第10話
お皿の上には、魚のムニエルに、茹でられた温野菜が添えられ、
隼人たちの前に並べられた。
それはご夫人さんが先ほど用意してくれたものだった。
「どうぞ召し上がれ」
夫人はやはり甲高い声で言うと、夫婦と隼人たち4人の食事会が始まる。
食事が始まって間もなく経った頃だろうか、
そこへ誰か帰ってきたようで、玄関でコトコトと音がする。
「ただいま」
「あらおかえりノーク」
「ノーク、お客さんが来てるから、おとなしくしてなさい」
帰ってきたノークはまるで苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
相沢はそのことが気になって仕方なかったけど、目の前の2人に何かをする様子はなかった。
2人はノークを気遣うことなくこちらに向き直る。
「また、お見苦しいところを見せてごめんなさい」
「あの、ノーク君は……」
相沢が何かを言おうとしたところで言葉は遮られる。
それは全くノークのことを気にしていないようだった。
「いいのよあの子は」
そのあとの食事はというと、会話もそれなりにあり、お料理もよかったのだけど、
何というか、味がなかった。
それは、ノークのあの表情がずっと引っかかってたからかもしれない。
声をかけてほしそうな顔をしてたけど、目の前の2人は結局それをすることはなかった。
◇
「ここが客間だ、今日はほんとに助かった
ゆっくりして行ってくれ」
そう言うと、男は扉を閉め、階下へと降りていく音が聞こえる。
質素な木製の部屋には天窓があり、星々が競い合うように輝いていた。
それは、誰もが皆一様に奇麗なのに、自分が一番だと主張しているようにも見える。
「もう寝るね」
隼人は部屋に着くなりそそくさと、ベッドに行こうとする。
隼人は本当に疲れていた、それは、慣れない土地に来たからかもしれなかったし、
何より、ペルソナを使ったせいかもしれなかった。
「あ、待って、聞きたいこといっぱい」
相沢は、隼人の背中を引き留めるように急いで声をかけるけど、
隼人はというと相変わらず、背中を向けたままで
そんな姿を、相沢はいじらしく思う。
「隼人君、あの時性格ちょっと違ってたよね。
それってペルソナと関係あるのかな?」
それは相沢にとってはちょっとした違和感でしかなかったけど、
そのことが一日中気になっていたのだった。
「多分……分からない……」
結局隼人の口からは歯切れの悪い言葉しか返ってこなかった。
「疲れたから寝るね」
「もう……」
そして、相沢を一人取り残し、隼人は寝息を立てるのだった――――
◇
隼人が眠っても、相沢はまだ眠れず、ベッドに腰掛けていた。
ペルソナ……か。
隼人君性格変わってたよね、私にもできるかな?
お化粧するみたいなものよね、きっと。
せっかくなるなら清楚な感じがいいかな?
「ペル、ソナ」
その言葉を唱えてみると相沢の頭に、心に、いつもと違う感覚が走る。
試しに声を発してみることにする。
「ごきげんよう」
声に出してみたものの、何かしっくりこない
(そうね、もうちょっとボーイッシュな感じで)
「ペルソナ」
「やあ、隼人、元気ないじゃないか」
やはり、これも相沢にとっては何かが違った。
(やっぱりかわいらしいのが一番よね)
「ペルソナ!」
そう唱えた時だった、後ろから物音がし、今、このタイミングで聞きたくなかった声が聞こえる。
「相沢さん、どうしたの?」
その声を聴いた相沢は急に顔が熱くなって、とっさに頭が真っ白になった。
「は、はやとくん、ぼく、ど、どうも、してないぉ?」
とても自分の口から出たとは思えない声が出て、
もう、顔から火を噴きだしそうなほど恥ずかしい。
(どうしてあたしあんなこと言ってんだろ)
「変な相沢さん」
そう言うと隼人はまた眠りについた。
相沢は恥ずかしくて、まだ心臓がバクバクしていた。
私は私のままでいい、そう思う相沢だった――――
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