だった。


 それ以来だった、ミーナは事あるたびに、叱咤され叩かれるようになったのは。

 ミーナにはその原因になることに覚えはもはやなかったのだけど、

 あえて思い出すとすれば、父が靴を買ってきてくれたのはいいのだけど、

 足の大きさが違い、ミーナの足にはぶかぶかだった。


 ミーナはそのことをただ一言言っただけだった。

 その時の母の顔は忘れることができない、ミーナをまっすぐと睨みつけたその顔が。


 母はミーナに、なんて贅沢なこと言う子なのといって叱られ、叩かれたのだった。

 その後も、父が戻ってくると、ミーナはほっと胸を撫でおろすのもつかの間、

 二人に居間に呼ばれ、二人から怒鳴られ、叩かれるのだった。


 ミーナにはもう何のことなのか分からなかった、私が悪い、きっとそうなんだ

 そんな思いがミーナを埋め尽くしていった。


 私は悪い子なんだと、いつしかミーナは自分でそう思い込むようになっていた。

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