第3話:魔法・水の剣刃

 ここ、エラルド街道の川のほとりで大柄な背を丸く屈めながら、イプストリア王国騎士団遊撃分隊長エルヴィン=アーネストは、目の前の光景にどうしたものかと首を捻っていた。たった今彼を含む分隊以下五名は、凶悪な賞金モンスターであるリガルド討伐の勅命を王国より受け、討伐に馳せ参じたわけである。そして過去リガルドが出没したという地域を調べ、街道にそって警備をしている最中であった。

 目の前に見えるのは巨大羆リガルドの死体と、血に塗れた人の衣服、そして焚き火にくべられた大きな鍋である。おまけにその鍋の中にはグツグツと肉が煮込まれているのだ。その肉が何の肉かは言わずもがなである。


「……兄さ、隊長、これ、たぶんリガルドですよね? ……信じられませんけど」


 分隊副隊長のクレア=アーネストは、屈み込む隊長の横から手配書を片手に覗き込んだ。ちなみに隊長と呼び変えたのは途中でエルヴィンが振り返り、クレアを睨んだからである。


「大きさも合っていますし、毛皮の色、それに左手の真っ赤な爪。全部一致してますね」


 確かに手配書通りのリガルドの姿である。――討伐完了。事件解決。めでたしめでたしといきたいところであったが、当然そのような事がある訳がなかった。それで落着していたら騎士団やギルドは要らないのである。リガルドの脅威は立った今無くなった。だがしかし、それ以上の脅威が出現したかも知れないのだ。


「……やれやれ、数ヶ月滞留していたギルド案件だぞ。いきなり凄腕の冒険者が現れてはい片付けましたってのも都合が良すぎるだろ」


 そう呟いてエルヴィンは改めてリガルドの死体をゆっくりと見回す。やっかいなことになったと、小さく口に出す。


 リガルドの不自然な死体。

 そう、この死体の不自然さについて気づいているのはエルヴィンだけであった。

 それは、不自然なほど、綺麗な死体。


 リガルドの死体には、食するために内臓の除去や血抜きのための刃傷が伺える。しかし、よく見てみるとそれ以外の傷が全く無いのである。槍で突いた傷、剣で斬りつけた傷、矢が突き刺さった傷、それらの存在が皆無であった。そして、リガルドの潰された両の目。武器を使わず、この何者かは如何にしてリガルドの眼を潰したのか。


「……魔法士、それならば」


 そう、それは想像の範囲内である。今回、リガルド討伐において最も大きな難関はリガルドの知能であった。大人数の前には決して現れず、罠にはかからず。かの熊はこの半年間討伐隊をあざ笑うかのように人を襲ってきたのだ。それを受けて、今回の少人数の編成も討伐可能なギリギリの人数で組まれている。

 しかし少人数でもエルヴィンたちは討伐失敗の可能性は皆無と考えていた。それは魔法士の存在である。個にして圧倒的な殺傷能力を持つ人間、それが魔法士である。その戦力は一人にして一個中隊と拮抗する。故に魔法士を有する彼の小隊は今回の討伐隊の主役であった。しかし、エルヴィンは疑念を捨て切れない。リガルドの死体の横に脱ぎ捨てられていた血濡れの衣服を拾い上げる。鋭い爪の様なもので引き裂かれたと思われる切っ先傷。これも不自然である。

 いったい長い詠唱を必要とする魔法士が、リガルドの爪が届く間合いで何をやっていたのいうのだ。


(もし、魔法士で無いとしたら)


 そう考えた時、エルヴィンの背筋になんとも言えない感情が走るのであった。


「しっかし、美味そうな匂いッスね~」

「腹も減ったし、頂いちまおうか」


 そんなエルヴィンの意識を現実に戻したのは、鍋を覗き込むのは同分隊の騎士たちであった。 彼らは振り返ったエルヴィンの形相を見るなり、直立する。


「お前らは街道を探せ、食事の支度をしてるぐらいだから、瀕死ってことも無いだろう。しかしこの出血だ。どこかで倒れてるかもしれん」


「「「はっ」」」


 分隊の3人は威勢よく敬礼し、そそくさと騎乗しそれぞれの方向へと散るのであった。そしてエルヴィンはクレアに振り返る。自分が森の中に入るので、クレアにこの場で待機を命じようと口を開こうとしたところである、


