第18話


 カルダは今日も街に来ていた。

 その日は仕事というわけではなく、余暇を楽しみに来たのだった。


 街を抜け、人ごみを抜け、いつもの酒屋へ。

 僅かな照明の薄暗い店内では、すでに何人かが酒を片手に談笑している。

 それは、日ごろのもやもやを晴らすかのように、その時ばかりははしゃいでいるのかもしれなかった。


 カルダは一人カウンターに腰掛け、酒を注文する。

 その時の格好は、いつもの覆面はしておらず、顔は露出し、茶色のロングコートを身にまとっていた。


「金回りがいいみたいだな」


 支払いのいいカルダに、マスターは皮肉っぽく言う。


「金は天下の周り物ってな」


 それに対して、カルダは少しめんどくさそうに答えるのだった。


「お前のところには回りすぎだ。

 少しは俺にも回してくれ」


「こうして回してるだろ。酒を右から左に流すだけで儲けてるんだから、満足するんだな」


「言ってくれるな

 これでも、揉め事やら、酔っぱらいやらで大変なんだぞ

 ブドウが入らなければ、仕入れ値も上がるし

 雨が降れば客足も遠のく

 どこが気楽なものか」


「気楽なんて言ってないさ。最も俺は酒が飲めればそれでいい」


 カルダはめんどくさそうに、そう言い放ち、酒に口をつける。


「お気楽はてめーの方だ」


「ちげぇねぇ

 隣の芝は青く見えるってもんだぜ

 酒が渋くなっちまった」


 カルダはよく考えもせず、そう話し、ぐびと飲み干すとコインを投げて店を後にする。


 頭が少しふわふわし、丁度良いいわゆるほろ酔い状態だった。

 気分は心地よく、頭の中も考え事のない、無心状態で、こんな状態がいつまでも続けばと

 そう思えるのだった。


 少しフラフラとしながら外の心地よい風に当たろうと外に出ると、何だか外が騒がしい。

 その音は徐々に大きくなり、馬の蹄の音や、甲高い鳴き声が辺りに響く。


「侯爵、様様か」


 それはカルダにとってはただただ煩わしく、そればかりか忌み忌みしくも思っていた。





 それよりしばらく前。

 その男も同じくいつものように酒場に来ていた。

 だけど、その男はカルダとは少し違い、毎日飲んだくれては、酒屋のマスターに当たっていた。


「酒をくれ、金はある」


「呑みすぎだ、少しは控えたらどうだ

 もうだめだ、おしまいだ」


「金払ってるのに、酒だせねぇたぁどういうことだ?」


「ああ、ダメだダメだ、酒は品切れだ」


 男は渋々とあきらめると、だらだらと店を出ていった。

 そして、その男はどこへ行くかと思えば、華やかに飾り付けられた遊郭へと消えていくのだった。


 彼の名は、アムル。

 少し彼の生きる道を覗いてみよう。

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