第26話
起床した隼人たち四人はひとしきり支度を終えると
女将に一言挨拶をして、出かけようとしていた。
「お世話になりました。
お料理も温泉もよかったです
ありがとうございました」
そう丁寧に挨拶するのはやはり、相沢だった。そしてさすがというか、こう付け加えるのだった。
「あの、呪術に詳しい方ってどこかにいらっしゃいますか?」
女将はやや考えたのち、口を開く。
「呪術ねぇ、雑貨屋のおばあさんならもしかしたら」
今度は相沢が考える番だった。
「雑貨屋の……あのおばあさんね」
「あら知ってるのかい?
なら話が早いわね。行ってみるといいわ」
「はい、ありがとうございました」
そう言うと、靴を履きのれんをくぐるのだった。
のれんになびく相沢の髪からは、お風呂に入ったためか、甘いいい香りがしていた。
外はまだ朝の冷たい空気が流れ、街ゆく人々もまばらだった。
そんな中を、アンバランスともいえる四人は歩き出すのだった。
◇
ミーナは目を覚ますも、それが朝なのか夜なのか皆目分からなかった。
目を覚ましても、何もすることはなかった。
辺りを見渡しても、真っ暗闇で何かをしようにもできなかったのだ。
仕方なく、元居た場所に寝ころび、考えを巡らす。
だけど、何も浮かんでは来なかった、もはやなぜ怒られてたのかすら思い出すことはできなかった。
ほどなくし、ガタガタと扉の開く音がする、同時に光が差し込み
眩しかった、そう、ただ眩しかった。
そこには母の姿があり、ミーナに手渡たされたそれは、皿の上にべちゃりとしたものが乗せられており
まるで、動物の餌のようでもあった。
そして、母のようなものの後ろから、父のようなものの声が聞こえた気がした。
ミーナにはすべてに膜がかかっているようだった。
味覚も聴覚も視覚も触覚も全てが鈍くなっているように思えた。
ミーナの母は再婚していた。若い男性と。
ミーナは母の方の連れ子だった。
それ以来だった、ミーナは事あるたびに、叱咤され叩かれるようになったのは。
ミーナにはその原因になることに覚えはもはやなかったのだけど、
あえて思い出すとすれば、父が靴を買ってきてくれたのはいいのだけど、
足の大きさが違い、ミーナの足にはぶかぶかだった。
ミーナはそのことをただ一言言っただけだった。
その時の母の顔は忘れることができない、ミーナをまっすぐと睨みつけたその顔が。
母はミーナに、なんて贅沢なこと言う子なのといって叱られ、叩かれたのだった。
その後も、父が戻ってくると、ミーナはほっと胸を撫でおろすのもつかの間、
二人に居間に呼ばれ、二人から怒鳴られ、叩かれるのだった。
ミーナにはもう何のことなのか分からなかった、私が悪い、きっとそうなんだ
そんな思いがミーナを埋め尽くしていった。
私は悪い子なんだと、いつしかミーナは自分でそう思い込むようになっていた。
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