「私は兄様と一緒がいいです、んふ」


 と、クレアがエルヴィンの発言を遮った。せっかく二人きりになったのですから、と付け加えて人差し指をコネコネしながら自分を見上げる妹に、エルヴィンは大きなため息をつく。幼い頃から兄であるエルヴィンにべったりであったクレアだが、思春期を境に兄離れをすると思いきや拍車がかかってしまっていた。早くに父親を亡くしたためか、年の離れた兄妹ということが影響してか、クレアは異常にエルヴィンに懐いてしまっている。

 彼はこのイプストリア王国と関係がある公国の出身であるのだが、別国の騎士団に入れば流石に追ってはこれまいと思っていたのが運の尽き、この一途な妹は魔法という才能を開花させ、今年始めに恋する乙女十八歳(ブラコン)としてめでたく再びエルヴィンの前に現れたのだ。


「……クレア」


 そう言ってエルヴィンはクレアの金色の髪をかきあげ、頭にぽんと手を載せた。じっと見つめる妹のまなざしに多少照れながらエルヴィンはまじまじと話しかける。まあ美人にそだったなぁと内心思っているあたり、この男もシスコンの気があることは間違いない。


「森の中は視界が狭い、詠唱が必要なお前は危険だ。わかるだろ?」


 お前が大事だから残すんだと、エルヴィンはクレアの目を見て説得を続けた。クレアの説得にかけること十数分。エルヴィン=アーネストもそこそこの妹バカであった。

 さて、そのような理由で騎士団員が街道へ探索へ出かけ、エルヴィンが森へ入り、リガルドの死体とぐつぐつと煮える鍋の傍らでクレアは一人待機することになったのである。森とは街道を挟んでいるので距離はあり、街道自体はまっすぐ視界が開けている。後方は緩やかに流れる川があり、悠々とした水流が周囲の穏やかさを物語っていた。そう、この街道を脅かしていた怪物も、王都へ急ぐ騒がしい馬車もいない今、この街道は大変のどかな環境であるのだ。


「それにしてもいい匂い……」


 赤茶色と見た目は良くないが、そそる匂いが立ち上っている鍋を見て、クレアはしゃがみ込こむ。ぐつぐつと煮立つ鍋が放つ強力な攻撃力は、王都から馬を数時間飛ばしてきた彼女にとって大変魅力的なものだったのだ。クレアはきょろきょろと周囲を改めて確認。誰もいないことだし、ちょっとぐらいはいいかしら、と沸き立つ香りに向かって手を伸ばした時、川の水面がずずっと盛り上がる。思わず息を飲むクレア。

 そして、平和な水面に突如ざばんと湧き出た黒い塊はクレアにどう映ったか。まるで水中に潜む主の登場を思い起こさせる。その黒い塊の正体は普段縛っていた髪の毛を解いた状態の丈之助である。奇しくも丈之助の肩ほどまである黒髪は、水をたっぷりと纏って面妖な雰囲気を演出していた。

 ざぱん、と水音を立てて背を伸ばした丈之助の姿は筋骨隆々のざんばら総髪。そして丈之助はクレアの存在を差して気にするまでもなく、両の手に捕まえた魚をぽいぽいと放り投げ、よっこらしょと岸へと上がる。びっちびっちと肴が跳ねるのをよそに、褌を片手にパンパンと体の水を切る丈之助の姿は、もちろん全裸である。


