交流会 (4)

 ……? 今のゴルルの行動はなんだったんだ?

 なにか少し、不自然じゃなかったか?

 一見、二人の喧嘩を仲裁するためにそうしたように見えたが、今のゴルルの行動はどちらかといえばズーカイの言葉を遮ることが主たる目的のような気がした。

 ズーカイは何を言おうとした? あまりにごにょごにょ口調で早口すぎてそもそもプニカに向かって何を喋っていたのかも端から端までをハッキリとは耳に入ってなかった。よく、思い返す。

 真実を言う。そのように言っていなかったか。一体何の真実なのかは知らないし、分からない。だが、心当たりはある。

 確か、そう。惑星『フォークロック』にて、ブーゲン帝国でコイツは似たようなことを口走っていたように思う。あのときはシラフだったはずだ。

 少なくとも、今、言おうとしていたことは、酔っ払いの戯言ではなかったということになるのでは。

 なんだ、真実っていうのは。俺が一体何を知らないというのか。

 そして、これはどういうことだ。何故ゴルルはズーカイを止めた。

 それではまるで、ゴルルがその俺たちの知らない真実とやらを知っていて、なおかつ隠そうとしているみたいじゃないか。

 俺の手の中でプニカがモゴモゴ言っているが、それと同様にゴルルの腕の中でズーカイがウゴウゴとしている。よく見たら口の中にゴルルの手を突っ込まれている。

 そこまでして喋らせたくなかったのか。

「すみませんです。貴方は少々自分の立場をわきまえるです」

 ゴルルが声のトーンを落として言う。ズーカイの周囲は異様なまでにピリピリとした警戒態勢になっている。先ほどまでも銃器を突きつけられて拉致されているみたいな状況ではあったのだが、今はまるで爆弾を処理するかのような厳重さだ。

 一触即発の空気。誰かが合図一つ掛ければズーカイは消えてなくなってしまうかのように思わされるほど。どうしてだ。どうしてここまで。

 ズーカイが部外者だということは俺だって重々承知している。現在の『ノア』にとって不利益を被る可能性があることも理解しているつもりだ。

 だが、それでも、なんなんだ。危険因子を目の当たりにしているかのような、異常なまでの鋭く尖ったソレ。

「少し頭を冷やしてもらうです」

 ゴルルを始めとして、他のマシーナリーたちもズーカイの腕や足をとり、そのまま隔離するかのようにこの食堂から強制的に退去されてしまった。

 ズーカイの姿が食堂から見えなくなるなり、ずっと張っていた緊張がウソのように解かれた。いつどうなってしまうのかも予測できなかった。

 少なくとも集中砲火を浴びて消し炭にされなかったことに俺は安堵した。

 それにしても、ズーカイは何を言い放とうとしたのか。

 俺は、俺たちは一体何を知らないっていうんだ。

 そしてズーカイは一体何を知っている。

 俺の腕の中で、プニカがようやく大人しくなる。シュンとしていて、今のこの凍てつくような空気を悟ったのか、いつもの無表情のプニカに見えた。

 そっと、手を放す。

「すみません、ゼクラ様。少々取り乱してしまいました」

 少々ではなかった気がする。よくよく見れば目も泣き腫らしている。いつの間にか泣いてたのか。そんな涙目になるほどのことだったのか。

 俺の耳が正常であるならば、プニカがモゴモゴ言っている間にも延々と性行為セックスだとか子作りだとか聞こえた気がする。そこに紛れるように、俺に対する愛の告白のような言葉さえ聞こえた。

 あまりに興奮しすぎて、きっと自分でも何を言っていたのか分かっていなかったはずだ。ここまでプニカがムキになるなんて思わなかった。

 プニカにとっての人類の繁栄とは、コロニー『ノア』を統括するコンピュータ、マザーノアからの指令でもあり、プニカ自身の願望でもある。

 子作りに励み、その身に子を成し、産んで、そして育てる。生物として当たり前の営み、育みを、プニカは生物でありながら経験したことがない。

 そんな当たり前を強く切望しているんだ。そこに嘘偽りなどあるわけがない。

 クローン法を改正して、製造の許可を得たことも不本意だったのかもしれない。それはプニカ自身が推奨されないことだと断言していた。

 ズーカイも悪気があってプニカの言葉を否定したかったわけではないと信じたい。きっと表情一つ変えず淡々と喋るプニカに感情を窺い知れなかったのだろう。

 プニカは初対面だとその見た目や言動で酷く冷徹な印象を与えかねないからな。日常的に傍にいると本当は中身はただの女の子だということが分かるのだが。

 キャナも同じような理由で、プニカを毛嫌いしている節はある。プニカのあの無表情から感情を読み取ることができないようだし。

「プニカ、ズーカイのことはどうか許してやってくれ。アイツは本当はそんなに悪い奴じゃないんだ。酒を飲むと言葉がはだけてしまうだけで」

「私はあの人、大嫌いです」

 きっぱりと言い切った。やはり相当頭に来たらしい。嫌いどころか大嫌いとは。プニカの口からそんな言葉が出てくるなんてな。

 表情からも不機嫌具合が見てとれる。もう完全に無表情じゃなくなっている。

「いやはや、とんだ交流会になっちゃったッスねぇ……」

 一部始終をその場で見ていたエメラが苦笑いで呟く。

 本当に酷い交流会だった。いや、交流会などと呼んでいいのかも分からない。

 俺はズーカイを大切な仲間として、この『ノア』に迎え入れたつもりだ。勿論、立場的にも状況的にも、相容れない、そんな空気ではあったが。

 それでも今の俺の仲間たちと少しの時間を共にして、『ノア』で過ごす俺のことを知ってもらいたかった。お互いの現状を知る機会だった。

 折角プニカが好意で設けてくれた場だったというのに、結果はご覧の有様だ。

 緊迫した空気は緩むどころかはち切れんばかり。和やかになるどころか、あのプニカがこんなにも怒りを露わにするほど。どうしてこうなってしまったのやら。

 それに、ズーカイの言葉。結局何が言いたかったのか分からず終いのまま、退場させられていってしまった。俺たちの知らない真実とは一体何のことなのか。

 また日を改めて、別な形でズーカイに聞くしかない。今度はちゃんとした交流会になることを願って。

 それにはまずプニカの機嫌をなおすところから始めなければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る