「あ……、え……ちょっ」


 そんな丈之助がしゃがんだクレアに気づいたのは、髪を後ろにまとめ直し、搾り出すような彼女の声がする方向を向いた時である。しかし、丈之助が声の方向を見ても誰もおらず、ふと彼が下をみやると、そこには丈之助の股間と世紀の対面を果たした金髪の少女が存在した。世界を超えた最初の出会いはこうして果たされた。こんにちは異文化。ごきげんよう異なる世界。これが日の本の国が誇る男の第三の足である。そして丈之助はクレアの見慣れぬ金の髪色と顔立ちを確認すると


「なんじゃ、見慣れぬ土地だと思うたが、俺は伴天連の国まで歩いてきてしもうたか」


 正確には全く異なる世界ではあるのだが、そんなことは露知らず、はっはっは、と豪快に笑い出し、クレアを横目に褌を体にパン、と叩きつけ、体の水気を切り続ける丈之助。


「……い、いや」


 幸か不幸か、細く搾り出されるクレアの声は丈之助には届かない。


「しかし、お前さんの様な娘子がここらで一人とは危険よの、見ての通り熊公がでる――」


 と、再び丈之助がクレアへ振り返った時だ、ぶるん、と音がしたかもしれない。


「いやぁあああああああああああああああああああ!!」


 うら若き乙女には過ぎたる刺激である。パニックになるのも無理は無い。そこには、悲鳴を上げながら上段から剣を振り上げ丈之助に斬りかかるクレアがいた。だが、奇しくも体に染みついた剣撃の型は正確である。クレアは若干十八歳とはいえ、イプストリア騎士団の一員である。魔法士として入団を許されたものの、彼女は剣を使えないわけではない。騎士団標準のバスタードソードは振り回せないものの、ショートソードの扱いはそれなりの腕前だ。劣った装備でも正規隊員と認められているのはまた別の要素があるのだが。

 ショートソードの軌道は右上段から左中段へ、頸動脈から脇腹の内臓を狙ったえげつない一撃である。首は少しでも血管を跳ねれば致命傷になるし、腹だって割けてしまえばそれで終わりだ。だがこの動作には続きがある。斜めの無でるような一撃の後、切り返しの踏み込み突きで腹を狙うのだ。彼女の足の裁きがそう言っている。リーチが短いゆえに、ショートソードの素早い横方向の斬撃に、後ろへ距離を取ろうとする相手に対して、予測を超える速度での刺突は効果的であろう。騎士団での模擬試合でもなんども彼女は男相手にこの型を決めてみせている。だかしかし、それはあくまでも対長剣、盾鎧装備の騎士団内の話であり。


 ぱんっ


 不意に破裂音が周囲に響く。クレアが切り下げるその腕は突如上から荷重が加えられ、切り返すはずの剣はそのまま地に刺さる。次いでぎり、と手首に締まるような痛みを感じ、クレアは思わず剣を取り落とした。それは布による縛法。水気を帯びた布による打撃と拘束は布自体の何倍の重さと強度が発生する。丈之助が鞭のようにいなした布はクレアの手首を搦め捕り、関節を固定し、容易に彼女の剣撃方向をねじ曲げる。見たことも無い技術にクレアは目の前の男と自分に対してとても大きな実力差を肌で感じてしまう。


 だが、重要なことはそんなことではなかった。


 呆然とする彼女の前で、その布が丈之助の下半身に巻き付けられる。そう、彼女が自らの腕を叩いた物が、今は彼の股間を巻く布として使用されているという事実。いや、元々はその布は下半身に巻かれていたものであり、それが今元有るべき所にもどったのだと、彼女が理解するまで、そうそう時間がかかるはずない。丈之助がぱぱんと己の尻を叩き、尻の割れ目にそって布が引き絞られている現実と自分の手に何が巻かれてしまったのかという事実が結びついてしまう。

 その思考がクレアに残った最後の理性を破壊する。いくら驚いたといえど、旅の冒険者に突然斬りかかった無礼などなんのその、


「ふむ、娘子にしては良い太刀筋、異国まで来てはしもうたが、これからが中々楽しそうじゃ」


 とかなんとか呟いている丈之助の言葉など耳にはいらないだろう。


「兄様、私は汚されてしまいました……」


 とり落とされた剣を拾い。クレアは呟く。哀しみに暮れる彼女の心の裡で乙女の魂が叫び出す。さあ立ち上がれ、我が敵は乙女の敵。穢を知らぬこの眼を辱めた挙句、不浄の布にて手までも犯されたこの怒りの捌け口は目前の敵を屠ってこそ癒される。いや、それだけでは生ぬるい。完膚なきまでに目の前の男を叩きのめし、川へと流し、


「そう、いっそ全てを無かったことに!!」


 と、とても理不尽にクレアは叫んだ。同時にクレアを中心に展開する魔方陣。ショートソードを片手に詠唱開始。そう彼女が正規隊員と認められている理由。それはこの世界で数百人に一人いるかどうかである、魔法士としての才能であった。


「水よ」


 詠唱が進むほど集積する魔法力。


「大いなるイプスよ――」


クレアを中心に風が逆巻く。


「その力、流れる刃よ――」


 丈之助は動かない、彼は魔法というものを未だ知らないのだから。


「クレア=アーネストの名のもとに――」


 詠唱が完了する。


「水の剣刃(ウォルタ・ブレイズ)!!」


 それは実に美しい光景であった。空間から流れ出る幾つもの水流がクレアの周囲に収束。それらは水の刃となり彼女の周囲に浮遊する。日差しに反射し煌く姿が、頭髪の色も相まって神々しさを増していた。その神聖さに魔法を知らない丈之助が戦闘態勢を取らず見とれていたのは、無理も無い事かもしれない。人間は未知のものに対してそうそうに反応できる者はそうはいない。更に彼女が手にしたショートソードにも変化が起こる。刃の周囲にも水流が展開し、固定化。見ればもはや手にしているのはショートソードではなく、刃渡り数メートルの長剣である。


「うふふ、ふふふふふ」


 そしてクレアは丈之助に見せつけるように、その剣をまるで重さを感じさせずに一振りする。川の周囲の雑草が、揺らめくでもなくバッサリと切断されたのである。その事実を目の当たりにして丈之助はようやく自分が後手に回ってしまったことを悟ったの。丈之助は運がいい、もし相手が凶悪な殺意をもった魔法士であったならば、今の一振りでその首がすっとんでいた筈なのだから。

 自分は、相手の殺傷範囲の真っ只中にいる。そう判断した丈之助の判断は素早かった。その場を飛び退き、弾かれたように後退、そして息つく間もなく十数本の水の刃が丈之助がいた場所へと突き刺さる。離れた間合いで地面に突き刺さった水の刃越しに、丈之助は苦々しく彼女の姿を見た。


「なんじゃこれは、妖術のたぐいか」

「逃がさないですよ?」


 その言葉と共に、クレアの周囲に展開していた水の刃が丈之助を取り囲む。丈之助の逃げ場を奪ったことを確認してクレアは構えた、それは先に彼にいなされた上段の構えである。これはクレアが丈之助に宛てた無言のメッセージ。今度こそ、凌げるものなら凌いでみろと。ショートソードと変わらぬ速さで振り下ろされる数メートルの水の剣に、それを躱した後に来るのは突きではなく、中空に漂う無数の刃だ。

 そして、それを理解した丈之助は笑う。か弱い娘と思うたが中々どうして武士(もののふ)よと。世の中は広い。こうして武を通して意思の交換ができる武人との出会いは、丈之助にとってまさに僥倖である。――山を降りてよかった。命が尽きるかもしれないこの瞬間。丈之助は改めてそう思えた。

 しかし、丈之助にとって此度の出会いは素晴らしいものであったのだが、勝ち負けは別問題である。若き異人の娘、荒削りながらも今丈之助を追い込んでいる事実。様々な思いが丈之助の胸の内に反芻する。そして丈之助が最後に出した結論は、やはり己の命であった。この娘には才能があり、未来もある。理解出来ない面妖な術などもあり、年を重ねれば自分など足元にも及ばない力を身につけるかもしれない。しかし、この場で自分にその刃を向けるのであれば――。


「仕様がないのだ、俺はそういう者じゃからのう」


 そう呟いた丈之助が纏う空気が変わる。クレアの様に丈之助に魔法のような奥の手は無い。ただ、気の持ちようを切り替えただけである。数メートルに及ぶ水の剣も、丈之助の周りに浮かぶ無数の水の刃も、全て自らに仇なす脅威と受け入れた上で、丈之助は言った。


「さて、殺したくは無いが……」


 その言葉を聞いたクレアの心境は如何ばかりか。丈之助の周囲は未だ魔法:水の剣刃(ウォルタ・ブレイズ)で囲まれている。しかし、当の丈之助の落ち着きようを見ると、単なる強がりとも思えない。


「あなた、何を言って――」


 その疑念を口にしたタイミングがクレアと丈之助の主導権が入れ替る瞬間であった。それは長く体術を修めたものだけができる動き、予備動作なしの動作移行。もっともこの初動を有効なものとさせたのは、彼の不気味な言動によるところが大きい。彼にとっては本心なのだが、結果的に彼女が丈之助の発言に気を取られ、疑念の言葉を口にした瞬間。クレアから見て丈之助が彼女視界から一気に消えたように見えたであろう。瞬きの後にクレアが捉えた光景は、一直線に森へと駆け込もうとする丈之助の姿であった。

 圧倒的優位に立っていたクレア唯一の失念は、クレアの魔法:水の剣刃が彼女の意思に対して反応する操作系魔法であったことである。いくら無数の刃があろうとも、クレアが反応できない動きには対応できない。刺せ、突けと心で思わない限り魔法の刃は動かない。つまりはその多重攻撃性による攻めは強力であるが、受けや対応に回るとめっぽう弱いのだ。

 この魔法を最大限生かすには視界確保や戦術思考の熟練が必要であろう。だがしかし、それはこれからクレアが長い年月と経験を経て補われるであろう水の剣刃の弱点。丈之助は知ってか知らずか、百戦錬磨の直感を持ってそこを的確に突いたのである。


「――させません!」


 中に浮かぶ水の剣刃ウォルタ・ブレイズの無数の刃が丈之助を背後から串刺しにすべく襲いかかる。丈之助が森の中へ飛び込むのと、クレアの水の剣刃が森の中へと突き刺さるのは同時であった。ざん、ざん、ざんと木々を貫き、地へと突き刺さる水の剣刃。その衝撃で木々がゆさゆさと大きく揺れた。


 ――失敗した、そうクレアは心の中で舌打ちをした。こうなっては彼女には丈之助を仕留めたかどうかを判断する材料は無い。しかし、自ら視界の悪い森の中へ入る愚は犯せない。ここに来てクレアは主体的に動ける選択肢を無くしてしまった。

 そして、目の前から消えてしまったターゲットに、クレアは水の剣刃を解除しないものの、静かな森の様子に相手は逃げだしたのではという、僅かばかりの疑念が浮かび上がった。



 それが命取りである。



 クレアの上空。魔法をを避けきれずも、生きながらえた丈之助。この状況での魔法の刃による攻撃は、中空に浮いているという性質から、迫り来る斬撃は当然上から下方向である。その性質を本能的に理解した丈之助は森へ飛び込むやいなや木々を伝ってまるで猿のごとき要領でクレアの上方へと躍り出た。その手の中には拳よりも二回り小さな石がある。

 みりり、と丈之助の広背筋が盛り上がり、下方のクレアを見やる。それと同時に地に映った影に気づき、中空の丈之助をクレアが視認した。彼女の水の剣刃が展開する。その切っ先は全て上空の丈之助だ。しかし、


「――おそいがの!!」


 と、丈之助がその右手を振り抜こうとしたその時である。


「やめんか馬鹿妹クレア」


 エルヴィンの槍の長柄がごん、とクレアの後頭部に振り下ろされた。

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